第27話 グレイ・バイアランの力

 久しぶりのベッドでゆっくり休んだ翌日、ロランは約束通りグレイを連れダンジョンに向かった。そしてそこでグレイはロランの力に驚愕した。


「ち、ちょっと待て! なんだこのダンジョンはっ!? 魔物のレベルがおかしいぞっ!!」

「え? まぁ……裏ダンジョンだし」

「あっ! 後ろっ!!」

「ん?」

《グゴッ!?》


 グレイに話し掛けられ振り向いた所に、背後から魔物が襲い掛かる。だがロランは後ろも見ずに魔物に裏拳一発、魔物は爆散した。


「こりゃあ確かに化け物だわ……。お前、レベルいくつ?」

「レベル? えっと……来る前は400だったかな」

「400!? 人間のレベルじゃねぇな。ってか出てくる魔物もヤベェ! なんなんだよ裏ダンジョンって……」


 ロランはダンジョンの仕組みを説明した。


「……なるほどな。しかし……ここ何階だよ」

「地下320階かな。仲間達も何階にいるかわかんないけど、それぞれ裏ダンジョンで修行中だよ」

「グロウシェイドは化け物の巣窟かよ……。ってか俺のレベルまでガンガン上がってんだが」

「パワーレベリングだよ。グレイの【覇気】ってさ、自分より弱い相手に効果絶大なんでしょ?」


 グレイはロランにギフトを詳しく話していた。


「まぁな。ガチでヤバい時はいつでも使えるように鍛えてたぞ」

「うん。だから例えばありえない位レベル上げたら弱い魔物がどうなるか試してみたくて」

「あん?」


 それからどんどん地下へと進み、グレイに覇気で一撃入れさせながら次々と魔物を屠っていく。


「なぁ、もうレベル200超えたんだが。ちょっと上がるの早すぎじゃね?」

「僕のギフトで通常の経験値が倍入ってきてるからだよ。今は二人だからソロで潜ってるのと変わらないんだ」

「……このレベルの魔物をソロで倒せる気はしねぇなぁ」


 それから一週間二人でダンジョンに通い、グレイのレベルを300まで引き上げた。アレン達は自力で潜っていたたが、グレイは短期間でアレン達を追い抜いた。


 そしてギフト【覇気】の真価を試すため、今度は地下一階から挑んでみた。


「ハァァァァァァァァァァァッ!!」

》》


 グレイが魔物に向け覇気を放つと、魔物は一瞬怯み、光となって消えた。


「ショック死したのかな?」

「マジか。俺のギフトってこんな使い方あったんだな」

「これで戦になったら無敵じゃない? 麻痺だけさせる所を……ねぇ?」


 グレイは腕組みをし考えた。


「お前……俺に戦をやらせる気だな?」

「うん。グレイなら奪われたものは自力で取り返したいかなって」

「はっ……、よくわかってんな。確かに金も欲しかったけどよ。やっぱやられっ放しはムカつくわ。裏切り者がは制裁が必要だ。まぁ、宰相は最初からエイズームの人間だったから正しくは裏切りじゃねぇかもしれねぇが」

「お金が欲しい理由も本当は違うんだよね?」


 グレイは頭をかきながらロランの問い掛けに答える。


「お見通しかよ。ああ、そうだ。戦の後は色々と金がかかるからな。バイアランの金は既に宰相に持ち出されてるだろうしな。国を取り返したとしても金がなけりゃなんもできねぇからな」

「うん。グレイはいい王様になりそうだね」

「ガラじゃねぇんだけどな。王様なんて面倒だし、好き勝手できるわけでもねぇしなぁ……」

「じゃあ好き勝手し始めたら僕がお仕置きしに行くよ」

「お前のお仕置きなんぞ受けたら骨も残らねぇな……」


 こうして鍛えあげる事二週間。ついにエイズーム帝国から正式にグロウシェイド王国に対して宣戦布告が出された。


「……ついにきたわね。皆、本当にできるのよね?」


 王城の会議室にロラン達が集まっている。それぞれが歴然の強者のような雰囲気を醸し出していた。


「開戦はいつですか?」

「二ヶ月後だ。場所はまたバイアラン帝国との国境近くにある平原だ。そこでお互いの国をかけて戦うのだそうだ」


 王はロラン達に向かい頭を下げた。


「すまん。我が国の国力ではとてもエイズーム帝国には敵わぬ。またお主達に頼る事になるが、これが最後だ。エイズームを倒してこの大陸から争いをなくそう。そのためにお主達の力を貸してくれ」


 それに対しまずアレンが口を開いた。


「俺──いや、私は家を出たとはいえ元はこの国の貴族ですから。国の危機に立ち上がるのは当然です。国王、私の力は国のために」

「ありがとう、アレン・ジャスパー」


 次にセレナが前に出た。


「私は……戦いは未だに苦手ですが癒す力では誰にも負けません。例え仲間達が傷ついても私が守り抜きます」

「ヒーラーがいてくれるのは心強い。本当ならば戦などしたくもないだろうに……、すまぬ」


 次にジェードが王の前で恭しく頭を下げる。


「ウチはマライアさんの部下っス。マライアさんが国を守れというならウチは力の限り戦うっス」

「うむ。その力……頼りにしておるぞ」


 ジェードの次にグレイが前に出た。


「初めまして。私がバイアラン帝国皇帝の息子、グレイ・バイアランです」

「そなたがグレイ・バイアランか。話は聞いている。無事戦が終わったあとはバイアランをそなたに返す。そして対等の関係での同盟を組む。間違いないか?」

「はい。加えて、私も戦に出ます。そのためにロランと修行しましたから」

「うむ。止めはせんが……死んでくれるなよ?」

「ははははっ、死ぬなどありませんよ。もはや帝国など恐るるに足りません。私が戦に行っている最中は妹の事をお願い致します」

「うむ。妹君はダニエルに保護させておく。心配いらぬよ」

「ありがとうございます」

 

 そして最後にロランが王の前に立った。


「ロラン……、そなたには迷惑ばかりかけるな」

「いえ、僕もグロウシェイド王国の国民ですから。国を……、大切なものを守るためならいくらでも尽力いたします」

「ははっ、国民の鏡だな。ロランよ、この戦を乗り越えたあかつきにはそなたに褒美を与える。私の娘などどうだ?」

「……はい?」


 その言葉にマライアがいち早く反応を示した。


「ちょっと? 冗談もほどほどにしてもらえませんかねぇ~?」

「か、顔が怖いぞマライア」


 マライアは笑みを浮かべたまま目で怒りを訴えていた。


「ロランは私の執事ですから。婿入りさせて王にしようとしても無駄ですからね?」

「むぅ……っ、良いではないか! 私には男児がおらんのだ!」

「知らないわよ。貴族の中から選べば良いじゃない」

「……正直、ロラン以上の人物が見当たらんのだ。まぁ、強制はせんが一度娘達三人と会って欲しい」


 ロランは少し困った表情を浮かべマライアを見た。


「……会食だけよ。婿入りとかは絶対にナシ。それなら良いわ」

「うむ。ではロランよ」

「はいっ」

「この国の未来をそなたに託す。私は本陣からそなた達の活躍を見させてもらうぞ?」

「はいっ! 本陣には一切敵を近付けさせませんから。なぁ、グレイ?」

「ああ。俺とロランだけでも十分なくらいだ」

「なに?」


 ロランとグレイのやり取りを見てアレンが少し不快感を見せた。


「ロラン。グレイとやらは強いのか?」

「うん。大規模戦なら誰よりも強いかも」

「ほう? グレイとやら」

「あん?」

「お前には負けん。ロランの隣に立つのは俺だ」


 それを受け、グレイはアレンに向かい拳を突き出した。


「今回俺はゲストだ。ロランの隣はお前で良い。戦が終わったら酒でも飲もうや」

「……ああ」


 アレンはグレイと拳を合わせ頷いた。そして国王が立ち上がる。


「よし! ではこれより平原に向かう! この国を守り抜くぞ!!」

「「「「「はいっ!」」」」」


 それから一ヶ月かけ、お互いの国が平原に陣を敷き全ての戦力を集中させた。平原はほぼエイズーム帝国の兵士で埋め尽くされている。そしてエイズーム帝国の前衛には元宰相率いるバイアラン帝国の兵士が立っている。どうやら元宰相は兵士も買収していたらしい。


 そしてグロウシェイド王国の前衛にロラン達五人が立つ。五人は国王と共に平原の中央へと向かい、エイズーム帝国皇帝と対面する。そこにバイアラン帝国の元宰相もいた。


 

「おやおや、これはグレイ殿下。生きておられましたか」

「テメェ……、よくも親父を殺ってくれたな。この借りは倍で返せないからよ?」

「はて、何の事やら。こちらの大軍を見て狂われたのですかな?」

「大軍? ゴミはいくら集まってもゴミでしかねぇ」

「なんですと?」


 憤る元宰相をエイズーム帝国皇帝が止める。


「止めんか見苦しい。ゴミと言われて憤るなど自らをゴミと示しているようなものだ」

「はっ!」

「我らはこの大陸で最も強い国だ。遊び相手にも困るほどのな」


 そう言い、エイズーム帝国皇帝はグロウシェイド王国国王にこう告げた。


「勝った方が総取りだ。異論は?」

「ない」

「そうか。なら明日正午、太陽が真上に昇った時を開戦の合図とする。お互いの全てをかけ、正々堂々戦おうではないか」


 グロウシェイド王国軍およそ二百万。対してエイズーム帝国軍はバイアラン帝国軍を含み、およそ二千万。これで正々堂々と言いきるのだから大したものだ。


「よく言う。十倍もの兵力差を見せつけながら正々堂々とはな」

「ふん、数も力だ。その数を揃えられぬからお前らは負ける。何なら今から頭を下げるか? 今なら貴様らの首だけで許してやるぞ?」

「それはこちらのセリフだ。謝るなら今の内だぞ。開戦したら一方的な展開になるだろうからな」


 そこで皇帝はバイアラン帝国を一人で撃ち破った人物を思い浮かべた。


「単独で十万の兵を殺った英雄を頼るのか? だが今回は二千万だ。その英雄とやらは果たして生き残る事ができるかな?」

「始まればわかる。もう話す事はない。さらばだ。行くぞロランよ」

「はっ!」


 そうして国王達は自陣に引き上げていった。


「あの若いやつだな。確かに強そうだが……我がエイズームの敵ではないだろう。つまらんな」


 そう落胆を見せ、エイズーム帝国皇帝も自陣へと戻っていくのだった。

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