第26話 宣戦布告まで
ロランは二人を連れ、ダンジョンではなくマライアの屋敷へと戻った。
「戻りました~」
「あら? ロランもう帰っ──ロラン!」
「わわっ!?」
マライアは突然ロランの腕を引き胸に抱えた。
「わずかに見えたわ。そこの二人! バイアラン帝国の者ね!」
「むぐぐぐぐぐ……!?」
グレイはフードを外しマライアに言った。
「確かにそうだけどよ……、そいつ死ぬぞ?」
「へ? あっ、ロラン!?」
「きゅう……」
ロランはマライアの胸に埋まり窒息状態に陥っていた。
「やれやれだな。俺はグレイ・バイアラン。バイアランの元皇子だ。こっちはクリス・バイアラン。元皇女な」
「元? エイズームの属国にはなったけど国はまだあるじゃない」
「国は元宰相に盗られちまったんだよ」
「……は?」
「俺達も暗殺されかけてな。ま、返り討ちにしたがよ」
「そ、その話、詳しく聞かせなさい!」
「茶は出るんだろうな?」
マライアは二人を屋敷の中に通し詳しい話を聞いた。
「そう。皇帝は宰相に毒殺され、国も宰相に盗られたのね。そして皇帝の血筋であるあなた達がいては自分が皇帝になれないため、追放して殺しにかかった。……はぁ、クズね」
「ああ、そう思うよ。ってか茶が美味ぇな!?」
「それはそうよ。煎れたのは私の執事、ロランだもの」
「あ? 執事だ? 兵士じゃねぇのか!?」
「あ、よく見たら執事服着てます──です」
ロランは二人におかわりの茶を注ぎマライアの後方に控える。
「あはは、僕の本業は執事なんですよ」
「んなアホな……。執事が十万もの兵を破ったってのか!? 悪い夢でも見てるのか俺ぁ……」
そして話は戻る。
「それであなた達はどうやってロランと知り合ったの?」
「んあ? そりゃあ俺達に金がないからだ。ダンジョン探してさ迷ってた所でそいつに会ったんだ」
「そう。会ったのは偶然なのね」
「ああ。裏なんてありゃしねぇよ。会ったのは偶然だ」
マライアは真っ直ぐグレイを見る。
「それで、あなた達の目的は何? まさか保護して欲しいってわけでもないわよね?」
「保護なんて必要ねぇよ。俺は自分の国を取り戻してぇ。そんな時そいつと会ってな。エイズームを倒した暁には俺達にバイアランを返してくれるって言うじゃねぇか」
「ロランが? はぁぁ……、そんな勝手な真似できるわけないでしょう?」
「す、すみません。これは僕なりの罪滅ぼしで……」
「罪滅ぼし……? ああ、なるほど。そっちの二人、上手くロランをたらしこんだわね」
「んなつもりはねぇよ。そいつが言い出したんだ。俺は何年かかろうが必ず国を取り戻す。どんな手を使ってもな」
それを聞いたマライアはあらゆる可能性を考え、やがてこう口にした。
「わかったわ。もしエイズームを倒す事ができたらバイアランはあなた達に返す。けどただじゃ返せないわ」
「あん? 金ならねぇぞ」
「金なんていらないわよ。バイアランを返す代わりにグロウシェイドと同盟を結びなさい」
「割合は?」
「対等」
マライアの言葉を聞いたグレイはニヤリと笑った。
「悪くねぇ条件だ。俺としても化け物がいるグロウシェイドと戦はしたくねぇ。だがよ、あんたにそんな事を決める権限あんのか? 見たとこ貴族っぽくは思うが」
「私は貴族じゃないわ。この国の裏を仕切ってるだけ。国王とは昔の冒険者仲間よ」
「なるほどな。ならその条件飲むわ。無事に俺達の手にバイアランが戻ったあかつきにはグロウシェイドと同盟を結ぶ」
「ならそれで王に報告するわ。あなた達は戦が終わるまでここにいなさい。まぁ、まだ戦が始まるかどうかはわからないけど」
「いや、戦は必ず始まるさ」
「なぜ?」
「宰相からエイズームの皇帝にグロウシェイドの話が伝わるからさ。エイズームは最近戦相手に困っているらしくてな。一人で十万も退けられる化け物がいると知ったらすぐにでも宣戦布告してくるだろうよ」
「全く……、あの爺は……。もういい歳なんだから黙って死ねば良いのに」
「ありゃ殺しても死なねぇな。それこそ死ぬまで戦い続ける戦闘狂だ」
こうして二人の身柄はマライア預りの身となった。だがグレイは屋敷で大人しくしている気などなかった。
「なぁ、俺もダンジョンに行っていいか?」
「はぁ? ダメに決まってるでしょう? あなたの身に何かあったらどうするのよ」
「妹がいれば良いだろ。じっとしてるの嫌いなんだよ」
「我が儘ねぇ……。ロラン、その我が儘皇子の面倒よろしく」
「僕ですか!?」
「あなたが拾ってきたんだから当たり前じゃない。世話できないなら拾ってきちゃダメよ?」
「俺達ゃ犬猫か!?」
「犬猫のほうがまだ可愛げがあるわよ。あ、クリスちゃんは私と一緒にいましょうね~」
「あ、はいっ、です」
クリスは可愛らしい女の子だった。マライアのお気に入りリストに加わるのも秒読みだろう。対してグレイは身長もでかく目は吊り上げっている。とにかくいかつい感じだ。口調も皇子とは思えないほど悪い。
そんなグレイがどんな力を持っているか気になり、ロランはストレートに尋ねてみた。
「ところでさ、グレイってどれくらい強いの?」
「あん? そうだな。俺のレベルは120だな」
「お、なかなか高いね」
「で、ギフトは【武神】だ」
「武神?」
「ああ。あらゆる武器や武技を使いこなせるようになるギフトだ。ただし、人より習得が早いだけで訓練しなきゃ宝の持ち腐れだがな」
「へぇ~。一番得意なのは?」
「槍だな。帝国で一番の槍使いだったんだぜ?」
「槍かぁ~、リーチ長いから剣だと戦いづらいんだよね」
「ははっ。あとはギフト【覇気】だな」
「覇気?」
「おう。自分より弱い奴に使うと震え上がって気絶させちまうんだ」
「威圧みたいな?」
「ま、威圧の上位みたいなもんだな」
「なるほど。それ、強くなったら無敵じゃない?」
グレイは首を横に振った。
「いや、【冷静】【状態異常無効】【不動心】のようなギフトを持ってる奴には効かねぇんだ」
「そっか。とりあえず力はわかったよ。明日からダンジョンに行くから今日はゆっくり休んでね」
「ああ。正直野宿に飽き飽きしててよ。助かるわ。じゃあ明日な」
「うん」
グレイ達は久しぶりのベッドで泥のように眠るのだった。
そしてマライアはその日の内に国王へと手紙をしたため、早馬を走らせた。
「ふむふむ……ダニエルよ」
「なんでしょう?」
「なんかの……マライアの所にバイアラン帝国の皇子と皇女がおるらしいぞ」
「……はい?」
「どうやらロランが拾ってきたらしい。しかも暗殺さるかけていたらしいぞ」
「……いやはや。では皇帝交代の件も……」
「うむ。なにやらキナ臭くなってきたのう」
国王は手紙を放り投げた。
「なぁダニエル」
「なんでしょう?」
「私の代……問題が多すぎやしないか?」
「はて、気のせいでは?」
「……気のせいなわけあるかっ!? 現に私は死ぬほど忙しいのだっ! はぁぁぁ……、なぜ一度にこんなにもトラブルが舞い込むのだ……」
ダニエルは緊急時のため、執事ではなく国王補佐として復帰していた。
「国王、逆にこう考えては?」
「なにをだ」
「今度もまたロラン君が何とかしてくれるでしょう。そして聞いた話ですと今度はアレン君、セレナ君、そしてジェードが戦いに参加するようです。現在三人ともレベル200を超えておるそうです」
「そ、そこまで強くなっておるのか」
「はい。そして今バイアラン帝国の皇子、皇女がこちら側につきました。エイズーム帝国さえ倒してしまえば全て片付きます。ここが最後の踏ん張り所ですよ」
「なるほど……。エイズームさえ倒せば後は……っておいっ! その後の統治は誰がやるのだ!」
「それはもちろんあなたですよ」
「……結局仕事が増えておるではないかっ!?」
執務室に王の叫びがこだまするのだった。
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