第24話 帝国、吸収される

 鍛練を続けて半年が過ぎた。三人は無事にボス部屋を攻略し、富ではなく更なる強さを得る道を選択した。だが、今考えてみると更なる強さを選択した方が得られる富が多いのではと思う。考えるに、これはダンジョンからの試練なのかもしれない。富を選択するような者は挑戦する資格なしとダンジョンが判断するのだろう。


 そしてロランの家族も養成校に入学して半年。父親と母親はそれなりの形になっていた。だが妹のリリーだけはどうにも勉強より友達と遊ぶ方に重きをおいているようで、思ったより成長はしていなかった。


 そして今日はその妹が儀式を受ける日だ。


「じゃあロラン、リリーを神殿に連れていってくるわね」

「うん、いってらっしゃい。リリー、良いギフトがもらえると良いね」

「うんっ!「行ってきま~す」


 リリーは母親に手を引かれ神殿へと向かっていった。


「ロラン、少し剣の相手を頼めるか? 今度実技の実習があってな……」

「僕と? い、良いけど僕じゃ参考にならないかも」

「なぜだ?」

「いや、その……。僕のレベル今400なんだよね」

「っとぉぉぉっ! 誘う相手間違えたわっ! クラスの奴と模擬戦してくるわ!」

「行ってらっしゃ~い」


 半年ソロで裏ダンジョンに潜り続けた結果、ロランの力は人外級にまで上がっていた。ロランには三人と違い、ギフト【取得経験値倍化】がある。ロランの成長率は常人の倍速い。三人とのレベル差は開く一方だった。だがその三人もすでにダニエルを優に超え、今や王国最強の力を有している。


 そしてこの先もこんな生活が続くのだと思っていた矢先、マライアの所に不穏な報せが入った。マライアは夜に詳しく話すと言い、自室に籠った。


 そんな事があったが、同日正午。儀式を終えたリリーが屋敷に戻ってきた。


「ただいまぁ~……」

「お帰りリリー。ん? 元気ないね、どうしたの?」


 リリーは明らかに沈んでいた。そんなリリーの代わりに母親が理由を口にした。


「リリーのギフトがね、【鑑定士】だったの」

「鑑定士? え!? 鑑定士!? 凄いじゃないかリリー!」

「えぇ~……。どこが凄いの? 何の役にも立たないじゃないの~」

「そんな事はないよ。ある意味メイドをする上で一番重要なギフトかもしれないよ」

「なんで?」


 ロランはリリーにもわかるように鑑定士の凄さを語った。


「そうだなぁ、まずは料理だ」

「料理?」

「そう。料理を鑑定したら毒が入っているかわかるし、どうやって作るかもわかるだろ?」

「そうなの?」

「うん。それに、主人に贈られてきたプレゼントが本物か偽物かもわかるし、人物鑑定すれば敵か味方かもわかる。鑑定士は貴族に引っ張りだこなギフトなんだよ」

「へぇ~……私って凄いの?」

「凄いよ、大当たりだよ! しかも鑑定士のギフトは鑑定を繰り返す事で性能が上がるから魔物と戦う必要もないし。安全にお金を稼げる人気職なんだよ」


 そこまで説明し、リリーはようやく機嫌を治した。


「そうだ! お兄ちゃんアイテムいっぱい持ってるよね!? 私が鑑定してあげるよっ」

「あ~、良いね! 僕じゃわからない物が多いからリリーに色々見てもらおっかな」

「まっかせて!」

「ふふっ、やっぱりお兄ちゃんね~」


 そうほっこりしたのも束の間、夕食後にロラン達四人はマライアの自室に呼ばれ、そこで衝撃を受けた。


「みんな、よく聞いて。バイアラン帝国が吸収されたわ」

「「「「え?」」」」


 ジェードがマライアに尋ねた。


「どこにっスか?」

「【エイズーム帝国】よ」

「マジっスか! バイアラン帝国より苛烈な国じゃないっスか! エイズーム帝国といったら残虐非道、悪逆無比、滅ぼした国は数知れず……、北の覇者じゃないっスか……」

「そうよ。バイアラン帝国は自らエイズーム帝国の属国に志願したらしいわ」

「な、なんでまた……」


 マライアはロランを見て言った。


「前回の戦で一方的に負けたからよ」

「え?」

「前回バイアラン帝国はなにもできずに十万もの兵を無駄にしたわ。そこでグロウシェイド王国には敵わないと自覚したのでしょう」

「ぼ、僕のせい?」

「……そうね。一方的に勝ちすぎたのよ。帝国はプライドを捨て、より大きな国の庇護下に入ったわ。そして今度は前回以上の戦力で攻めてくるはず……。いくらあなたが強くてもさすがにエイズーム帝国の相手は無理よ」

「……」


 ロランは言葉が出なかった。守るべき者のために力を振るったはずが、さらに大きな厄災を呼び込んでしまった。


 だが、沈黙するロランを他所に、ジェードは余裕を浮かべていた。


「マライアさん、心配無用っスよ」

「え?」

「今度はウチらも出るっス」

「は、はぁ? 何言ってるの?」


 ジェードの言葉にアレンとセレナも続く。


「そうだな。今度は俺達もいるし余裕だな」

「うんうん。そのために半年も修行したんだし。今度はロラン一人じゃなく、私達四人で敵と戦うわ」

「バ、バカな事言わないで! たった四人で何ができるって言うの!? 相手はこの大陸の北を支配しているエイズーム帝国なのよ!?」


 焦るマライアに対し、三人は至極冷静なままだった。


「そんなもの……裏ダンジョンのS級魔物の群れに比べたらなぁ……」

「拍子抜けっスね。秒で倒せるっスよ」

「新しい装備も沢山手に入ったしね。特に私達より先に進んでるロランなんてそろそろ神話級の武具とか拾ってるんじゃない?」

「え? さ、さあ……。とりあえず拾った物は全部そのままマジックバッグに放り込んであるけど……」


 そしてセレナが言った。


「敵は百万? 二百万? それとも一千万かしら? 今の私達ならどれだけ来ても負けない力がある! ロラン!」

「は、はいっ!?」

「相手が身の程を弁えずにまた喧嘩売ってくるなら、もう二度と喧嘩を売りたくならなくなるようにしちゃえば良いだけよ! 北の覇者とやらもまとめて倒し、この大陸をグロウシェイド王国が統一しちゃえば良いのよ」

「な、なるほど?」


 マライアは盛大に溜め息を吐いた。


「はぁぁ……、戦うのはあなた達だとして、誰が後始末するのよ。国王ハゲるわよ」

「髪の毛を犠牲に大陸が統一できるなら万々歳じゃないですか。こっちは売られた喧嘩を買うだけです! さあ、戦の宣言まで引き続き修行しましょう!」

「そうだな。今度も圧倒してやろうロラン。悩む事などない。理不尽には力の限り抗え。そのために俺達仲間がいるんだ。協力してエイズーム帝国を撃破しよう」

「セレナ……アレン……。うんっ、やろう! 僕達は強い! マライアさんっ!」

「な、なにかしら?」


 ロランはマライアに迫りこう言った。


「エイズーム帝国から宣戦布告がきたら教えて下さい。今度は俺だけじゃなく、ここにいる四人でこの国を守ります! そして戦のない国を作りましょう!」

「ち、近いわロラン……」

「マライアさん!」


 マライアは顔を真っ赤にし折れた。


「わ、わかったわよっ! 私から王に話を通しておくわっ。だからあなた達の今の力を私に教えなさい」

「「「「はいっ!」」」」


 その後、四人の力を知ったマライアは絶句し、急ぎ国王へと手紙をしたためるのだった。

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