第19話 会談も終わり
突然くだけた様子になった王はロランに言った。
「当時の私は王子という立場にありながらも城を毎日抜け出しては冒険に勤しんでいたのだよ」
「は、はぁ……え? 冒険?」
「うむ。私は元冒険者だ。そして二人にはダンジョンの中で出会い、それから仲良くしておるのだよ」
その言葉にマライアが笑った。
「こいつ、ソロでダンジョン潜って死にかけてたのよねぇ~」
「あ、こら! バラすでない!」
「確かに。装備は上等でしたが……技術は下の下でしたからねぇ」
「誰が下の下だっ! 下の上くらいはあったわ!」
どうやら王は弱かったらしい。
「確かに私は弱かった。赤い稲妻マライアと白い閃光ダニエルにくら──うっ!?」
二人が王の喉元にナイフを突きつける。
「あらあら~? もうボケたのかしらぁ~?」
「そのようですな。ここらで王の座を子に譲った方がよろしいかと」
「ふ、不敬だぞお前らっ! 玉座の間で王を脅すとはっ!?」
「あら、今は駆け出しビリーとして話したんでしょ?」
「そうですな。今は今、昔は昔。ならば私達も昔に戻りますが?」
「……すまん」
王の謝罪で二人はナイフを引いた。
「あの……三人とも冒険者だったのですか?」
「昔の話よ。今はもう引退してるわ」
「私もです。冒険者として活動したのは数年でした。ああ、アリエル学長もです。彼女が私達のリーダーだったのですよ」
「へぇ~……」
当時ダニエル、マライア、アリエルは王国最強のパーティーとして名声を欲しいままにしていたらしい。たった三人で竜を討伐した事もあるのだとか。だがその活動期間は短く、ある日突然解散した。
「アリエルは今でこそ学長ですが、当時は貴族のご令嬢でしてね。私はアリエルの執事だったのです」
「学長の執事だったんですか?」
「はい。アリエルは今の養成校を作るために冒険者の道に足を踏み入れたのです。まぁ、親の言いなりでの結婚が嫌だったという理由もありましたが」
「ちょっと! 何バラしてるのダニエル!」
「おや?」
突然扉が開きアリエルが乱入してきた。
「学長?」
「卒業式以来ね、ロラン。それより……ダニエル! その話は誰にも言わないでって言ったでしょ!」
「ほっほ。始まりは王からなので」
「ひっ」
アリエルは瞳をギラつかせ王を睨んだ。
「ビートリード・グロウシェイド。初めておねしょした年は──」
「や、止めてくれぇぇぇぇっ! 私が悪かった!」
王は玉座から降り土下座した。
「まったく。ロラン、これがこの国の王よ。普段は偉そうに威張り散らしているけどね。こんな奴のために命を張るなんてバカな真似したわね」
「いえ……」
ロランはアリエルに言った。
「僕は全てを守りたかったんじゃなくて、僕と仲間、それにマライアさんを守りたかっただけで」
「ふ~ん……。赤い稲妻ももう守られ──」
「ア~リエ~ル~? 死にたいの?」
「できるの? 私強いわよ?」
「やれやれ……」
とても仲良しな四人だった。話はぐだぐたになったが、最後に王からロランにこう助言があった。
「ロランよ、例えどんなに強かろうと一人でできる事など僅かしかない。仲間を頼るのだ。私達も老いたとはいえまだまだ戦える。国と国の戦いは私達に任せ、お主は自らの人生を良きものにしてくれ。これが王である私からの言葉だ」
「はいっ! しかと心に!」
「ふっ、では褒美をとらせようかの」
そう言い、王は手を二回叩いた。すると再び扉が開き、四人の人物が玉座の間へと連れてこられた。
「ロランッ!」
「と、父さん?」
「あぁぁ……ロランッ!」
「母さんっ!」
「お兄ちゃんっ!」
「リリー! あぁぁ……見違えるように成長して……!」
最後の一人は知らない人間で、なぜか両手を縛られていた。王はロランに声を掛けた。
「ロランよ、その男こそお主の父親を騙し借金を背負わせた元凶だ」
「えっ!?」
「し、仕方なかったんだっ! 俺にも家族があったし、虹金貨三枚なんてとても払える額じゃなくて!」
その訴えに父親が怒りを見せた。
「俺はお前のダチだ。だが勝手に名前は使う事を許した覚えはないっ! しかもまだ嘘を吐くのかっ! お前に家族などいないだろうがっ! お前のせいで俺達家族はバラバラに──」
「っせぇな! ああそうだよ、俺が全部悪いんだよっ! 煮るなり焼くなり好きにしたら良いじゃねぇか! 借金はそこの英雄様が帳消しにしてくれたしな!」
「貴様っ!」
「静まれぇぇぇいっ!」
「「うっ」」
王の怒声が玉座の間に響き渡る。
「ロランよ」
「は、はい」
「どうするかはお主が決めるのだ」
「僕が?」
「うむ。今の生活から戻り再び家族と暮らすか、そこの愚物に裁きを与え過去を精算するか、はたまた今の生活を続けるか。お主が決めよ」
ロランは男を見た。男は開き直り全く反省した態度を見せてはいない。ロランは少し悩み、王にこう言った。
「陛下」
「なんだ?」
「男は借金奴隷にして下さい」
「ふむ。家族は?」
「僕の家族は……マライアさん」
「なに?」
「屋敷、広すぎて手が回らないんですよね。これから三人連れてダンジョンに行く日も増えるし、できたら屋敷で働かせてもらえませんか?」
マライアはロランの家族を見て言った。
「良いわよ。ただし、三人ともアリエルの学校で執事やメイドについて学んできたらね」
「はい、構いません」
そしてロランは家族に言った。
「父さん、母さん、そしてリリー。勝手に決めちゃったけどこれで良いかな? もし嫌なら断ってくれても構わないから」
「いや、お前を置いていった俺にどうこう言う資格などないだろう。俺は農業しかできないが……またお前と暮らせるなら執事にでもなってやるさ」
「わ、私は大丈夫よ。ずっとあなたを置いていった事を後悔してたの……っ。また一緒に暮らす事を許してくれてありがとうっ、ロランッ!」
「私もメイドになるの? まだギフトもらってないのに? できるかなぁ……」
妹はまだ儀式前で将来も決まっていない。何ができるかもまだわからない年齢だ。
「リリー、ギフトなんてなくても頑張れば何でもできるようになるよ。お兄ちゃんも協力するから頑張ってみない?」
「うん、わかった! お兄ちゃんが言うなら頑張ってみるっ!」
「ロランッ! 済まなかった!」
「あぁ、ロラン……ッ!」
こうして家族は再び一つの場所で暮らす事になった。そして父親を騙した男は借金奴隷となり、国が運営する鉱山送りとなった。
「ジェード、三人を屋敷に送ってちょうだい」
「はいっス。じゃあ行きますよ~」
「また後でな、ロラン」
「うん、気をつけて」
「またね、ロラン」
「また後でね~お兄ちゃんっ」
三人はジェードが馬車で屋敷へと連れていった。そしてロランとマライアは。
「さ、ロラン。全部片付いたし町に行きましょ。観光するって話だったものね」
「あの……腕を組む必要があるんですか?」
「迷子にならないためにね? ほら、行きましょ」
「わわっ、引っ張らないで下さいよ~!」
マライアはロランの腕に抱きつき城を出た。
「……マライアのあれは本気なのかいつもよくわからんな」
「だいぶお気に入りのようですねぇ」
「昔から可愛い男の子が好きだったものね。でも……ロランなら私も欲しいかも。ちょっと私も行ってくるわ!」
そう言い、アリエルは二人の後を追いかけた。
「あのアイアン・メイデンもついに相手を見つけたか」
「ほっほ。遅咲きの青春ですねぇ。赤い稲妻と鋼鉄の処女に目をつけられたロラン君はこれから大変ですなぁ」
「いっそ私の娘もやるか。婿入りさせて王にでも……」
「あなたの子は娘ばかりですからねぇ。しかし、強制は感心しませんよ?」
「強制などせんわ。私が一番嫌いな事だからな」
「そうでしたねぇ。いやはや……ロラン君は人気者ですな。ほっほ」
こうして王との会談は終わり、ロランはマライアと町に繰り出すのだった。
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