第20話 観光

 町を出たロランは右腕をマライアに抱かれ、合流したアリエルに左腕を抱かれながら町を歩いていた。


「なんだあの野郎……両手に華かよ! 羨ま死ねッッ!」

「くそうッッ! 爆発しろォォォッッ!!」

「あれ、でも何か雰囲気悪い気が……」


 マライアとアリエルはロランを挟みバチバチと火花を散らしていた。


「ちょっとアリエル? 私達の時間を邪魔しないでもらえるかしら~?」

「そちらこそ。ここは私にとって庭のようなもの。案内は私に任せて自分の町に帰ったら?」

「何言ってるの? ここは私の活動拠点、目を瞑っても歩けるわっ」

「それはもう昔の話でしょ? いつまでも昔のままなわけないじゃない。あなたもそろそろ曲がり角ではなくて?」

「な、なんですって!? あなたこそ身持ちが固すぎて塞がってるんじゃなくて?」

「塞がるわけないでしょ!? 下品な女ね!」

「ふ、二人ともその辺で……」


 ロランを巡り女のバトルが繰り広げられていた。


「ふんっ、男に興味がなかったあんたがいったいどういう風のふきまわしかしら?」

「別に興味がなかったわけじゃないわ。私に釣り合う男性がいなかっただけよ」

「年考えなさいよ。ロランとあなたじゃ釣り合ってないわ」

「あなたも私と同じ年でしょ!? 自分だけ若いつもり!?」


 二人はアラサーだ。どちらもすでに結婚し子を授かっていてもおかしくない年齢だ。この世界では二十歳ですら晩婚といわれる。対してロランは十七歳だ。そろそろ結婚を考えても良い年頃だ。


「私は若いわよね~ロラン?」

「へ? は、はい。肌もスベスベでシワもありませんし」

「そうよね~。ロランったら私の世話をしながらいつも顔を真っ赤にしてたものね」

「あ、あんたロラン君に何させてんの!?」

「さぁて何かしらね~? 主人の特権かしら?」

「な、なんて事を……! ズルいわよっ!」

「ロラン、屋敷に戻ったらまた毎日お世話してもらうからね?」

「は、はい。恥ずかしいですが頑張りますっ!」

「むぅぅぅ……っ! 二人とも不潔よっ!」


 何を世話しているかは想像に任せよう。


「それより喋ってたら喉が渇いたわが。どこかカフェに入りましょ」

「そうね。三人がけのベンチがあるオープンカフェが良いわ」

「はははは……」


 三人がけ。つまり席についても二人は離れる気がなさそうだ。


 それから三人は表通りにあったオープンカフェに入り、道行く人々が引くくらいイチャイチャをばら蒔いた。


「はい、ロランあ~ん」

「あむっ……美味しいですマライアさん」

「ロラン君、次はこれ飲みましょ」

「は、はいアリエル学長」

「アリエルって呼びなさい。さ、一緒に飲みましょ」


 マライアとは一つのスプーンで食べさせあい、アリエルとは一つの飲み物を同時に飲まされた。こういった経験が皆無だったロランは終始顔を真っ赤にしていた。


 そんな時だった。突如通りに女性の叫び声が響いた。


「ひ、ひったくりよぉぉぉぉぉっ!! 誰か捕まえてぇぇぇぇぇぇっ!」

「あ──」


 ロランは向かってくる男に飛び掛かろうとしたが、左腕に抱きついていたアリエルが向かってくる男を指差し呟いた。


「邪魔するんじゃないわよっ! 【チェイン】!!」

「んごぉっ!?」


 走っていた男の両足に光のリングが現れ拘束した。男は勢いそのまま、顔面から地面に転倒し、数メートル地面を滑っていった。よく見ると両手も後ろ手に拘束されていた。


「こ、これは酷い……。めちゃくちゃ痛そうだ……」

「全く……治安が悪いわね。ゆっくりお茶もできないのかしら」

「真っ昼間からひったくりとはねぇ。王都は危ないから帰りましょうか?」

「そうね。馬車を手配しましょう」


 転んだ男はピクリとも動かず、ひったくりにあった女性が財布を回収し、やがて警備兵に連行されていった。


「光の拘束魔法ですか。さすがアリエルさんですね」

「アリエルは昔アイアン・メイデンって呼ばれてたのよ」

「な、何を言い出しますの!?」

「異性と良い雰囲気になりかけても縛りが強すぎてねぇ~……、ついた渾名が鋼鉄の処女。独占欲が強すぎるのよね~」

「う、ううううるさいっ。駆け抜けたあとを真っ赤に染め上げる赤い稲妻には言われたくないわっ!」

「わ、わかりましたから二人とも落ち着きましょ!? あ、ほら! 警備の人が来ましたから!」


 男を連行しにきた警備兵の一人が慌ててロラン達の所へと駆け寄ってきた。


「お手数おかけしましたっ、アリエル殿っ!」

「……良いからさっさと行きなさい。私の貴重な時間をこれ以上邪魔しないでくださるかしら?」

「も、もももも申し訳ありませんでしたぁぁぁっ! 最近あのような輩が増えてますのでお気をつけ下さいっ! で、ではっ!」


 警備の男は慌てながら全速力で離れていった。


「最近増えたって……何かあったんですかね?」

「マライア、何かあったの?」

「……さあ。裏の連中は私が管理してるし、モグリか他所から入り込んだか……。何にせよ許せないわね」

「そうね、許せないわね」

「へ?」


 そう言い、マライアとアリエルが席を立った。


「ロラン」

「は、はいっ」

「少し席を外すわ。あなたは宿で待ってなさい」

「え?」

「大丈夫よ。ここは私達の庭だもの。庭に入り込んだ害虫は駆除しなきゃ。誰の庭に入り込んだか教えてあげなきゃ。アリエル」

「ええ。ロラン、あなたは引き続き観光を楽しんでてね? ん~……」


 突如アリエルの口唇が迫ってきたが、寸での所でマライアにより阻止された。


「何をしとるかっ! 行くわよアリエル!」

「もうちょっとだったのに……!」

「は……ははは……はぁ……」


 ロランはいがみ合いながらも離れていく二人の背中を見守るのだった。

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