第18話 王
馬車での移動中、ロランはジェードに忍について色々と尋ねた。
「忍とは……この大陸でいうアサシンのようなものっス。けどアサシンと違う点は忍の方がもっと色々できるんっスよ」
「例えば?」
「う~ん……こんなのはどうっス? にんにんっ!」
ジェードが両手で印を組むと煙が立ち上がり、その煙が晴れると姿が変わっていた。
「マライアさん!? え? マライアさんが二人!?」
「にしし。これも忍の技の一つっス。これは【変化】という技で、様々な人の姿に変化できるんっスよ~」
「す、凄い!」
「他にも壁や天井を歩いたり、知ってる場所に一瞬で飛べたりするっス」
「こら、あまりバラさないの! あなたのギフトは希少なんだから」
「良いじゃないっスか~。どうせウチ、ロランさんの仲間になるんっスから」
「え?」
ロランは驚きマライアを見る。
「ロラン、あなたは無茶が過ぎるようだからね。国王との用事が済んだらジェードをあなたの見張りにつけるわ」
「見張りって。マライアさんの警護は良いんですか?」
「心配いらないわ。部下は他にもいるもの。それよりあなたが心配なの」
「うっ……。す、すみません」
ジェードは再び印を組み元の姿に戻った。
「ってわけで~、ウチはロランさんの下につくっス。戦闘から情報収集、トラップ解除から索敵までウチに何でもお任せっス~」
「トラップ解除か~。それは嬉しいかも。ダンジョンにある宝箱って稀にトラップが仕掛けられてるんだよね。僕じゃ開けられなかったから放置してたけど」
「もったいないっスね~。なら次ダンジョンに行く時はウチもついて行くっス。あの二人を鍛えるんっスよね?」
「うん。罪滅ぼしのためにね。あ、ちなみにジェードのレベルは?」
「ウチは120っス」
「なかなか高いね」
「職場がブラックっスからね~」
「どこがブラックだって? ん~?」
「な、何でもないっス!」
それから馬車は順調に進み、途中宿場町で休みつつ二日後、馬車は王都に入った。
「うわ~……王都って凄く賑やかですね~」
「ふふっ、ロランは王都初めて?」
「はいっ! 自分の住んでた村とマライアさんの町しか知りません」
「そう。なら用事が済んだら少し観光して行きましょうか」
「良いんですか!?」
「ええ。この賑わいはあなたが守ったものですもの。自分が何を守ったかゆっくり見ると良いわ」
「──っ、はいっ!」
馬車は町の中を走り、そのままゆっくりと王城に向かう。そしてそのまま城へと続く門をくぐり、巨大な門の前で停車した。
「……あっ! ダニエル先生っ!」
扉の前にダニエルの姿を見つけたロランは勢いよく扉を開き馬車から飛び出した。
「ダニエル先生!」
「ほっほ。元気そうで何よりですね、ロラン君」
「は、はいっ! あの……先生はなぜここに?」
「それはもちろん……君を捕まえるためですよ」
「え? つ、捕まえる? そんなっ!」
するとダニエルは目を細めて小さく笑ってみせた。
「と言うのは冗談でして」
「……へ?」
「君を王の前へと案内するために待っていたのですよ。何せ君は私の生徒ですからねぇ。卒業して安心していないかテストしますよ?」
「な、なんだ……。びっくりしたぁ~……」
「ほっほ。では参りましょうか、後ろの二人も私のあとについてきて下さい」
「ええ」
「はいっス」
ダニエルの案内で城内を歩く。ロランは城内を見回しながらある事に気づいた。
「先生」
「はい?」
「なんか城内寂しくないですか? あまり調度品がないような気がするのですが」
「ふむ。それはですね……王が変わり者だからなのですよ」
「変わり者?」
「はい。王は城を飾り付ける金があるなら民に与えよというのが信念でしてね。自分は必要最低限の暮らししかしないのですよ」
「へぇ~……」
「ですから他国の使者や王を招いた際に舐められてしまうのですよ。この国は城内を飾り付けできないくらい貧しいのかとねぇ」
「城内を飾り付ける事にそんな意味があったんですね」
「ええ。多少の見栄は必要なのですがね。王は聞く耳すらもってくれません」
「……良い王様なんですね」
「どうでしょうか。さ、着きましたよ。ここが謁見の間になります。この先で王がお待ちです。行きますよ?」
「はいっ!」
ダニエルは扉の前で止まり声を掛ける。そしてロランの意思を確認し、扉を開いた。ロランは王を見ないようにダニエルに続き室内を進み、ダニエルが止まった地点で床に膝をつき頭を下げた。
「陛下、救国の英雄ロランが参りました」
「うむ。ロラン、面を上げよ」
「はっ!」
そこで初めて王を見た。王は玉座に座りロランを見ている。ダニエルとマライアはいつの間にか王の隣に立っていた。王は黒髪を伸ばし、立派な髭を蓄えている。体格もなかなか良く、歳はわからないが若々しくも見える。
「そなたがロランか」
「はっ!」
「なんでもダニエルの生徒だとか?」
「はいっ! 執事養成校にてダニエル先生から執事となにかを学び、今はマライアさんの屋敷にて執事をさせていただいております!」
「ふむ」
王は髭を弄りながらロランに尋ねた。
「ならばなぜ執事が一人国境へと赴き帝国軍と戦った」
「……はい。帝国と戦になると話が出た際、僕は一度マライアさんの執事を解雇されました。僕はマライアさんの執事になるため、ダニエル先生の下で執事について学びました。僕は親に借金のカタとして売られました。そんな僕を買い、何不自由ない生活をさせてくれたのがマライアさんなのです。僕はそんなマライアさんと一緒にいたかったし、離れたくなかった。マライアさんやダニエル先生が戦に出ると知り、いてもたってもいられなくなり、仲間と共に国境へと向かいました」
「ふむ」
「ですが、仲間にも死んで欲しくなく、僕一人で戦おうと思いました。僕は儀式で沢山のギフトを得ました。そして在学中にそれらを使いこなせるように夜な夜なダンジョンに潜り、一年間己を鍛え続けました。そして僕はレベル200に達し、ギフトを使いこなせるようになりました。けど仲間は違ってて……」
「わかった。お主は一人で全てを守るために戦ったのだな?」
「……はい」
そう答えると王は玉座から立ち上がった。
「うぬぼれるなっ!!」
「ひっ──」
王は拳を突き出し叫んだ。
「民を守る事が私の義務だ! その守るべき民に一人戦わせた私は愚王になってしまったではないか!」
「も、申し訳ありませんっ!」
「……今後二度と勝手な真似はしないと私に誓え」
「は、はいっ! 二度とこのような真似はいたしませんっ! 申し訳ありませんでしたっ!」
そう言うと王は突然笑い出した。
「ふはははははっ、冗談だ。そう怯えるなロランよ」
「へ?」
するとマライアが王の頭を叩いた。
「あいたっ!? こ、こらマライア! なにをするか!」
「ふざけんじゃないの。私のロランが縮こまってるじゃないの! あんたなんて見たまま愚王でしょうが」
「な、なんだとっ!?」
続いてダニエルも王に説教を始めた。
「確かに。いつまで経ってもいうことを聞きませんしねぇ。城内が閑散としているから帝国などに舐められるのです。国力は我が国の方が上にも関わらずにねぇ。ロラン君が一人戦う羽目になったのはあなたのせいでもあるのですよ?」
「む、むぅ……。しかしなぁ、城内を飾る金があるなら貧困にあえぐ民に施した方が……」
「限度があると言っているのです。しかも私の人生で最高の生徒であるロラン君にその尻拭いをさせるとは……」
「それはすまぬと思っておるし、感謝しかない。蓄えていた兵糧も貧しい村に送ってやれるしなぁ。ロランよ」
「は、はいっ」
王は威厳ある雰囲気を崩し、ロランに向け頭を下げた。
「この度の働き誠に感謝するっ! お主のおかげで我が国は損害を免れる事ができた! 先ほど言った事は全て冗談だ。私は愚王で構わん。支えてくれる仲間がおるからな。ロランよ、仲間を大事にするが良い。仲間は良いぞ? 私のような者でもこうして王をやれているのだからな。はっはっは」
「えぇぇ……、なにこれ……」
ロランは豹変した王の態度に頭を悩ませるのだった。
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