第16話 取り戻せた日常
悩むマライアにダニエルはこう助言した。
「マライアさん、あなたロラン君に戦が終わったらまた会おうと言ったのですよね?」
「えぇ」
「ではその言葉の通り、ロラン君は貴女の屋敷に戻るのでは?」
「そう……かしら」
「彼はずいぶん貴女に懐いていましたからね。おそらく戻るでしょう」
「うん……」
最後に国王が場を締める。
「ではマライアはその若者が戻り次第連れ立って登城せよ」
「ロ、ロランをどうするつもりですか?」
国王はたくわえた髭を弄りながらニヤリと白い歯を見せた。
「安心せい、どうもせんわ。その若者は救国の英雄だ。我自ら礼を述べるのが道理であろう? それに……もしマライアに愛想を尽かしていたら我が身請けしてやろうかとなぁ?」
「例え王でもロランは渡しませんからね!」
「はっはっは。ではこれにて解散だな。戦を回避できた事、喜ばしく思う。皆、ご苦労だった」
「「「「はっ!」」」」
その数日後、ロランはアレン、セレナと共にマライアの屋敷に戻った。
「あぁ……ロランッッ!!」
「わわっ!? マ、マライアさん?」
マライアは玄関の扉を開き、ロランの姿を見た瞬間思いっきり飛びつき抱き締めた。
「このバカッ! 一人で突っ込むなんて何考えてるのよっ! 心配したじゃないの……っ!」
「ご、ごめんなさい……。剣じゃなくて全部ギフトで吹き飛ばしてたら倒れなかったんですけど……」
「「「問題はそこじゃない!」」」
「え?」
アレンは拳の骨を鳴らし始めた。
「あれだけ説教したのにも関わらずまだ理解していないようだな」
セレナは杖を振り回し始めた。
「やっちゃいましょうアレンさん。ゾンビアタックです! 死んでも生き返らせますから!」
「……できれば死にたくないのだが」
「私達じゃまだ無理です! 正直ロランさんは化け物ですから!」
「あなた達……まさか一緒にいたの?」
セレナがマライアに頭を下げた。
「ごめんなさいっ! 私がロランを誘ったんです!」
「……あなたが?」
「……はい。どうしてもアレンを助けたくて……。でもロランがあんな無茶苦茶するなんて知らなかったんですぅぅぅぅっ」
「そう……。でも……みんな無事で良かったわ。ロラン、あなたは明日私と城に向かうわよ」
「へ?」
「国王があなたに話があるそうよ」
「は、話? もしかして俺……捕まったり?」
「さてね。勝手な事したんだから国王自ら説教するつもりじゃないかしらね~?」
「そ、そんなぁ~! なんとかして下さいよぉ~!」
「「「あはははははっ」」」
こうして一連の騒動は幕を下ろした。ロランとセレナは再びマライアの屋敷で働く事となり、そこに養成校を卒業したアレンも加わる事となった。
そしてその日の夜はロラン作の豪勢な料理がテーブルを埋めつくし、四人で幸せな時間を過ごした。
「どうだロラン、これがお前の守りたかった景色だろ?」
「うん……、最高だよ。頑張って良かったと思ってる」
「すぐに追いつくからな。国王からの説教を終えたらダンジョンに連れて行ってくれ」
「うん、わかった」
「その前に! 私達に最新の装備買うの忘れないで下さいね!」
「わ、わかってるよ。っていうかさ、実は買わなくてもあるんだよね」
「え?」
ロランは見たことがない鞄から一振りの杖を取り出した。
「あら? その鞄初めて見るわね?」
「あ、はい。前のじゃ容量が足りなかったのでダンジョンで拾ったマジックバッグ(無制限)を使ってます」
「は、はぁ!? 無制限って……それ一つで小さな国くらい買えちゃうわよ!?」
「そうなんですか? 地下二百階から先に行くとポロポロ落ちましたけど」
「地下二百階……。ダニエルの想像通り、ロランは最深部まで到達していたのね」
「え?」
「え?」
ロランは首を傾げた。
「地下二百階なんてまだまだ中層くらいだと思いますよ?」
「へ? ち、中層? でもダニエルが……」
「あ、あ~。もしかしてあれかな? 地下二百階にボス部屋があったんですよ」
「うんうん」
「で、ボスを倒したら変な玉が現れまして」
「うん」
「その玉に更なる強さを目指すか富を獲るか問われまして」
「うん?」
「僕は更なる強さを選んだんです。そしたら先に続く階段が現れ、地下一階から敵の強さがはるかに増した階層が出てきたんですよ」
「ちょっと待って。理解が追い付かないわ。じゃあ何? ロランは未だ誰も到達できていない地点を越えたさらに先にいるわけ?」
「そうですね。で、そこで拾ったのがこの杖です」
そう言い、ロランはマライアに杖を手渡した。マライアはポケットから鑑定鏡を取り出し、杖を鑑定した。
「……は? せ、聖女の杖!? 効果は……回復量が倍、回復速度加速、使用魔力量激減!? こ、国宝級じゃない!?」
「そうなんですか? 僕鑑定だけは持ってないので価値がわからないんですよね」
「こんな宝が手に入るダンジョンだったなんて……。いえ、手には入るけど誰も到達できていなかったのね」
マライアは頭痛を感じ眉間を押さえていた。そして杖をロランに手渡す。
「じゃあはい、セレナ」
「こんな杖使えるわけないでしょ!? 強盗に囲まれちゃうじゃないのっ!」
「えぇぇ……。僕が今持ってる杖で一番強そうな杖がこれなのに……」
「私っ! レベル8! 弱いのっ! 駆け出し以下なの!」
「あ、あははは。な、ならこの杖は?」
「……なにこれ?」
再びマライアが杖を鑑定した。
「アスクレピオスの杖。振るだけで完全回復魔法が発動する……はぁぁ……国宝級ね」
「国宝しかないんかいっ!?」
「えぇぇ……。あとはもう普通の杖しかないよ?」
「それで良いのっ! 強くなって常識なくしてない!?」
その後、セレナには上級冒険者が使っているような杖を渡した。
「アレンは何かある?」
「俺か? そうだな……、短剣二本あれば良いかな」
「短剣ね、じゃあこれとか?」
もはやマライアは鑑定マシーンと化していた。
「これは……【影縫い】と【蠱毒】ね。影縫いは相手の影に突き立てる事で、どんな相手だろうと行動を停止させるみたい。で、蠱毒は相手に突き立てる事であらゆる呪いを与え、数秒で呪殺するようだわ。間違いなく国宝級ね」
「なんっスかそれっ! ウチも欲しいっス!」
「「「へ?」」」
短剣の鑑定が終わった瞬間、突然天井裏から黒い影が降ってきた。
「あ、こら! 出てきちゃダメじゃないっ!」
「こんなお宝を目の前にして我慢しろって言うんスか! それはあんまりっス頭ぁ~」
「ここで頭って言わないっ! って、こらぁっ! 私のロランに抱きつくなぁぁぁぁっ!」
黒い影は女の子だった、黒頭巾で顔を隠してはいるが、黒装束に凹凸があり男ではないとわかる。そしてその女の子はいきなりロランに抱きついた。
「ねぇねぇ~、まだお宝持ってるっスよね~? ウチにもなんか下さいっス~」
「だ、誰君?」
「ウチはおかし──マライア様の部下っス! ロランさんの大虐殺、しっかり見させてもらったっスよ~」
「だ、大虐殺!?」
「「「あ……」」」
黒い影は三人がロランに気を遣い黙っていた事をズバリと口にしたのだった。
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