第14話 大暴れ
宿に入った三人は深夜になるまで時間を潰した。攻めるなら暗闇に紛れて。これは昔からある定石だ。
「闇夜に紛れて敵陣の前に移動し、ロランの力で全て消し飛ばす。ロラン、やれるか?」
「やるよ。全ては平和を取り戻すためだ。全部僕が背負う。もし罪に問われたら二人は何も知らないと言って」
「なに?」
「はれ……なんか……くぅ……」
セレナがベッドに倒れた。
「ロラン、お前……くっ」
セレナに続きアレンも深い眠りに落ちた。ロランはそんな二人に頭を下げ、一人部屋を出た。
そして一人宿を出ようとすると、店主の老婆に五苑掛けられた。
「おや? こんな夜中にどこ行くんだい?」
「眠れないので少し夜風に当たってきます」
「そうかい。しかし……あんたら変わった人達だねぇ。戦になるかもしれないって時にわざわざこんな町にねぇ。皆逃げちまったってのに」
「お婆さんこそ。逃げなくても良いんですか?」
そう尋ねると老婆は笑った。
「きひひっ。あたしゃねぇ……、死ぬなら死んだ爺さんと開いたこの宿屋でって決めてんのさ。あと何年生きられるかわからないんだ。それが少しだけ早まるってだけさね」
老婆は死を覚悟し、それでもロラン達のために宿を開いてくれていた。ロランは心に熱いものを感じ、老婆に背を向ける。
「少しだけ遅くなるかもしれません。部屋にいる二人をよろしくお願いします」
「気をつけるんだよ、若いの」
「……はいっ!」
実の所ロランも気配遮断は使える。
「二人ともごめんよ。帰ったらいっぱい説教されるんだろうな……。でも……万が一二人に何かあったら僕は僕を許せなくなる。この力はそのためにある気がするよ。ねぇ、神様?」
そう言い空を見上げると星が一つ流れた。それはまるで神様からの返事だと言わんばかりにロランの心に響いた。
「……よし! 借金はもうないけどこの一年鍛えに鍛えたんだ。僕は負けないっ! 行くぞっ!」
そうしてロランは一人気配遮断を使い町を出た。
そして同時刻、ここは国境付近に陣を張ったバイアラン帝国軍前線基地。そこで帝国兵士達が突入の号令を待っていた。
「へへへ、やっと戦だぁ……。楽しみだなぁ~?」
「ああ。ってかお前が楽しみなのは略奪凌辱だろ?」
「ひひひっ、当たり前だろぉ? 見ろよこの帝国兵の数をよ。たかだか国境の町をぶっ潰すために十万だぜ十万。対してあちらさんはまだ兵士すら配置しちゃいねぇ。こりゃ一方的な狩りだろぉ?」
「まぁ……違いねぇな。ったく早く号令出してくれねぇかな。殺りたくて殺りたくてたまらねぇぜ」
「お前は相変わらず狂って──」
その時だった。突如陣の中心を起点に大規模な爆発が起きた。
「な、なんだっ!?」
「た、大変だっ! 陣のど真ん中でいきなり大爆発が!」
「なっ!? あそこには指揮官が──」
そして再び爆発が起こる。
「うわぁぁぁぁっ! また爆発がっ! な、何が起きているんだっ!」
「ちっ、侵入者がいるぞっ! 無事な奴らをかき集めるんだっ!!」
それから幾度となく爆発が起き、帝国兵はその数を次々と減らしていった。
「おいっ、無事な奴らはっ!」
「わ、わからねぇっ! 恐らく一万も残っちゃいねぇよっ!」
「な、なんだと!? 俺達は十万もいたんだぞっ!? それがこんな短時間で九万近く殺られたってのか!」
「う、うぅぅぅっ! も、もう嫌だっ! 俺は逃げるぞっ! こんな所で死にたかねぇっ!」
「お、おおお俺も逃げ──がぁっ!?」
「「「「なっ!?」」」」
兵士の胸から鮮血が噴き出す。その背後には黒い執事服をまとったロランが立っていた。
「略奪……、凌辱……、殺し……。お前ら……そんな事のために平和に暮らす人達を脅かしたのかぁぁぁぁっ!」
「な、なんだお前は……! し、執事??」
「……僕はグロウシェイド王国の一国民だ。このまま引き返すなら一度だけ見逃してやる」
「見逃すだぁぁぁっ!? ふざけてんじゃねぇぞゴラァァッ! こっちにゃまだ一万もの兵がいるんだ! あれだけ大規模な爆発を何度も起こしたんだ、お前にはもう力は残っちゃいねぇっ! ハッタリだ!」
するとロランは左手を空に挙げ、こう言った。
「ギフト【小破壊】」
「「「「「うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」
「なっ!?」
兵士の後ろで小規模の爆発が起き、一万近くいた兵士がおよそ半数に減った。
「僕のこれは魔法じゃない。ギフトだ。ギフトはいくら使っても魔力は減らない」
「あ……あぁ……悪魔……!」
「悪魔? それはお前達だろっ! 大人しく二年前の誓いを守っていればこうはならなかった! こうなったのはお前達が愚かだからだっ! さあ、まだやりたい奴はかかってきなよ。僕は一人だ」
「っ! や、殺ったらぁぁぁぁっ! 帝国兵舐めんなっ! 全軍突撃ぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
平原に怒号が飛ぶ。やがて東の空が白み、平原に響いていた怒号は静寂に変わった。立っているのはただ一人。黒い執事服をまとい、黒い剣を鮮血で染め上げたロランだけだった。
「……これで終わりかな。疲れた……」
ロランはどさりと地面に横たわった。
「ロラァァァァァァァァンッッ! どこだロラァァァァァァァァンッッ!!」
「ロランさぁぁぁぁぁぁぁぁんっ! どこですかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「は……ははっ、起きちゃったかぁ……。も、もう動けないんだけどなぁ……」
「ロラン! このバカ野郎っ!」
「なんで一人で行ったんですかっ!」
「う……み、耳元で大声は止め……」
地面に横たわるロランを見つけた二人はロランに駆け寄り大声で怒鳴りつけた。
「ロラン、怪我は?」
「まったく……。ただ……一人で十万はちょっと多かったかなぁ~……ははは」
「当たり前ですっ! と、とりあえず町に戻りましょう! アレンさん、ロランさんを背負えますか?」
「ああ。もしかすると本陣が来るかもしれないからな。急ぐぞ!」
アレンは疲れきって動けないロランを背負い、宿へと戻るのだった。
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