○1-3 水曜日(2)
「と、いうことはだな……橋が落ちてしまった今となっては、車でここに来た俺たちもここから離れることができなくなったっていうことだ」
朝7時の別荘一階、ダイニングルーム。
見るからに不機嫌な彼の目元が、怒りのあまり、痙攣を起こしたようにピクピクと上下動している。
「ホント、迷惑よね。それに、この朝食はいったいどうなってんの! まずくって食べられたもんじゃないわ」
孝太郎の感情を更にブーストさせるような形で、真央が別荘のスタッフに噛みついた。
瑠奈には、彼女の顔つきが、まるで腹の減った亀が大口を開けて食い物をぱくりとやるときみたいにワイルドな感じに思えた。
「誠に申し訳ありません! 私たち、あまり料理をしたことがないもので……」
銀のお盆を持ちながら盛大に頭を下げる、一人のメイド。
どうやらそれは、妹の沙樹のようだった。
姉が頑張って調理したものを、妹が客人や主人の富貴へと運ぶ――そんな役割分担を決めたようである。
憮然とした表情の富貴が口を開く。
「料理に不慣れな彼女たちが頑張って作ってくれたのです。感謝して食べてください。……ところで、三瀬さんと七曜君のお二人には、学校を休ませてしまい、誠に申し訳ありませんでした。本当は館の庭の奥にあるヘリポートにヘリコプターをつけようと思ったんですが、あいにく今日はヘリが補修作業中で……。明日の朝までには必ず、来させます」
しかし、またしてもそこに叔父の孝太郎が口を挟む。
「おいおい、俺たちには送迎も何もないのかよ。これでも、予定が大きく狂っちゃったんだぜ。俺たちも、そのヘリコプターで送ってほしいものだな」
「そうね、このまま海外に出てもいいかも」
「おお、それもいいな! って、ヘリじゃ無理か。あっはっは!」
――ふん。勝手にやって来て、何を言ってるんだか。
瑠奈がもう少しで思いの丈を口に出してしまいそうになったとき、孝太郎と真央との会話を断ち切るようにして、浩輔が奇声を上げた。
「おお! これうまいなぁ。これ、なんていう名前の料理にゃ?」
「スクランブルエッグでございます。ご存じありませんでしたか」
浩輔の疑問に、執事が嫌味なく穏やかに答えた。
「ああ、知らなかったにゃあ。だって、ウチの母ちゃん、卵焼きしか作ってくれにゃいからね。ところで……富貴君」
甘えん坊のスゥちゃんの目が鋭く輝き、探偵のそれになる。
「ぼくちゃんも、この目で確かめたいにゃあ……。吊り橋の落ちた現場とやらを」
「それもそうよね……。富貴君、あとで橋のところに行ってみてもいい?」
「ええ、いいですとも。危険な場所までは近づけないかもしれませんが、僕が案内いたしますね」
その後、三人は館を出て橋の落下現場に向かった。
しかし、吊り橋の場所に辿り着いた三人は、まるで示し合わせたかのように、がっくりと同じタイミングで肩を落とした。
執事の言っていたことが本当だということ、そして、今日中に学校に行くことが絶望的であるということを、自分の目で確かめたからであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます