第6話 エルフの子
ここは深い森の開けた場所にある家。
周りの森は結界で囲まれており人は入ってこれない。ここには2人の住民が暮らしている。
「うーん」
そんな家のリビングにて椅子に座り、机の上においた紙に目をやり、腕を組んで何やら悩んでいるような声をあげる少女がいた。
コハルだ。
見た目は少女だが年齢は800歳を超えている。
彼女はこの家の住民なのだ。
「コハル、どうしたんだ?」
そんな彼女に話しかけてきたのはある青年男性。
ジバリだ。
彼もまたこの家の住民であり、年齢は800歳を超えている。
コハルの兄だ。
「いやね、そろそろ収入が必要かなーって」
「前回はいつだったか?」
「忘れたの?50年前だよ」
2人は職に就いていない。
というか就く必要もない。
家は昔自作した。当然家賃はかからないし、電気も水も自分達で整備したのでお金はかからない。
必要なのは食料や日用品だが月にかかるお金はそこまで多くない。
そのため彼らは一度に多額のお金を稼いでそれを使って生活している。
稼ぐ手段は単純だ。
太平洋に浮かぶ四国と北海道を合わせた大きさをもつアルカディア島。
そこには魔法使いも住み、魔物やドラゴンなどアルカディア島以外では見られない生き物も生息している。
ジバリとコハルは森を通して自分達の家から地球上どんな場所とも自由に行き来できる。
それを利用してアルカディア島に行き、もらえる金額が高い依頼をこなし、お金を稼ぐ。その資金を当面の生活費用にしているのだ。
「なるほど。そろそろ必要か」
ジバリは全てを察した。
「うん!お兄、ちょっと稼ぎに行こ」
「わかった」
コハルの提案をジバリは快く受け入れた。
2人はアルカディア島に行くことにした。
ーーアルカディア島にて
「着いたー!」
「ここは変わらんな」
2人はアルカディア島にやってきた。
といっても2人にとっては森を抜けただけなので移動時間は大したことはない。
「えーっと、街はと」
コハルはポケットから地図を出して見る。
二人がいまいる場所はひとけのない自然豊かな場所だ。といっても至る所に緯度、経度が記されている標識があるので大体の位置はわかる。
どの街でも依頼は受けれるが、大きい街ほど富裕層が多いため、依頼に対して貰える金額が多い。
二人はここから100kmほど離れた街、アルカディア島第三都市オルミッツがあるのを見つけた。
「ここからすぐだな」
「んね」
二人は空を飛んで移動した。
他とは違ってここアルカディア大陸では空を飛んでも不思議には思われない。
ーーアルカディア島の第三都市オルミッツにて
「前来た時よりも結構立派な街になってるね」
そう声をもらすのはコハルだ。
首都といっても日本などとは違い、高層ビルが立ち並んでいるわけではない。
中心に大きなシンボルともいえるタワーがあり、小さめのマンションくらいの建物がタワーの周りに建てられている。
依頼はそれぞれの都市の一ヶ所に集められる。
二人はタワーから歩いて10分ほどの所にあるギルドにやってきた。ここに依頼が集められている。
『どーも』
二人が中に入ると建物内にはたくさんの冒険者や魔法使いがいた。
依頼を受けてお金儲けをするためだ。
「何かいい依頼あるか?」
「うーんとね」
掲示板に貼り出された依頼内容を見ていく二人。
「あ!あれなんかいいんじゃない?」
コハルが指をさした方向にあったのは
"竜の鱗の採取"
という依頼だった。報酬は日本円で1000万円ほど。
高額だ。
「竜の鱗って何だ?」
「さあ?受付の人に聞いてみよ」
二人は依頼を受けるために受付に依頼内容をもっていった。
『お客様、これは最高難度の依頼ですよ?』
受付を担当していた人はびっくりした。
『それはいいけど竜の鱗って何?』
コハルは聞いた。
『おいおい、そんなことも知らねえのかよ』
二人の後ろから声が聞こえた。
そこには冒険者がいた。
受付との話に聞く耳を立てていたのだ。
聞く耳を立てていた冒険者の男性は言葉を続ける。
『竜の鱗ってのは虹色に光る竜の鱗のような形をした石だ。だがそれを採取するにはトラス山っていう魔物がうじゃうじゃいる山の中腹にある洞窟の奥に行く必要がある。しかもトラス山の中腹はドラゴンの縄張りだ。今まで生きて帰ってきた奴はいねえ』
『お前さん方、どっから来たんだ?』
冒険者の男は腕を組んで、聞いてきた。
『日本だよ』
『日本か。平和でいい国だよな。悪いことは言わねえから観光だけして帰んな』
男は何やら寂しげな顔をして言ってきた。
そんな冒険者の男にジバリが口を開いた。
『忠告感謝する』
続いてコハルが口を開く。
『おじさん、ありがとう。でも心配しないで。私たち強いから』
自信満々に言うコハルを見て冒険者の男は驚いた顔をした。
『まあ、どう生きようとあんたらの自由だ。好きにしろ』
男はそう言って去って行った。
ジバリとコハルは受付をすませ、
依頼を引き受けたという証明書をもらった。
そこには依頼主の名前も書かれていた。
ギルドを出た二人。
時刻は昼過ぎ。
移動時間はかかっておらず、朝ごはんを食べてからそこまで時間は経っていないが、小腹が空いてきたジバリ。
「コハル、お腹減ったか?」
「いや、全然。朝ごはん食べてからそんなに経ってないし。お兄、まさか」
察したコハル。
「コハル、おれは日本円をこっちの通貨に変えて昼ご飯を買ってくる」
「お兄食いしん坊だね。私はこの辺り散策しとく。終わったら気配で見つけて」
「わかった」
「ついでに私の分も買ってきてくれるとありがたいなー。お腹空いた時食べるからさ」
コハルは手を合わせて上目遣いでお願いのポーズを取りながら言った。
それを見たジバリは笑いながらオッケーのポーズをした。
「ありがとうお兄ちゃん!」
コハルはジバリに抱きついた。
かわいい妹だな
と思いながらジバリは買い物に行った。
ジバリが買い物に行っている間、街を散策していたコハルは何やら人混みを見つけた。何だろうと近づいてみると耳の長い少女目当てに人が並び、触れたり記念写真をしていた。
(見世物にされてるじゃん)
コハルは思った。
『あれは何?』
コハルは近くにいた人に聞いた。
『あー、お嬢ちゃん知らねえのか?エルフだよ。エルフ』
『エルフ?』
『結構珍しい種族でよ。ここあたりじゃ絶滅したと思われてたんだが最近山の奥で見つかったんだ』
コハルはエルフの存在を知らなかった。
ゆえになぜ人々がそこまで釘付けになるのか、わからなかった。
『あのエルフ、子供だ』
『ああ、どうやら親は行方不明らしいんだ。まあ、どうせリズモスの野郎が無理矢理引き離したんだろうぜ』
コハルはエルフの子の横にいる中年ぐらいの人物を見つけた。
『あの横にいる人は?』
『あの髭面の野朗か?あいつがエレクト・リズモス。この街では有名な富裕層さ。エルフを買い取ったのもあいつだ。金もたらふくもってるんだとよ』
『へー』
ふと、コハルは証明書に書かれてあった依頼主の名前を思い出した。
(エレクト・リズモス、あいつが依頼主か)
そんなことを考えていると、
「コハル」
ある人物が日本語で話しかけてきた。
ジバリだ。
「お昼ご飯買えた?」
「ああ」
「ありがとう、お兄」
コハルはジバリから昼ご飯をもらってその場を後にしようとした。
ジバリをみたコハルの近くにいた人物は眉をひそめ、残念そうな顔をした。
『チッ、連れがいたのか。じゃあなお嬢ちゃん』
そう言って近くにいた人は人混みに消えていった。
「この人混みは?」
「なんかエルフっていう珍しい種族を見るために集まった人だって」
「エルフか」
先程の自分とは違う反応にコハルは言葉を続ける。
「お兄、知ってるの?」
「聞いたことがあるだけだよ。詳しくは知らない」
ジバリとコハルは見せ物にされているエルフの子供を見た。
ガリガリにやせているというわけではないが、顔には生気がなく、失明してるわけではないが目は輝きを失っていた。普段から良い扱いを受けてはいないことはすぐにわかった。
ふと、コハルはエルフの子と目があった。
そして何やらボソボソつぶやいたように見えたが、すぐに人混みに隠されてしまった。
「行こう、お兄。二つ依頼をこなさなきゃ」
「二つか……そうだな」
読唇術も使える二人はエルフの子の言いたかったことも理解していた。
"助けてください"
と。
二人はトラス山の中腹を目指して出発した。
ドラゴンが住み着いており、竜の鱗を取ってくるのは難易度は高いが二人なら余裕でこなせる依頼だ。
ーー
「ここか」
「そうみたい」
二人はトラス山の麓にたどり着いた。
空を飛んできたため、街から200kmほど離れているがすぐに着いた。
険しく、非常に高い山だ。
中腹といえども富士山ほどの高さはある。
下から見た感じドラゴンは見えない。
だが、二人はドラゴンの気配を感じていた。
ーー中腹にて
ゴツゴツした岩🪨が当たり一帯に見られ、植物は少ししか生えていない。気温も低い。それだけでなく、二人は中腹まで来る途中に森に住む肉食の魔物と何回も遭遇した。ほとんどの魔物はジバリとコハルの強さを理解して、襲ってはこなかった。昼ごはんを食べれたほど二人には余裕だったが、人が容易に来れないことは理解した。
「洞窟はどこだ?」
「多分あの洞窟の中だよ」
ゴツゴツした岩の先にみえる洞窟の入り口があった。二人は歩みを進めていく。
ここあたり一帯はドラゴンたちの縄張りで、侵入者は容赦なく八つ裂きにされるのだが、二人の強さを感じ取ったドラゴン達は着地して警戒をしながらも何もせず道を開けた。
二人は洞窟の入り口に向かって歩いていく。
「いい子達ね。意外とかわいい顔してるじゃん」
とはコハルがドラゴンを見た感想だ。
いともたやすく洞窟の入り口に着いた。
「中は暗そうだね。どこまで続いてるんだろ」
二人はさっそく中に入った。中は太陽の光が届いてなかったのでジバリが自身の能力を使い、灯を灯した。
「これか」
洞窟の奥深くにあったのは虹色に光る竜の鱗のような石だった。洞窟の壁に生えるように存在していた。コハルはたくさんあるうちの一つを取った。
「一つでいいんだよね?何に使うんだろこれ」
「あの見た感じだとお金に変えるんだろ」
「あー、なるほど。納得」
竜の鱗を手に入れた二人は山を下りて街に戻った。そして二つ目の依頼を達成するために依頼主のエルフの子の元に向かった。
ーーエレクト・リズモス邸にて
エレクト・リズモスはエルフの子に激昂していた。
『昨日といい今日といい最近のお前は何だ!あの嫌そうな顔は!客が飽きたらどうするつもりだ!』
バシッ
リズモスはエルフの子の頬を叩いた。
エルフの少女は床に倒れた。
『お前のせいで金が入らなくなったらどうするつもりだ!それともまた貧困生活に戻りたいか!』
『ご、ごめんなさい』
リズモスに抵抗する術がないエルフの少女は泣きそうになりながら答えた。
ーー
ジバリとコハルの二人はエレクト・リズモスの家の門の前にやってきた。大きい家だ。周りはコンクリートの高い壁で囲まれている。有名人であるため家の場所はすぐにわかった。
「あの子供はここにいるのか?」
「買い取られたって言ってたからね」
ジバリの服のポケットには竜の鱗が入れられていた。本来ならギルドにもどり、依頼完了の手続きをして、採取したものがあれば受付に預けて報酬をもらうのだが、二人はギルドに寄らず、直接やってきた。目的はエルフの子供。
「なるべく穏便に済ませたいんだけどねー」
コハルはそう言って分厚いコンクリートの門を粉々に砕いた。
『な、なんだ!?どうしたんだ!』
自らの部屋でエルフの少女を叱っていたエレクト・リズモスは突然の爆発音に驚いた。
『な、なんだ!?』
戸惑いの声を上げたのはリズモスだけでなく門の向こうにいた魔法使い達もだった。
リズモス邸の警護を任されているのだ。
その数20人。
突然砕かれた門に全員驚いていた。
『だ、誰だ!』
魔法使い達のリーダーが二人に向かって叫ぶ。
『エルフの子供がいるでしょ?どこ?』
コハルはリーダーに言った。
リズモスは無線で門の警護に当たらせている魔法使いのリーダーに連絡した。
『どうしたんだ!?』
『リズモス様、侵入者です。エルフの子を狙っています』
リーダーは無線で伝えた。
『排除しろ!』
リズモスは叫んだ。
『攻撃魔法最大出力だ!火や電撃を使用するな、家が火事になる。氷を使用せよ!』
分厚いコンクリートを粉々に砕いた者達に容赦する必要はないと思ったリーダーが指示を出した。
次の瞬間、魔法使い達から一斉に無数の氷の槍が放たれた。
自分達に向かって飛んでくる無数の氷の槍を見てもジバリとコハルの二人は平然としていた。
そして二人は数歩前にでた。
ドオオオォォォン
爆発音が鳴り響いた。
家が揺れる。
コハルとジバリに攻撃した魔法使い達は二人の状況を確認しようと周りに集まった。
『やったか?』
『当たり前だ。我々はリズモス様より警護を任せられた上級魔法使いだぞ』
『侵入者は全て排除しろとの命令だ』
リズモス邸の警備の者達がそんな会話をしていると煙幕の中から声が聞こえた。
『上級魔法使いか』
煙幕が晴れ、魔法使い達が目にしたのは信じられないものだった。
『そ、そんなバカな……』
ジバリとコハルの二人は無傷だった。
攻撃魔法は1発も当たっていなかった。
無数に飛んでくる氷の槍の軌道を読み、どの位置に立てば1発も当たらないか理解してかわしたのだ。
『1発も当たらないなんて』
警護のため雇われた上級魔法使いのリーダーは混乱していた。
『軌道が読みやすいね』
『まあ、あの程度の攻撃、当たっても意味ないがな』
『だからといってわざと当たるのも嫌なんだよね』
上級魔法使いは誰でもなれるわけではなく、厳しい訓練を受け、年に一度行われる上級魔法技能試験に合格した者だけが認定されるもの。攻撃魔法の威力は人が受ければタダではすまない。下手をすれば死亡するレベルだ。それが複数人から同時に放たれたのだ。スピードだって凄まじい。
しかし、今、目の前で起きていることはそんな訓練を受けた者達でもはじめての出来事だった。
『も、もう一度氷魔法だ!今度は二人を凍らせろ!』
警護に当たっていた上級魔法使い達のリーダーが指示を出した。だが、他の者達は微動だにしない。
『ど、どうしたんだ?お前達』
リーダーがそんな声をあげたとたん、他の魔法使い達がバタバタと倒れ始めた。
『お、おい…』
リーダーは辺りを見渡し、ジバリとコハルのいる方を見た。が、二人はいなかった。
魔法使いのリーダーに冷や汗がでた。同時に恐怖で足が震え始めた。
ジバリとコハルが目の前にいた。
『手荒い歓迎だね』
『い、いつの間に』
リーダーはビビりまくって、目の前にいる二人に攻撃魔法を出すこともしなかった。いや、できなかった。
『安心しろ、気を失ってるだけだ』
ジバリはそう言ったが、魔法使いのリーダーには恐怖で届いていなかった。
『エルフの子はどこ?』
『リ、リズモス様と、に、2階の部屋に、、』
コハルの問いにリーダーは震えながら答えた。
『こ、殺さないでください、、』
魔法使いの命乞いにジバリとコハルは顔を見合わせた。
ジバリ『殺しはしない』
そんな声が聞こえた後、リズモスが雇った魔法使いのリーダーの目の前が真っ暗になった。
気絶させられたのだ。
『くそっ、おい、応答しろ!』
リズモスは無線でリーダーの名前を呼ぶが返答がない。彼には焦りが生まれていた。
『お前はそこにいろ!』
リズモスは部屋にいるようエルフの少女に命令した。なんとしても逃したくなかったのだ。
外の様子を見るために部屋を出ようとした時、後ろから声が聞こえた。
『こんにちは、依頼主さん』
リズモスが後ろを見るとエルフの少女の前に男性と少女が立っていた。
『だ、誰だお前らは!』
二人は怒鳴りちらすリズモスの言葉を完全無視した。
『警護の魔法使い達なら呼びかけても無駄だよ。気を失ってるからね』
『な、なんだと!』
コハルはエルフの少女の方に笑顔を向けた。
エルフの少女は昼間自分が見た二人だと理解していたが突然の出来事にキョトンとしていた。
『お金はいらない。代わりにこの子をもらう』
コハルはそういってエルフの子を自分の方に引き寄せた。
『な、話が違うぞ!』
依頼主は突然のことに怒った。
『話?』
『依頼のことだ!依頼主といったはずだ!連絡があったがおれの依頼を引き受けたのはお前たちだろ』
『あー、あれね。ちゃんと竜の鱗は取ってきたよ』
『なら、早くよこせ』
『まあまあ、焦らない焦らない』
『くっ!』
自分を前にしても余裕の態度を見せるジバリとコハルに依頼主、エレクト・リズモスはイラついていたが、いとも簡単に竜の鱗を取ってきただけでなく屋敷の警護をしていた多くの魔法使いを圧倒した二人を恐れているのか、怒り方にまるで迫力がない。
エルフの子は怖くなったのかコハルに抱きついた。
『大丈夫よ。一緒に帰ろ』
コハルは彼女の頭をなでた。
『ダメだ!そ、そいつはおれの収入源だ!母親が魔物に殺され死んで、人に引き取られ、貧困生活を送っていたお前を救ってやったのは誰だ!』
怒鳴る依頼主をコハルは睨みつけた。
『う、』
彼女の殺気めいた迫力に押されて依頼主は黙り込んだ。
『助けてと願ったのはこの子の意思だよ』
『な!?意思だと』
コハルの言葉にリズモスはエルフの子を睨みつける。
エルフの子はコハルに抱きついたまま口を開いた。
『この人がいい』
『だってさ』
『こいつはやる』
ふとジバリが口を開き、持っていた竜の鱗を依頼主に放り投げた。リズモスは慌ててそれをキャッチする。だが、竜の鱗を見て驚いた。
『ただの石じゃないか!』
『そうだ。どうやら竜の鱗は虹色に光るただの石だったようだな。洞窟にある時は確かに綺麗に輝いていたが、取った後しばらく経ったら輝きは消えたぞ』
『そ、そんな』
リズモスは膝から崩れ落ちた。
『では、このエルフの子はもらっていく。以上だ』
ジバリとコハル、二人の言い分に反抗したい気持ちはあったが、反抗したところで無駄だとわかっていた。力づくて奪い返そうにも強力な竜相手に無傷で依頼をこなし、自分が雇った上級魔法使い達を返り討ちにした彼らに敵うはずもなかった。
『それじゃあ』
コハルはそう言ってエルフの子を抱き上げた。
そうして三人は屋敷を去っていった。
依頼主のもとにはもはや竜の鱗とは呼べなくなったただの石が転がっていた。
ーー帰りの森にて
「うるさい奴だった」
「まったくだ」
ジバリとコハルはそんな会話をしていた。
エルフの子はコハルにおんぶされしがみついていた。
『ごめんなさい、私のせいで二人のお金が、』
エルフの少女は申し訳なさそうに口を開いた。
そんな彼女にコハルは笑みを浮かべて答えた。
『平気よ。多分あと10年はもつし。また稼げばいいんだから』
『それに新しい家族が手に入ったからいいの』
『家族…』
コハルの家族という言葉を聞いてエルフの少女はコハルにさらにぎゅっと抱きついた。
二人はエルフの子を連れて家に帰ってきた。
周りを森に囲まれて、さらには結界で守られている。人は誰も入ってこれない。
「お兄、私はこの子をお風呂にいれてくる」
家に帰ってすぐ、コハルは彼女をお風呂に入れた。彼女は何ヶ月も見せ物にされ、生活が苦しくなってからはお風呂に入れてもらえなかったのだ。
『ん、、』
『ほーら、あったかいでしょー学校
『うん』
お湯が出るはじめてみるシャワーに若干驚きつつも気持ちよさそうにコハルに体を洗ってもらっていた。
『そういえば名前なんていうの?』
『……ロミ」
『へー、いい名前だね。お母さんがつけてくれたの?』
『うん』
ロミの顔には少し笑みが浮かんでいた。
『私はコハル。何かあったら遠慮なく言ってね』
『うん。言う』
『ここには私とお兄の知り合い以外入ってこれないから心配しなくても大丈夫よ』
ロミはコハルの顔を見た。
その顔に涙が徐々に浮かんできた。
久しぶりに注がれた人の優しさを感じたのだ。
『つらかったね』
コハルはそんな彼女の頭をなでた。
ロミは泣いた。嬉しくて泣いた。
お風呂から出た後、ロミはコハルの服を着せてもらった。
ちょっとでかかったが、特に問題はなかった。
そしてご飯を食べさせてもらった。
『おいしい!』
がっつきながら食べるロミ。
そんな彼女をよほどお腹が空いてたんだなと思いながら見るジバリとコハル。
ロミはそんな二人を見てニコッと笑った。
『ロミ、こっちはジバリ。私のお兄ちゃんよ』
『よろしく頼む。何かあったら言ってくれ』
『それさっきコハルさんからも聞きました』
笑顔で答えたロミ。
連れ帰った直後とは大違いだ。
ジバリも笑みを浮かべて一言。
『そうか』
『コハルさん』
『んー?』
『コハルさんは私と同じくらいの歳ですか?』
『ロミは何歳なの?』
『10歳ぐらいです』
そう言うロミに対してコハルはあの二人と同じくらいか。と思った。
『全然違うよー』
『何歳なんですか?エルフは長寿ですので、、その、、』
(なるほど、一緒にいられる時間を心配してるのか)
『大丈夫よ。私もお兄も長生きだし、もう800歳超えてるよ』
『は、、はっぴゃく!?』
ロミは驚きつつも安心したようだった。
せっかく手に入れた幸せを失いたくなかったのだ。
『あと、そんなかたくならなくていいよ。敬語じゃなくても大丈夫。私達家族なんだから。ね?お兄?』
『ああ』
『わかった!』
ロミは元気よく返事をした。
『そういえば、あの時人がいっぱいいたのに私達に助けを求めてきたよね。なんで私達を選んでくれたの?』
コハルの質問にロミは笑みを浮かべて即答した。
『強くて優しそうだったから』
(うわぁ、この子見る目あるー)
コハルは少し照れながらそう思った。
ジバリも嬉しそうにしていた。
ご飯を食べ終わったロミは歯を磨いてもらい、そのまま布団に入り、寝入ってしまった。
ジバリ「よっぽど疲れてたんだろうな」
コハル「そうね」
二人は寝てしまったロミを微笑ましそうに見てそんな会話をしていた。
リビングに戻った二人はソファーに腰掛けた。
二人は家族が増えて嬉しく思っていた。
「ロミはいい子だね」
「まったくだ。コハルより素直だ」
「それは失敬な」
コハルにも少し眠気がきていた。
「うーーーんっ、私もお昼寝しようかな」
「ロミと一緒に寝てくればいい」
「うん、そうする」
コハルはそう言って再び寝室に行き、ロミが寝る横に横たわり、昼寝を始めた。
コハルが寝たのを見届けた後、ジバリもその横に横たわり昼寝をはじめた。
平和な時間が訪れた。
ここは深い森の開けた場所にある家。
周りの森は結界で囲まれており人は入ってこれない。ここには3人の住民が暮らしている。
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