第3話 新学年 後編
キーンコーンカーンコーン
「今日はこれで終了です。みなさん、気をつけて帰ってくださいね」
「気をつけ、れい」
『ありがとうございました』
先生の合図でB組の生徒達はあいさつをし、帰路につこうとする。
B組の担任の先生はというと他の先生に呼ばれて慌てて教室を出て行った。
「奈緒、午後から何する?」
帰る用意を済ませたランドセルを机の上に置いたまま奈緒に話しかける瑠奈。
"午後から"という言葉通り今日は午前で終わりなのだ。
ランドセルの中身も今朝とは違い、中には筆記用具、連絡ファイル、連絡帳、配布された教科書とプリントが入っている。
重さで言えば帰りの方が重たいが、たかが知れている。
「んー、とりあえずお昼ご飯だな」
瑠奈とは違いランドセルを背負い帰宅の準備万端な奈緒は笑顔でそう答えた。
と、その時
バンッ
どこからともなく音がした。
奈緒と瑠奈はその音の正体にすぐ気がついた。
横田だ。
横田広戸が奈緒の机を机をはさんで奈緒のいる向かいから机を叩いたのだ。
二人は横田を見る。
横田は片手を奈緒の机につけたままニマニマと何か悪いことを企んでいそうな悪ガキのような顔で奈緒を見ていた。
横田の横には子分のような二人の男子が彼と同じような表情で立っていた。
瑠奈(誰?こいつら)
うっとうしそうに横田を見る瑠奈。
奈緒「えっと、何か用?」
横田を見て一応何か用があるのか聞いてあげる奈緒。
横田広戸はチラッと朝川瑠奈を見た後、奈緒の方に向き直した。
そして、声をあげて言い放つ。
「お前、朝川のこと好きなんだろ」
約1時間ほど前、新しいクラスでの最初のホームルームを終えた後の休み時間、横田大翔は自分の子分のような扱いの二人を階段に呼び出してこう言った。
「朝川奈緒の悪い噂を流せ」
と。
だが横田大翔、彼は当然そんな噂など知らない。
ゆえに二人なら何か知っていると思い階段に呼び出したのだが、二人は悪い噂以前に奈緒のことなど全く知らなかった。
「わかったぜ広(ひろ)ちゃん」
「まかせとけ」
横田は二人からそんな言葉が返ってくると思っていた。しかし、実際は違った。
"悪い噂を流せ"という彼の言葉に二人は顔を見合わせ
「朝川奈緒…知ってる?」
「…いや」
"悪い噂を流せ"という彼の言葉に二人は顔を見合わせ戸惑ったような顔でそんな会話をしていた。
(まじかよ、どうしようか)
瑠奈から奈緒を引き離したい。
でも嘘でもついたら朝川奈緒と仲のいい朝川瑠奈から嫌われてしまうかもしれない。
それに目の前にいる二人から朝川瑠奈への好意がバレてしまうかもしれない。
そんな思いがよぎる中、横田広戸はあることを思いついた。
(朝川奈緒をおちょくればいいんだ)
「べ、別に好きじゃねえし」
横田広戸のおちょくりに瑠奈の方を見ながら好意を否定する奈緒。
「え?」
そんな奈緒の言葉にショックを受ける瑠奈。
そしてそのままランドセルを背負い黙って教室を出ていく。
二人を引き離す作戦成功!
とここまでが横田広戸のシナリオだったのだが
「お前、朝川のこと好きなんだろ」
に対する奈緒の返答は予想とは真逆だった。
「まあ、好きだね」
奈緒は照れも躊躇も一切なく少し笑みを浮かべながら言い放った。
奈緒のこの言葉に対する周りの人の反応はさまざまだった。
(朝川君、やっぱり瑠奈ちゃんのこと好きだったんだ)
と思う人もいたり、
一方で二人のことをよく知る人物は
(まあ、当然だよな。一緒に暮らしてるんだから)
と思っていた。
(??)
当然だが会話の内容が分かってないものもいた。
もちろん、奈緒に今の所恋愛感情はない。
瑠奈に向けているのは愛情。
家族として好きだということだ。
瑠奈もそれを分かっているし、彼女も今の所恋愛感情はなく、奈緒に向けるのは家族としての愛情なのだが、
「て、照れるなー」
と若干頬を赤らめて嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。
「ヒューヒュー、ラブラブだな〜」
奈緒をさらにおちょくる横田だったが、
奈緒の言葉に照れる瑠奈を見て内心はショックを受けていた。
(は?え?意味わかんねーし)
現実を受け止めれない横田だった。
「朝川、まじかよー」
「瑠奈ちゃんよかったね」
瑠奈「ん?何が?」
奈緒「?」
いろんな言葉をかけられる奈緒と瑠奈だったが
二人は平然としていた。
普段から一緒に過ごしている二人なら別に恥ずかしがることでもなかった。
「用ってそれだけ?」
「っ、、い、いくぞ」
奈緒にそう言われて横田は子分の二人を連れて早足に教室を後にした。
彼は泣きそうな顔をしていた。
奈緒はというとキョトンとした顔をしていた。
(何だったんだろ)
ーー
「ただいまー」
「ただいま、お母さん」
「おかえりなさい」
午前で終わった学校から帰ってきた二人を家で出迎えたのは朝川琴音。奈緒と瑠奈の母親だ。
家にいるからといって彼女は職についていないわけではない。今日は休みなのだ。
「お腹すいたー」
ボフッ
玄関からリビングに入るなり背負っていたランドセルをおろしてソファにダイブする瑠奈。
「お昼にしよっか。奈緒、瑠奈、手を洗ってきて」
「はーい」
二人は手を洗い、服を制服から私服に着替え席に着く。
「いただきまーす」
3人で食卓を囲み、お昼ご飯を食べ始めた。
樹は仕事、優菜は午後から部活なので今は家にいない。
琴音「二人とも同じクラスだった?」
琴音は朝から同じクラスになれるかどうか話してた奈緒と瑠奈に聞いた。
奈緒「うん」
「よかったね」
瑠奈「私と奈緒は強い絆で結ばれてるみたい」
奈緒「何だよそれ」
手を前で組み、天にお祈りをするようかポーズで冗談ばかしに言う瑠奈に苦笑しながら言葉を返す奈緒。
そんな二人を微笑ましく思いながら見つめる琴音。
「4年生初日の学校はどうだった?」
「んーとね、楽しかったよ。担任の先生も優しそうだったし。あ、あとね」
「何かあったの?」
何か思い出したかのような発言をする瑠奈に琴音は何か面白い出来事でもあったかと思い聞き返した。
瑠奈は今日学校であった出来事を話した。
途中から奈緒も会話に入ってきて出来事の補足をいれた。
二人の視点から語られた出来事により琴音は大体のことを察した。
「ほんとに急にやってきて意味わからんかった。ねえ、奈緒?」
「あんなこと聞かれるとは思わんかったしな」
「ほんとそれ。名前忘れたけど、誰だっけ?」
「さあ?なんだっけ?」
「ま、どうでもいいか」
琴音「なるほどなるほど」
あごに手を当て頷きながら二人の話を聞く琴音。
「瑠奈、その質問に対する奈緒の返答嬉しかった?」
「その質問?」
「好きかどうかってやつ」
「あー、それね。もちろん嬉しかったよ」
笑顔で答える瑠奈。
琴音はそれを見て無邪気でかわいいなあと思っていた。
もちろんだが、琴音も奈緒と瑠奈の互いに恋愛感情はないことは分かっていた。二人がお互いに向けているのはあくまで家族としての愛情だ。
おそらくその子は瑠奈のことが好きなのだろう。
だから気を引こうと近くにいる奈緒にちょっかいをかけたのだろう。失敗したようだけど。
「でねでね、」
話を続ける瑠奈。〇〇とも今年も同じクラスだったとか他にも久しぶりの学校での出来事を話しながら3人は昼食を食べすすめていった。
一方で、
「はぁー」
ガキ大将横田は自室で落ち込んでいた。
親に朝用意してもらったお昼ご飯は喉を通らない。
自分に向けられた瑠奈の冷たい視線。
奈緒に対する瑠奈の気持ち。
奈緒と瑠奈にとっては家族への愛情でも
横田にとっては相当こたえるものだった。
(両想いだったなんて)
彼は勘違いをしているが、真実など知る由もなかった。同時に奈緒に対する嫉妬心がさらに強くなっていった。
「くそっ」
横田広戸の嫉妬深さなど
奈緒と瑠奈の二人にとってそんなこと知ったことではなかった。
--朝川宅
「「ごちそうさまー」」
「おいしかったー」
「それはありがとう」
食事を終えた奈緒と瑠奈の二人はソファに座り、くつろぎ始めた。
ピーンポーン
家のインターホンが鳴った。
「誰だろう」
琴音が出る。
奈緒と瑠奈は
誰がきたんだろう
と互いに顔を見合わせていた。
「あ、あの、朝川瑠奈さんいますか?」
そんな声が聞こえた。
「瑠奈。友達が来てくれたよ」
琴音にそう言われて瑠奈が行ってみると
そこにいたのは学校で今日知り合ったクラスメイトの女子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます