第2話 新学年 前編

「ふわぁぁー」


今は朝の7:00。

カーテンの隙間から朝川家に差し込む朝日。

その一室で目覚めたのは朝川瑠奈。

金髪碧眼の少女だ。

その髪はショートヘアだが寝癖が所々ついていた。


「あー、よく寝た…ん?」


ゆっくりと体を起こした瑠奈は体に何か乗っていることに気づいた。

奈緒だ。

奈緒は瑠奈と同い年の男の子だが瑠奈の方が数日早く生まれている。


「おーい、もしもし。奈緒ー、朝ですよー」

手で奈緒の体を揺すりながら声をかける瑠奈。


「ん…んー…」

奈緒は少し目を開けて、瑠奈の体の上から身を下ろすと、彼女の布団の隣に敷かれている自らの布団に戻っていった。


「おやすみ」

「おやすみじゃないよ。もう朝だよ」


奈緒はそう言われて布団から顔出し、うっすら目を開けて瑠奈を見る。

「ん…今何時?」

「7:01」

「……もう朝じゃないか」

「さっきからそう言ってる」


「ほら」

瑠奈は布団から出て立ち上がり、横になる奈緒の手を取り、引っ張って彼の体を起こした。

「おー、ありがと」




二人は寝室を出て、隣のリビングに行った。

「おはよう。今起こしに行こうと思っていたとこなの」

リビングでは二人の母親である琴音が朝ごはんを準備してくれていた。瑠奈にとっては義理の親だが、そんなことは関係ない。


瑠奈「おはよう、お母さん」

奈緒「母さんおはよー」


「ご飯できてるよ」

「ありがとう、いただきます」

「いただきます」


今日の朝ごはんは白米、シャケ、豆腐、味噌汁だ。

二人は朝ご飯を食べ始めた


琴音は二人の寝室に布団を畳みに行った。

「二人とも、今日から新学年でしょ。準備できてる?」

奈緒と瑠奈の寝室から二人に話しかける琴音。といってもリビングの隣なので大きい声を出す必要はない。


「昨日やったよー」

瑠奈は準備万端のようだ。

「奈緒はー?」

「おれも昨日やったから大丈夫ー」

新学年といえどそこまで持っていくものはない。

筆記用具、連絡帳、連絡ファイル、ぞうきん、袋、春休みの日記ぐらいだ。


「今日から奈緒と瑠奈は小学4年生か。早いね」

布団を畳み終えた琴音がリビングに戻ってきた。

彼女はテーブルの近くに位置するキッチンに行き、皿洗いを始めた。

「同じクラスになれるといいね」

「そうね。去年も同じクラスだったし」

「今までずっと同じクラスだから大丈夫でしょ」


トントントン


そんな話をしている3人の元に一人の中学生くらいの女の子が2階から下りてきた。琴音の娘であり、奈緒と瑠奈の姉でもある優菜だ。  


「おはよう!奈緒、瑠奈」

瑠奈「おっはー!お姉ちゃん」

奈緒「おはよー、姉ちゃん」


パジャマ姿の二人に対し、優菜はもう制服に着替えている。彼女も今日から中学2年生だ。


「制服に着替えるの早いね。もう、行くの?優菜」

「まだかなー。クラス替えが楽しみすぎて」

「あ、なるほど」

クラス替えは一大イベントなのだ。

自らも経験のある琴音は納得した。


「お姉ちゃん」

リビングにあるソファに腰掛け、リラックスムードになった優菜に話しかけたのは瑠奈だ。

「何?瑠奈」

「今日から中学2年生だよね?」

「そうだけど」

「進級できたんだ」

「当たり前よ」

瑠奈の言葉に優菜は苦笑しながら答えた。


「国語、めっちゃ点数低かったのに」

とは奈緒の言葉。


「中学校は点数悪くても進級できるし卒業もできるの、、って何でそんなこと知ってるの?」

「成績表見せてきたじゃん」

「え!? いつ?」


優菜は心当たりがないか考える。

そしてすぐ思い出した。

一年生の学年末テスト。

国語以外90点以上だったので二人に成績表を見せびらかしたのだ。

優菜は恐る恐る母親をみる。内緒にしてたのだ。

琴音は笑っていた。全体では好成績だったので文句はいわれないようだ。

優菜は胸をホッと撫で下ろした。


(私と同じだ)

優菜の考えとは違い、琴音はそう思っていた。琴音も中学時代国語の成績だけ悪かった。さすがは親子ということだ。

国語に喧嘩を売っているみたいだ。


「そういえばパパは?」

ソファに座りながらテレビを見ていた優菜は琴音にきいた。

「今日は早出よ」

朝川家の大黒柱である樹は今日は早い時間に出勤する日なのでもうすでに家を出発していた。


「ごちそうさま」


朝ごはんを食べ終わった奈緒と瑠奈は少しのリラックスタイムの後学校へ行く準備に取り掛かる。

歯を磨き、顔を洗い、トイレに行き、服を着替える。

そうこうするうちにあっという間に出発時間だ。

ランドセルを背負い、琴音が今朝準備してくれた水筒を持ち家を出る。


『いってきまーす』

「いってらっしゃい」

母親に見送られながら優菜、奈緒、瑠奈は3人揃って学校へ出発した。

といっても小学生の奈緒と瑠奈は集団登校、中学生の優菜は個人登校なのですぐに別々になってしまうのだが。


(あんたら二人強いんだから個人登校でも大丈夫でしょ)

と優菜はよく思っている。



キーンコーンカーンコーン

自分達が通う小学校に着いた奈緒と瑠奈。

創立100年を超えており、耐震工事がなされている結構立派な小学校だ。

古っぽいといえば古いようにも見える。

全体的に白い建物で、あちこちにちょっとした汚れが見える。


二人は3年生のときに使用した教室に行った。

この学校では人数が多いため一度前学年の教室に行き、始業式を終えた後、クラス発表がある。




「校長先生の話長かったね」

「全くだよ」

始業式を終えた奈緒と瑠奈はそんな会話をしながら体育館をあとにする。男女に分かれて背の順で並んでいるが、二人の身長は平均くらいなので隣同士なのだ。出席番号順でも近いのは言うまでもない。



始業式を終えたら次はいよいよ新クラスの発表だ。

新クラスの発表は南館と北館をつなぐ渡り廊下で行われた。

奈緒と瑠奈のいる学年は4クラス、A組、B組、C組、D組にランダムに分かれることになる。

A組の発表が終わった。二人の名前は呼ばれなかった。

次はB組だ。

担任となる先生が出席番号とともに名前を呼んでいく。


「5番、朝川奈緒。6番、朝川瑠奈。…」

二人は同じクラス、B組だった。


奈緒「やったね」

瑠奈「うん!」

二人は小声で言葉を交わした。




そんな二人を屋上からこっそり見る人物がいた。

水色っぽい髪に青い瞳をもち、

年齢は800歳をこえているが見た目は少女そのものな人物、コハルだ。

「あの二人今年も同じクラスなんだ」

「よかったじゃん」

そんな独り言を呟きながら嬉しそうな二人を見たコハルは満足して家に帰っていった。

気配を完全に消していたため、彼女に気づいた人物は誰もいなかった。





新学年、新クラスに移動した。


「朝川さん今年もよろしく!」

「朝川と同じクラスでよかったー」

二人は元のクラスメイトにも話しかけられながら新学年の新クラスに移動した。


席順は二列を一つの列とし、廊下の列から右、左 右、左という順番で出席番号順に座っていくことになったので奈緒と瑠奈は前から三列目の隣同士になった。


(奈緒と隣だ。えへへ、やった)

そんなことを思いながら奈緒をみて笑顔見せる瑠奈に奈緒は笑顔を返した。

(瑠奈と隣でよかった)

そんなことを思いながら。


予想はしていたものの二人とも同じクラスになれて嬉しいのだ。




「私の名前は山谷さゆです。今日からここB組の担任となります。そして今日からみなさんは4年生です。中学年としての自覚を持って行動しましょう」


奈緒(今年は女の先生なんだ)

瑠奈(なんか去年の先生より優しそう)



担任の先生が自己紹介と4年生としての心構えを述べていく中でそんな言葉など一ミリも耳に入ってない男子児童がいた。

その代わりに別のことを考えていた。

(よし!よし!朝川瑠奈と同じクラスだ!)

彼の名前は横田大翔(よこた ひろと)。

見た目は短髪で背が比較的高く、まるでガキ大将だ。そんな彼だが、昨年度は朝川家の二人とは別のクラスだった。

しかし、ある日廊下ですれ違った瑠奈に一目惚れしてしまっていたのだ。


そんな彼にも恋のライバルが現れた。

朝川奈緒だ。

奈緒は瑠奈といつも一緒。仲良く話し、いつも一緒に帰る。そんな奈緒が彼は気に食わなかった。

横田大翔、彼にとっては嫉妬の対象であったのだ。

もちろん、奈緒の方は彼、横田大翔のことなど気にも止めておらず、横田大翔の一方的な思い込みなのである。


もちろん、瑠奈も彼、横田のことなど全く気にも止めておらず、視界にも入っていないのは言うまでもない。


だが。そんなことを知らない彼はホームルームの後の休み時間にガキ大将のごとく瑠奈を自分のものにするために子分とも呼べるような立場にいる男子二人を階段に呼び出し、こう告げた。


「朝川奈緒の悪い噂を流せ」

と。



後編に続く












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