ちょっとだけ異界な現実世界
愛のカテ
第1話 プロローグ
とある病院。
生まれたばかりの赤子を抱く女性がいた。
彼女の名前は朝川琴音。
抱いているのは彼女の子供だ。
第二子を出産したというのに表情は優れない。
難産だったわけでもない。
出産自体は順調だった。
問題があったのは子供の方。
一見何も問題はなかったが、心臓に問題があった。
心臓が小さすぎるのだ。
小さすぎて十分な血液を体に送ることができていない。
「今晩がやまでしょう」
「そ、そんな、、なんとかならないんですか」
「残念ですが」
琴音は目の前が真っ白になった。
せっかく産んだ子供が、
自分の子供が、
*琴音視点
目が覚めた。
病院のベッドの上だった。
息子の状態を聞いた後、私はショックで気絶したらしい。
ベッドに横たわる私の近くには私の夫と、娘がいた。
娘は4歳になったばかりだ。
お姉ちゃんになると毎日はりきっていた。
「赤ちゃん楽しみ」や「私のお姉ちゃん計画」
などと言ってはりきっていた。
なのに、私は。
「ごめんなさい」
「琴音、産んでくれてありがとう」
「赤ちゃんかわいいー」
状況が分かっていないのか、娘ははしゃいでいた。
私は娘を抱きしめた。
もうわからない。
どうにもならない。
夜になった。
娘は晩ご飯をいつも通り食べていたが、私と夫は喉を通らなかった。
「お母さん、お父さんどうしたの?」
私達の表情にただならぬ雰囲気を感じとったのか娘は聞いた。
私達は娘に事を話すことにした。
「赤ちゃんね、死んじゃうの、、」
「え?」
「生まれつき、心臓が小さくてね、死んじゃうの」
「い、いやだ、、、」
「ごめんなさいね。私のせいで」
「やだぁーぁぁぁ」
娘は泣き出した。
病室に響き渡る泣き声。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
私も顔を両手でおさえて泣いてしまった。
「優菜、赤ちゃん楽しみにしてたもんな」
夫は優菜を抱きしめ、私のベッドに座り、私も抱きしめた。
「琴音のせいじゃない」
「わぁぁぁぁぁ、赤ちゃん死んじゃうのやだぁぁぁ!」
優菜の泣き声。
ああ、4歳の娘をここまで泣かせてしまうなんて。母親失格だ。
しばらく泣いた。視界が真っ暗だ。
何も考えたくない。
ふと、誰かが私の頭に手をのせてきた。
夫かと思い、顔をあげる。
しかし、そこにいたのは夫じゃなかった。
水色っぽい髪に青い瞳をもつ少女がいた。
ベッドの上に立っていた。
「琴音、情け無い顔してるんじゃない」
「え?あ、え、あれ?」
声が出ない。
娘の方を見ると泣き止んでおり、
ベッドの上に立つ少女を見ている。
「コハルさん?」
夫が言った。
「樹(いつき)、大きくなったね。」
「お、お久しぶりです。」
私の頭には初めて会った日のことが浮かんだ。崖から滑り落ち、滑り落ちた先にいたのがコハルさんだった。
大怪我をした私を不思議なパワーで治してくれた。そこから知り合いになった。
私は赤ちゃんのことを言った。
「コハルさん、赤ちゃんを、助けて」
私は涙ながらにそういった。
「そのつもりできたから」
樹「ありがとうございます。
ところで、ど、どうやって病室に?」
私たちは入ってきたことに全く気づかなかった。
「私を誰だと思ってるの?建物に侵入するくらい余裕。」
まあ、それはそうだろう。
と、泣き止んだ娘に聞かれた。
「赤ちゃん助かるの?」
「ええ、そうよ。」
「よかったな、優菜」
娘の顔がパァーッと笑顔になった。
普通ならいきなり現れた少女に全てを託すなんてことはしない。
だけど、この人なら何とかしてくれる。
昔、超能力を目の当たりにした私はそう思った。
夫も同じ気持ちだろう。
コハルさんに連れられて私達は彼女の住む家にやってきた。
深い森の中の開けた場所にある一軒家。
家の中の一室に案内された。
そこにはコハルさんのお兄さんであるジバリさんもいた。昔会った時から何も変わっていなかった。
樹「お久しぶりです。ジバリさん。お元気でしたか?」
琴音「お久しぶりです」
ジバリ「ああ、お前達も元気そうで何よりだ」
琴音「娘の優菜です」
ジバリ「おお、かわいい子だな」
ジバリさんは嬉しそうだった。
コハル「おにぃ、時間がないから」
ジバリ「わかっている」
樹「それで、うちの息子は治るんでしょうか?」
ジバリ「ああ、治る。命は助かる」
よかった。
自信をもって言ってくれているのがわかり、私達は安心した。
「どうやって治療するんですか?」
私は聞いた。
昔私の怪我を治すときに使った治癒能力を使うのだろうか。
樹「治癒能力ですか?」
コハル「いや、私とおにぃの治癒能力はあくまで生まれてからできた傷や欠損部分を治すだけ。生まれつき体の一部がなかったり不完全だったとしてもそれを治すことはできない。」
え?ならどうやって?
自分でも不安な顔になっていくのがわかる。
まさか、治るというのは嘘。
不安な顔の私と夫にコハルさんは説明を続ける。
「だから、これを使う。」
コハルさんがポケットから何かを取り出した。
緑色の結晶だ。
「これは私とおにぃの育ての親のエルクくれたもの。エルクの力の源の結晶だよ。こいつを吸収すれば生まれつきの欠損部分も全て治る。だからこの子の心臓も元の大きさに戻る。私とおにぃも昔吸収したの。ただ、」
樹「ただ、なんですか?」
「吸収できるのは生まれてからすぐの子だけで、まあ、それはいい。この子は生まれてからまだそんなに経ってないし。」
琴音「何か問題が?」
私は言った。
コハル「実は、、これを吸収すると私達のように身体能力が以前とは比べものにならないくらいパワーアップし、さらに歳も取らなくなる。寿命はわからないけど。
私達が800年以上生きてピンピンしてるし。育ての親も数億年生きてても老いてなかったから、この子にも同じようなことが起こると思う。」
「知り合いの死、家族の死に何百回も立ち会うことになってしまうけど、どうする?」
迷いなどない。
迷っている暇などない。
もう時間がない。
この世界を見せてあげたい。
色んな体験をさせてあげたい。
教えたいことだってたくさんある。
自分勝手かもしれないけど、
それでも私は、私達はこの子に生きていてほしい。そう思っている。
「お母さん?」
娘が私を不安そうな顔で見上げている。
私は娘を撫でた。
夫は私の方を向いて頷いた。
答えは決まっている。
「お願いします」
「お願いします」
私と夫はそういった。
「わかった。」
コハルさんは一言そう言うと息子に力の結晶を吸収させた。
その後、病院に戻り、息子の心臓の検査をすると
心臓の大きさが通常の大きさに戻っていた。
お医者さんはびっくりしていたが、検査ミスという結論にいたったのだろう。謝罪してきた。
検査ミスでもないし、治ったのだから
「大丈夫です。気にしないでください」
と言ったらお医者さんはびっくりしていた。
何があったかはジバリさんやコハルさんからの口止めもあり言わなかった。
後日、息子を連れて病院を退院し、家に帰ってきた。
「赤ちゃんかわいいー」
娘は赤ちゃんの側でそう言いながら赤ちゃんを撫でている。
娘はもうお姉ちゃんだ。
ところでコハルさんのところには息子と同じく結晶を吸収した赤ちゃんがもう一人いた。
「原因は違うけど琴音と樹の息子と同じで死にかけていた子なの。捨てられたみたい」
その子はうちで引き取った。金髪碧眼の女の子。
コハルさんは
「髪と眼の色は生まれつきみたい」
と言っていた。
金銭面では双子でも大丈夫なようにお金は貯めてたから問題ない。
「さて、頑張らなくちゃ」
「だな。おとうさんがんばるぞー」
夫は赤ちゃん二人を見ながらそう言った。
男の子には奈緒(なお)、女の子には瑠奈(るな)と名付けられた。
ーーー10年後ーーー
朝川家の玄関を飛び出し、遊びに行く二人の少年少女がいた。
「いってきまーす!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます