第28話:好きな人の好きな人には好きな人がいる03
次の日。その放課後。文化系部の部室棟。その一室に新入生が大挙して押しかけた。
曰く、
「文芸部に入りたい」
そんな感じ。
「でしょうね」
久遠の予感が現実に為っただけだ。さくじつ、
「神通さんが文芸部に入部した」
そんな噂が生徒間で激しく拡散され、
「我先に」
と文芸部への入部希望者が殺到した。以上。
「どうせこうなるとは思っていました」
そんな久遠。中には身命擲った部活を辞めてまで文芸部への入部を希望する生徒まで出たほどだ。
「オン・ソチリシュタ・ソワカ」
そんな紅蓮の心境。
「ですから兄さん」
心なしか久遠の言葉は弾んでいる。
「私とずっと一緒に寄り添いましょうね?」
甘やかかつ軽やか。静謐で情熱的。乙女の乙女たる弾む声の久遠だった。爆発的と同時に幾何級数的な入部希望者に追われて回向教諭は溺死している。
「あう……」
とは紅蓮では無く是空の物だ。軽い気持ちで文芸部に誘った結果がこれでは罪悪感の一つも覚えて当然ではある。とはいえあくまで仮入部。別に正式に入部しなければ、殺到した下心有りきの入部希望者と顔を合わせることも無い。
「何はともあれ……とかく私と兄さんは愛されているので何処かの部活に入ろうとのことが間違っています」
「ですね」
紅蓮にも異論は無いらしい。実際に自身の美貌については自覚的なので反論の余地も無かったりする。無念ではあるが。
「ではいっそ自分たちでサークルを作るってのはどうでしょう?」
新しい視点から意見が飛んだ。是空だ。茶色い瞳を蘭々と輝かせている。
「サークル……ですか?」
紅蓮が、
「にゃあ?」
と鳴いた。鼻血を垂らす久遠。兄が愛らしすぎて興奮の極みらしかった。
「どんな部活を?」
青写真を確認する。
「執筆部などどうでしょう?」
執筆部。要するに文章を書くための部活……サークルだ。
「先生が正式にお仕事にしてらっしゃいますから正当性はあるでしょう」
「無駄に入部希望者が増えるでしょうけど」
トゲのある久遠の言。
「俺は文章書けんぞ?」
「刹那には期待していないから大丈夫」
軽やかに残酷な言の葉を綴る是空。八聖にしてみればローテンションだろう。
「無明は……」
そんな落胆の言葉も紅蓮にとっては心を軋ませる代物だ。
「砂糖に群がるアリはどうするおつもりで?」
「それについては考えてあります」
人差し指を伸ばして教鞭の様に振るう是空。
「先生が部長になれば良いんです」
「それで?」
「執筆部の入部希望者に作品を書かせて先生が判定します。真っ当な理由で追い返せば良いでしょう?」
「そうなると兄さんが選考から漏れるんですけど」
「僕は執筆に明るくないですよ……?」
「そんなものは私も同じだよ」
胸を張る是空。そんな場面では無いが所謂、
「へのつっぱりはいらんですよ」
の心境だ。
「あくまでサークル名は当て擦りですよ。言い訳とも申しましょうか」
「後はダラダラするだけ?」
「ええ」
頷く是空。
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