第24話:烏丸茶人のブラコン14


「昼食にしましょう」


 そう云うことに相成った。


「ではメイド喫茶へ」


 至極当然と是空。案外対処に馴染んでいるらしい。


「久遠はどうでしょう?」


「構いませんよ」


 紅蓮たちはそんなわけでメイド喫茶を探して秋葉原を歩いた。


「…………」


 しばしディストーションフィールドに身を縮める紅蓮。


「大丈夫ですよ兄さん」


 ギュッと紅蓮の手を久遠の手が握りしめる。


 衆人環視。紅蓮を見て見惚れる男多数。フリフリのロリータファッションがそこに付加価値を付けていた。


「私が此処に居ます」


「……うん」


 結局久遠に頭の上がらない紅蓮だった。


「いいなぁ」


 とは是空の言。


「兄さん」


 と久遠に呼んでほしいらしい。無茶な願いだが。そんなこんなでかしまし娘(?)がメイド喫茶を探していると、


「あなたたち!」


 と声が溌剌と聞こえた。


「……っ!」


 ビクッと見知らぬ声に紅蓮が震える。


「大丈夫です」


 久遠が囁く。握った手を更にギュッと握りしめる。それだけで心が温まるのは紅蓮が安いのか。あるいは久遠の優しさが希少なのか。どちらとも取れるだろう。とまれ声の主である。見れば若い女性だった。あくまで平均的な話であって、学生である紅蓮たちには遠く及ばないことを明記しておく。


「バイトしてみませんか?」


 そんな提案。


「あー……」


 是空は素早く察した。銀髪碧眼の男の娘。黒髪黒眼の大和撫子。茶髪茶眼の今風女子高生。然もあらん。


「何者か?」


 との視線は減りもしないのである。


「その……シスターズ喫茶っていうのをやっていまして」


 聞くからに不安を誘う。


「女性をお客様にしたメイド喫茶なんですよ」


「はあ」


 とぼんやり是空が答える。


「そう言う物があるのか」


 といった感想だったが口にはしない。


「で、シフトの子が三人急に来れなくなって」


 だいたいそれだけでかしまし娘(?)は察した。パンと声をかけた女性は手を打ち鳴らして拝む。


「今日だけで良いからヘルプに入ってくれませんか? 給金の方も奮発いたします!」


「昼食をとってからで良ければ」


 とは是空。


「是空さん?」


 久遠がたしなめる。


「先生のメイド服……見たいよ」


「だからって……」


「久遠はメイド服嫌いですか?」


「そんな事はありませんが……」


 あれ?


 そんな心情。


「兄さんも加わる気で?」


「困っていらっしゃるのでしょう?」


「正にその通りです」


 声をかけた妙齢の女性はそう云った。その声に打算はあれども悪意はない。その程度は紅蓮の妙見が見て取れる。


「兄さんの処世術ですか」


「イエス」


 ニコッと笑う。


「受けてくれるの?」


「そうみたいですね」


 皮肉気に久遠が肯定した。


「出来れば昼食を用意してくださると助かるのですけど」


「それくらいで良いのなら幾らでも」


 そんなわけでこんなことになった。


「ふわ」


「はぁ」


「あは」


 キッチンで昼食をとった後、三人はメイド服に着替えた。


「お帰りなさいませお姉様」


 そんな声が朗々と響く。女性限定のメイド喫茶。その給仕にかり出される。紅蓮は見事な物だった。日本人では有り得ない銀髪に碧眼。そこにメイド服が加われば無敵だろう。


「三番テーブルに紅茶を二つ御願いします」


「承りました」


 営業スマイルで久遠が答える。


「オムライス出来ました。四番テーブル」


 そんな感じで事態は進行していく。久遠にしろ是空にしろ、昼食分くらいは働くつもりなのだろう。


「あうぅ」


 一人紅蓮が恥じらっていた。メイド服を着た銀髪碧眼。その愛らしさは天井知らずだが、当人の人間不信が足を引っ張っている。注文の受付程度しかこなせなかった。


「あの……」


 とおずおず客に声をかける。


「わお!」


 と喜ばれた。紅蓮の尊貌は女子から見ても魅力的だ。


「可愛い! 新人さん?」


「です……」


「やーん。お持ち帰りしたい」


 客の女性はハートマークを乱舞させていた。


「実は男です」


 と言ったらどうなるか?


 少し不安な紅蓮だった。


「注文の方宜しいでしょうか?」


 艱難辛苦を乗り越えて。血の汗流せ。涙を拭くな。仕事は仕事として取り組む。妙見で客が本音を言っているのも理解程度はしているが。

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