第23話:烏丸茶人のブラコン13
「先生」
ここで三人が合流する。
「私のことを兄さんって呼んでください」
「謹んで申し訳ありません」
ギュッと久遠は紅蓮の腕に抱きついた。狂おしいほどの熱量。柔らかい乳房の感触は慣れたモノだが有り難い。
「妹にとって兄さんは兄さんだけですから」
「あはぁ」
先述の言葉だけで達しそうになる是空だった。それほど生理論こと神通久遠の言葉は刺さるらしい。
『無頼の根源は妹に在り』
略称ブラコン。その作家である烏丸茶人が生粋のブラコンだというのだから世界は間違っている。
紅蓮はたまに、
「久遠は血縁を無視しているのではないでしょうか?」
そう思うことがある。思うも何もその通りなのだ。
紅蓮の妙見も、
「その通りです」
と見積もりを弾いている。
「困ります」
が本音だが、突き放す気にはなれない。紅蓮は自身の心が弱いことを知っている。その上で心を預けられるのが久遠しか居なく、久遠もソレを分かって紅蓮を甘やかしている。そこに打算はあれど、なくても久遠は紅蓮を抱きしめるだろう。そういう女の子なのだ……。神通久遠という少女は。
「後は僕が妹離れできるかに掛かっているのですよね」
そうも思うが、では久遠以外の誰かに心を仮託できるかならば、
「無茶ですね」
諦めて掛かる類だった。
「兄さん?」
「はいはい」
「兄さんは二期をアニメ化したら嬉しいですか?」
「少なくとも一期は面白かったですよ」
妹萌え。何も現代のラノベに始まったわけでもない。古くはたかむら物語もそうであるし、少し過去に行けば八墓村も此処に加えていいだろう。
「ふむ」
と一考する。
「スケジュールを聞いてからですね」
その辺が妥協点ではあろう。
「頑張っている久遠は好きですよ」
クシャクシャと髪を撫でる。
「兄さん……っ」
赤面する久遠。
「あはぁ……!」
興奮する是空。
「これ以上は迷惑でしょうか?」
そんな紅蓮の思案。ブラコンが売れていく様は見て取った。そう云う意味では今日のデートは成功に近い。その上で何もすることがないのも事実ではあった。同人誌を漁り出す久遠を見やりながら、
「想われていますね」
そう思う。
あるいは想う。
「可愛い妹」
ではあるのだ。少なくとも直球で好意を示す相手であるから。是空や八聖も打算のない声をかけてくるが、ソレとはまた別で大樹に寄りかかるような安心感。何気に紅蓮もシスコンである。そもそうでなければ紅蓮と久遠の関係も成り立たないだろうが。
ブラコンの同人誌を買い漁る久遠を見やりながら、やはりポツリと哀しげに笑みを落とす紅蓮だった。
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