第3話:恋慕の目覚めは春と共に02
次いでクラス分け。
掲示板に貼られた名前を見つけて紅蓮は教室に向かった。
紅蓮は一年一組。妹の久遠は一年二組だ。
ついでに八聖刹那の名を探すと二組に配属されていた。少しがっかりする紅蓮だったが、現状それどころではない。クラス分けの掲示板の前には多量の新入生が屯しており、なお紅蓮は悪目立ちしている。
いそいそと素早く自身の教室に避難する。が、場所が変わっただけで状況はあまり宜しい物でも無い。
基本的に紅蓮は異物だ。
男子は性欲と劣情の視線で見やり、女子は興味と嫉妬の視線で見やる。
それらに対して不干渉を貫き、紅蓮は黒板に示されている自身の席に座った。
「なんだかなぁ」
そんな感じ。一組の生徒が全員揃った後、担任の教師が教室に姿を現わした。新入生に対して色々と褒めたり称えたりの祝辞を送り、
「先生の事は回向先生と呼んでください」
そんな自負。それから自身が文芸部の顧問で入部希望者を募ると発言をした後、お決まりの生徒の自己紹介を催す。一人一人無難に自己紹介を済ませる。紅蓮も例外ではない。
注目こそ集めたが、
「神通紅蓮です。一年間よろしく御願いします」
端的に述べて席に着く。
「名前は日本人だな」
とか、
「もしかしてハーフ?」
などの囁き声が聞こえたが、とりあえずは無視。こう云うとき久遠には傍に居て欲しかったが、叶わない事は先刻承知。
教室の時計を見やり秒針を追いながら高校最初のホームルームを終わらせる。
昼食頃に放課後となった。
解散の合図を聞いて紅蓮は席を立つ。学生鞄を持って廊下に。また衆人環視のどよめき。今更だが。焦ってはいなかった。別に紅蓮と久遠だけが元々の中学校からの進学者なんてわけでもない。
「紅蓮は男子」
その通念は時間と共に常識となるだろう。その点に関しての心配はしていない。
あえて憂慮するなら、
「男でも良い」
と道を違えた男子生徒が出る可能性についてだ。銀髪碧眼の男の娘。なお女子制服を着て堂々と。ご丁寧に下半身の下着はスパッツだ。
別に誘惑しているつもりもないが、蝶にとっての花ではあるだろう。
「花の蜜をすすりたい」
そう男子が思うのもしょうがなく、事実中学時代からの定例でもある。
嘆息。
妹の久遠は事情があって入学式をボイコットしているため一人で帰らざるを得ず、紅蓮は少し冒険する事にした。食事は久遠と二人暮らしのマンション近く……その食堂で取る。
ビブリオマニア的には図書館を把握しておきたかった。
部活に入るつもりは今のところ無い。仮に入っても回向教師の推薦した文芸部が妥当だろう。
とまれ図書館である。
学生棟とは別の建物で、改築をされているのか真新しい印象を受ける。広く取られた二階建ての建物で、一階が資料で二階が娯楽の本を置いているらしい。
紅蓮は二階で並べられた書籍を見分する。
本の世界は好きな方だ。
言葉に彩が付いておらず、味気なくはあるが辟易とはさせられない。文言と其処から派生する意図が同一であるだけで紅蓮の心は安んじる。安直と取られるかも知れないが人間不信の紅蓮にとって書物は友達だ。
「…………」
しばし本棚を見やっていると、一つの本が目にとまった。
『
そんなタイトルの本。所謂ライトノベルに相当する小説。略称を『ブラコン』と呼ばれ、兄妹の禁じられた恋愛模様を描く傑作だ。
作者の名は
異世界ファンタジーが横行する世の中で、純粋なラブコメと評価されている作品であり、次々に重版のかかるモンスタータイトル。その一巻を手に取る。
同時に、
「あ……」
と少女の声が聞こえた。背中からだ。
「?」
疑問符が浮かぶ。
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