12   学校に復帰

 ☆

 ミルメールは1ヶ月高熱を出して、腰の治療のために、もう1ヶ月自宅で安静にしていた。


 2ヶ月休んで、やっと学校に復帰した。


 まだ腰にはコルセットを巻いているが、ミルメールには笑顔が浮かんでいた。


 学校では滅多に見ることができないと言われていた笑顔は魅力的で、今まで馬鹿にしていた男子生徒は色めき立った。


 机の中にはいつの間にか恋文が入れられて、よく殿方に声をかけられるようになった。


 けれど、ミルメールは誰にも返事を返さなかった。


 昨夜のこと、オピタル王子様がステレオン伯爵家にやって来た。


 学校を休んでいる間にも、オピタル王子様は度々お見舞いに来てくれていて、『体が完治するまで、ゆっくり学校は休んだ方がいいだろう』と父に助言をしたのもオピタル王子様だった。


 今回はミルメールの快気祝いとして父が招待したという。


 ささやかな夕食を一緒に食べて、ミルメールとオピタル王子様はステレオン伯爵家の庭園で散歩をしていた。月が綺麗な夜だった。


 数時間一緒に過ごして、オピタル王子様は従者と共に帰って行った。


 オピタル王子様を見送るミルメールには、今まで見たこともないほどの笑顔が浮かんでいた。



「お嬢様、ルース王子様がお迎えにいらっしゃいましたよ」


「ミルメール、一緒にお弁当を食べないか?」



 ルース王子はいつものように元気いっぱいな顔でミルメールの教室に飛び込んできた。



「お弁当を一緒に食べるだけよ」


「もちろん、それだけで十分だよ」



 ニコッとミルメールは微笑む。


 さっと朱を掃いたように、ルース王子の頬が赤く染まる。



「今度、舞踏会が行われるんだ。良かったら。来てくれないか?」



 白い封筒を渡されて、その封筒をグルナに預けた。



「わたし、オピタル王子様に婚約者になって欲しいと求愛されたの。わたしが真っ白な顔でも笑わなくて、泣き顔で汚くなった顔でも汚いなんて言わずに、わたしに優しくしてくれたオピタル王子様を好きになったの。だから、了承したの」


「なんだって?」



 ルース王子は、大声をあげた。


 ミルメールは咄嗟に耳を塞いだ。


 幸い、騒がしかった教室で、その言葉を聞いた者はいなかった。



「兄様は何も言っていなかったぞ」


「あら、そうなのね?」



 ミルメールは、まだ幼い弟がいるが、弟に何も悩みを相談しないし、一緒にあまり遊ばない。歳が離れすぎていて、弟はやんちゃを仕掛けてくるくらいだ。



「舞踏会でルース王子はマヤを選んだのですもの。マヤにお弁当を持ってくるように言っておくわ」


「僕が好きなのは、ミルメールだけだよ」


「でも、白玉団子とか汚い顔って、わたしの事を笑っていたわよね?オピタル王子様は、そんなわたしを一度も笑わなかったんですもの」


「やり直す機会をくれるんじゃなかったのか?」


「今、作っているわ」


「お弁当を食べるだけでなく、一緒にダンスも踊って欲しい」


「それは駄目よ。今度の舞踏会でオピタル王子様にダンスを誘っていただいたんだもの」」


「ムムムムム」



 ルース王子は眉間に皺を寄せた。



「わたし、ずっとそばかすがコンプレックスだったの。お母様のお陰で、綺麗に消すことができて、今とても晴れやかなの」


「そばかすがあっても、ミルメールは美しかったよ」


「コンプレックスは自分でしか分からないわ」



 ミルメールはシミ一つない綺麗な肌になっている。


 顔のパーツ、一つ一つが綺麗だから、とても美しい。



「兄様はずっと年上だよ。話が合うのは僕の方だと思うけれど」


「そうかしら?オピタル王子様はとても紳士的で、一緒にいると自分がお姫様になったような気持ちにしてくれるのよ?」



 またルース王子は眉間に皺を寄せた。


 だから言ったのに……とルース王子の側近は、心の中で呟いた。


 グルナは、愛らしい笑顔を見せるようになったミルメールの生涯を見ていこうと心に決めた。



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