11   繊細なお嬢様    3

 ☆☆

 熱は下がらず、ミルメールは弱っていった。


 このまま死んでしまうなら、グルナは身を隠さなくてはならなくなる。


 死神協会から追われている身だ。


 死を迎える者の傍にいれば、グルナは捕まる。



「ミルメールお嬢様、気を確かに」


「グルナ、わたし、このまま死んでしまいたいわ。醜い姿を晒さずにすむなら死も怖くないわ」


「生きる意欲を失わないでください」


「グルナ、死んだらどうなるのか教えて?」


「亡骸から出た魂を死神が回収をして、転生できるように処理をするんだ」


「転生できるなら、今度はそばかすのない顔で生まれたいわ」


「死にませんよ。お嬢様はたった16歳じゃないですか?」



 ミルメールは儚く微笑む。


 ミルメールの両親が医師を連れて部屋に入ってきた。



「この熱の原因はなんだ?」


「腰はコルセットで固定しています。炎症があれば治まるはずです。風邪とも違うようです。流行性の悪質な病気は流行っておりません。考えられるのは、精神的なストレスでしょう」


「なんだと?」



 父親が怒っている。



「そばかす」



 ふと浮かんだ言葉をグルナが口にすると、両親ともハッとしたように顔を見合わせた。



「すぐに顔を綺麗に拭いてちょうだいな」


「畏まりました」



 母親が急いで部屋から出て行った。


 侍女が濡れたタオルでミルメールの顔を拭う。


 子供用の化粧品ではなく、母親は自分の化粧品を持って来た。


 綺麗に顔にクリームを塗ると、下地クリームを重ねて塗る。その上からファンでションを重ねて塗って、その上から薄く粉をはたくと、そばかすは綺麗に消えた。



「鏡を」


「はい!」



 侍女が急いで、鏡を手渡す。



「ミルメール、そばかすが消えましたよ」



 ミルメールに鏡を持たせて、顔を見せると、ミルメールは嬉しそうに微笑んだ。



「そばかすがないわ」


「お母様がそばかすを消すお化粧の方法を教えてあげるわ。元気になったら、一番に教えてあげますから、安心して眠りなさい。熱が下がったら、お化粧を覚えるのよ」


「……うん」



 ミルメールは目を閉じて、眠った。


 翌日には、熱が下がった。


 皆が安心したが、グルナも安心した。


 あと1日待って、熱が下がらなければ、姿を消そうと考えていた。


 妹に似た少女の死を看取ることもできないと落胆していた。


 それが、すっかり熱を下げたミルメールは、汗で濡れた体を洗い、母親にお化粧の仕方を教わっている。



「ミルメール専用の化粧品を買いに行きましょうね?」


「お母様、お願います。お母様の化粧品だとそばかすが消えるのね」


「子供は薄化粧でも綺麗なのよ。それでも、どうしてもそばかすが気になるなら、そういう化粧品を使えば消えますよ」


「そばかすのない顔になりたいの」


「分かったわ。今日は安静にして、熱が出なかったら、明日、買い物に行きましょう」


「今日はおとなしくしているわ」


「腰も痛いときは痛いと教えてちょうだいね」


「はい、お母様」


「それと、眠るときはお化粧を落とさなくてはいけませんよ。お肌が荒れてしまってお化粧ができなくなってしまいますからね」


「はい」


「子供化粧品とは違って、大人の化粧品は落とすのも大変なのよ。ちゃんと覚えてね」


「そばかすのためなら、ちゃんと覚えるわ」



 ミルメールは見違えるように元気になった。

 

 グルナはやっと笑顔を振りまく妹に出会ったような気持ちになった。


 しばらくは、ミルメールの付き人でいようと心に決めた。


 翌日、ミルメールは両親と買い物に出かけた。


 ミルメールの為の化粧品を買いに行き、帰りにドレスを作ると言っていた。


 王家がマヤに贈ったドレスよりいい物が欲しいと、ミルメールは強請った。


 両親はミルメールの欲しがったドレスをオーダーメイドで作った。



「ベークシス伯爵家に贈られた物以上の物を作ろう」


 父は格下のマヤ・ベークシス伯爵令嬢よりもいい物を、ミルメールに着せようと張り切った。



「もう、誰にも笑われることはないだろう」と父がミルメールに言った。ミルメールは嬉しそうに微笑んだ。


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