6 妹に似たお嬢様 4
☆
じっと安静にしていたミルメールは、少しずつ寝返りができるようになって、すぐに自宅に戻りたいと申し出た。
ルース王子は一度も顔を見られなくて、兄に頼んで「一度でも会いたい」とお願いした。
「オピタル王子様、今なら家に戻れるような気がします。どうか、父を呼んでください」
「その前に、弟に謝罪の機会を与えてはくれまいか?」
「謝罪はいりませんわ。この先、お目にかかることもないと思いますので、どうぞ、わたしの事はお忘れください。必ず忘れてくださいとお願いしてください。二度と、宮殿の舞踏会も出席いたしません。学校も辞めるかもしれません。静かに暮らしていきますので、ご安心ください」
「そこまでしなくても、宮殿には是非、来て欲しい。舞踏会の招待状は必ず送ろう。学校も辞めたら駄目だよ。一人でひっそり生きるなんて勿体ないだろう?」
「醜く汚い顔を晒して生きて行くのが辛いのです。ルース王子様も汚い顔とおっしゃっていましたもの。こんなに醜い者が生きていける場所など、ありませんわ」
「ミルメールは、美しい顔立ちをしている。弟は間違った事を口にしたことを悔いているのだ。どうか謝罪の機会を与えてくれないか?」
「王子様から謝罪されるなんて、お父様が知ったら叱られてしまいます」
「ミルメールの父上にも謝罪しなければならない。国王も心を傷めているのだ」
「国王陛下がですか?」
「弟が犯した罪は、謝罪だけでは済まないほど、王子として恥でしかない。どうか弟に自分で犯した罪を償わせてはくれないか?」
「大袈裟ですわ。伯爵家の令嬢に本当の事をおっしゃっただけですわ」
「私ではなく、国王がお願いに来たら会ってくれるか?」
「そんな、国王陛下まで来られたら、わたし生きていけません」
「それなら、弟に謝罪の機会を与えてくれるね?」
ミルメールはとうとう頷いた。
「お父様に連絡を必ずしてくださいね」
「ああ、約束をしよう」
「お願いします」
ミルメールはベッドに横たわったままで、オピタル王子様にお願いした、
オピタル王子様が部屋から出て行くと、扉がノックされた。
「ミルメール、僕だよ。ルースだ。謝罪をしたいんだ。入ってもいいか?」
ミルメールは頷いた。
グルナは扉を開けた。
「お嬢様は頷かれました」
「ああ、良かった」
ルース王子はピンクのミニブーケを持って、部屋の中に入ってきた。
「ミルメール、僕の方を見てくれないか?」
「…………」
ミルメールは窓の外を見ている。
決してルース王子の顔は見ていない。
「最初に笑った事を謝るよ。ミルメールが怪我をして泣いている姿を見て汚い顔と言った事も謝るよ。ごめんなさい。ミルメールの素顔を見たときから、僕はミルメールを好きになってしまったんだ。なんて無礼なことをしてきたんだと、幼い心を持つ自分が恥ずかしくなったよ。心を傷つけてしまってごめんなさい。僕がミルメールを好きなったことを覚えていて。腰の具合が良くなったら、また舞踏会を開くから、どうか参加して僕とダンスを踊って欲しいんだ」
ミルメールの手に触れると、ミルメールが震える。ルース王子は震えている手を握って、ミニブーケを持たせた。
外ばかり見ていたミルメールは、手元のミニブーケを見ている。
やっと顔が見られて、ルース王子が嬉しそうな顔をした。
「お見舞いに行ってもいいかな?」
「わたしの事はどうぞお忘れください。醜女の事などいつまでも思っていてはいけません。王子様ならば尚更」
「ミルメールは美しい。その髪も、その瞳も、そばかすもチャーミングだ。隠す必要などないからな」
「…………」
「ミルメールの父上が迎えに来るまで、一緒にいてもいいだろうか?」
「話すことは何もないのよ」
「一緒にいるだけでいい。最初にミルメールを傷つけたのは、僕だ。すぐに許さなくてもいいけど、僕はミルメールと一緒にいたいんだ」
ミルメールはミニブーケを握ったまま、窓の外に視線を向けた。
世迷い言を言っているルース王子の顔は、一度も見られなかった。
王子様を訴えたりしない。
ただ早く忘れて欲しい。
ミルメールは父が迎えに来るまで、ルース王子の世迷い言をなんとなく聞いていた。
父が迎えに来て、ミルメールは涙を流しながら父に抱きついたけれど、腰が痛くて、うまく抱きつけない。
「わたくしが屋敷まで送ります。お嬢様の腰が完治するまで、どうぞお側に置いてください」
グルナは王家からの派遣という道筋を作ったが、そのままミルメールの傍にいるのもいいと思っている。
見目麗しい令嬢が、そばかすがあるだけで、自信をなくしている姿を見ると、妹の事を思い出す。
ルース王子との今後も気になる。
「ミルメール、お見舞いに行くから」
「……お世話になりました」
ルース王子の言葉をスルーして、ミルメールはオピタル王子様にお礼を言った。
「娘がご迷惑をかけました」
「こちらこそ、ご令嬢の心を穢してしまって申し訳ない」
「その事は、こちらでも対処していきますので」
「本当に申し訳ございません」
オピタル王子様は、何度も頭を下げていた。それに倣って、ルース王子も頭を下げている。
グルナはミルメールを抱き上げて、馬車に乗った。
痛そうに顔を顰めるミルメールの痛みを魔術で軽くした。
馬車は静かに動き出した。
ミルメールは俯いている。
王子達はミルメールを一生懸命に覗き込んでいたが、結局、ミルメールは一度も顔を上げなかった。
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