5   妹に似たお嬢様   3

 グルナは久しぶりに、面白い人間を見つけて、ミルメールの世話役の役目に就いた。


 ミルメールを部屋に運び、ベッドに寝かせる。


 ぎっくり腰なら、うつ伏せより仰向けが楽だろう。


 魔力を使い痛くないように寝かせてやる。



「グルナさんは、全然、痛くないわ。ありがとう。グルナさん」


「いいえ、お嬢様に少しでも痛みを与えないように気をつけますので、どうぞご安心ください」



 グルナはミルメールを動かすときに、魔力を使って手伝う。


 女性の侍女もつけられて、甲斐甲斐しく世話を焼く。


 お化粧を綺麗に落としていくと、面白いことに、ミルメールはそばかすがあるだけで、絶世の美女だった。


 そばかすも自分が言うほど目立ってはいないが、ミルメールは顔にあるそばかすが嫌なのだろう。


 美しい容姿をしているのに、そばかすがあるから、醜いと思い込んでいる。


 綺麗な洋服や髪飾りで飾られていない姿は、誰にも見られたくないようで、せっかくの王子の面会も断ってしまう。


 オピタル王子は、まだ会うことはあるが、ルース王子に至っては、頑固なほど面会を拒否する。


 白粉の姿を笑われ、最後には汚い顔と言われたショックで、完全にルース王子を嫌ってしまった。


 自分より冴えないと思っていたマヤを選んでダンスを申し込んだ事もあり、拒絶反応が激しい。


 その反面、ルース王子は白粉の下の素顔を見てから、ミルメールに恋しているようだ。


 白粉姿を笑ったばかりに、初めて見初めた少女に拒絶されている王子の姿を見るのは、面白く、楽しい。グルナは、王子が訪ねてくる度に、ミルメールに声をかける。



「ルース王子がお見舞いに見えていますが」

 


 如何でしょうか?と続ける前に、ミルメールは顔色を変えて、



「絶対にイヤです!追い返してください。入ってきたら、舌を噛みます!」



 と、強い口調で、拒絶する。


 顔すら見られない王子の悲痛な顔が、なんとも哀れで面白い。



「花を持って来たんだ。顔を見せてくれるかい?」


「マヤに届けたら、きっと喜ぶでしょう」


「白粉の顔を笑った事は謝るから……」


「謝罪はいりません。どうぞ、お帰りください」



 しょんぼりとしたルース王子を見て、オピタル王子が、ルース王子の手から花束を受け取ると、部屋に入ってくる。



「お花があると、早く元気になれると思うよ」


「オピタル王子ありがとうございます」


「弟が、非礼なことをしたことを謝罪したいようなんだ。会ってはくれまいか?」


「……ルース王子様はわたしを笑いものにして、マヤを選びましたわ。王子様からの謝罪などいりません。そばかすのわたしも、白粉のわたしも醜かったのですわね。わたしを白玉団子とおっしゃったお言葉は、もう二度と忘れることなどできませんし、わたしを汚い顔とおっしゃったお言葉も忘れられませんわ。ルース王子のファーストダンスのお相手はマヤでしたもの。どうぞ、マヤと仲良くなさったら如何でしょう?素敵なドレスを着たマヤの勝ち誇った笑顔は、きっと忘れることはないでしょう。学校でも、もう友達にはきっと戻れませんわ。わたしはひとりぼっちで過ごすことにいたします」


「そうか、それほどまでに、傷ついておるのだな」


「傷ついているわけではありませんわ。ただ真実をお伝えしただけですわ」



 そばかすと同じでトラウマを持ってしまったのだろう。


 王子の求愛も届かないほどの、深いトラウマを……。


 可哀想ね、この子……妹の声が聞こえたようで、グルナは生けられた花を見つめる。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る