4 妹に似たお嬢様 2
☆
「痛い、痛たたたたっ!」
侍女が数人来て、ミルメールの白粉が剥がれた顔を、綺麗に拭いて素顔が現れた。
ドレスも脱がされて、ガウンを着せられると、診察用のベッドに寝かされてしまった。
身動きの取れないミルメールは、されるまま自分で動けない。
医師が入ってきて、腰から尾てい骨に触れている。
「痛いわ、痛たたたっ!」
「これはぎっくり腰であるな」
「はぁ~?」
「相当な勢いで転んだのであろう」
「足元がつるんって滑ったの」
「歩くときは、お淑やかなに歩かねばならぬ。しばらくは安静第一であろう」
「家に帰りたいわ」
「動けるのか?」
「動けないわ」
医務室の中に、オピタル王子とその側近が入ってきた。
「白粉の中はなんと愛らしい顔をしておるではないか?」
「こんなそばかすがある顔のどこが愛らしいのかしら?とても醜いでしょう?ルース王子様のように声を上げて笑ってもいいのですよ」
ミルメールはヤケクソに言い放った。
実際、そばかすがあるが、かなりの美女だ。
相当、そばかすがコンプレックスなのだろう。
「弟が無礼な真似をした。申し訳ない」
「オピタル王子様が謝罪する事ではないわ。実際に醜いのですもの。ああ、情けないわ。できることなら、ここから逃げ出したいのに、動けないなんて」
ミルメールはうつ伏せになって、シクシクと泣き出した。
「動けないのなら、どうぞ、後生ですので、ナイフを1本ください。ここで首をかきき切りますわ」
「それはいかん。ナイフなど切れる物は、この部屋からすぐに出してくれ」
オピタル王子は慌てて、大声を出した。
しかし、医師は冷静だった。
「オピタル王子、お嬢様は幸い動けません」
「そうか、そんなに酷い転び方をしたのか?」
「この様子だと、1週間は動けないでしょう」
「そんなに動けないの?家に帰りたいわ。こんなに醜いわたしを、どうぞ見ないで下さい」
ミルメールは、また顔を覆って泣きだした。
侍女が濡らしたタオルを渡してくれる。
タオルで目元を覆い、涙をタオルに吸わせる。
「お嬢さん、お名前を教えていただけないか?ご家族に知らせなければならいからな」
「わたしの名前は、ミルメール・ステレオンと申します。どうぞ父に知らせて、迎えにきてくださいとお伝え下さい」
「ステレオン伯爵家の令嬢か?」
「そうです。恥さらしの娘でございます」
「そう、悲観するな。そばかすも愛らしいではないか?」
「オピタル王子様は、きっと目が悪いのですね?ルース王子様は、わたしを見て吹き出して、爆笑しておりましたわ。先ほどは汚い顔とおっしゃいましたわ」
「ステレオン伯爵家に伝えを送ってくれ。この宮殿で1週間お預かりすると」
「とんでもございません。這ってでも帰りますわ。ルース王子様にお目にかかるまでに、するっと消えてしまいますわ」
ミルメールは腕に力を入れて、体を起こすと、悲鳴を上げて、パタリとベッドにうつ伏せになった。
「今日は舞踏会に来なければよかったわ。こんなに醜い姿をさらすなんて、恥でしかないわ。この先、学校へも行けないわ。故意ではなかったけれど、マヤに葡萄ジュースをかけた罰があたったのね。ああ、もう死んでしまいたい」
ミルメールは、また泣きだした。
「どうぞ、父を呼んでくださいまし。後生ですから、どうかこれ以上の恥の上塗りはしたくはありません」
扉がノックされて、扉が開いた。
父が心配して迎えに来てくれたと期待を込めて扉が開いた場所を見ると、なんと父ではなく、一番会いたくないルース王子様だった。
「白粉の下の素顔は、なんと愛らしい」
「……キャー」
ミルメールはショックの余りに気を失った。
せっかくの愛らしいという言葉は、悲鳴でかき消された。
パタリと動かなくなったミルメールを見て、オピタル王子は侍女に部屋を準備するように指示を出した。同時に使用人にステレオン伯爵家に令嬢をお預かりすると、伝達を頼んだ。
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