エピローグ
エピローグ
☆
アンジュが2歳の誕生日を迎えると、アンジュに魔術が目覚めた。
レオンほどではないが、それでも強い魔術を持っていた。
自分で勝手に瞬間移動をしてしまう。モリーとメリーでは追いかけられなくなり。レオンはアンジュ専属の付き人を付けた。
魔術に長けて、アンジュを追いかけることのできる力を持ったフルスの部下のプエンテだ。やんちゃなアンジュが暴走しないように、フルスもプエンテとアンジュを追いかける。
今は自分に身についた魔術が楽しくて仕方が無いようで、瞬間移動や飛行に、火球まで作って目を離すと、森を焼いてしまいそうになっている。
アリエーテには魔術がないので、アンジュを追いかけて叱ることはできない。
魔王のレオンは、魔王の公務もあるので、いつもかも見てやれない。
アンジュの暴走は1ヶ月ほど続いて、やっと出かける前のアンジュをレオンが捕まえた。
「アンジュ、魔術でそこら中を燃やすのは駄目だ。人に向かって火球を飛ばすのも駄目だ。魔術で迷惑をかけてはいけない」
「だって、面白いんだもの」
「高速で飛びすぎて、帰る家が分からなくなったらどうする?」
「アンジュはちゃんと分かるもん」
「魔術は、騎士団の広場できちんと習いなさい。お出かけしたいときは、パパとママと出かけよう。ママが寂しがるぞ?」
「ママ、寂しい?」
「寂しいわ。アンジュが迷子になるかと、ママはいつも心配よ。パパの言うことを聞いて、フルスとプエンテに正しい魔術を学んでね」
「ママは教えてくれないの?」
「ママは魔術が使えないの。だから、アンジュに追いつけないのよ」
「どうしてママは魔術が使えないの?」
アリエーテは返す言葉に詰まってしまう。
元は人間なのよ……なんて話しても、幼いアンジュに理解できるはずがない。
困っていると、レオンがアリエーテの肩に触れた。
「魔術は大切な人を守るために使いなさい」
「大切な人?」
「パパはいつもママを守っているんだ。アンジュもママを守れる魔術を覚えてくれるか?アンジュもママが死んでしまったら悲しいだろう?」
「ママ、死んじゃうの?」
アリエーテが自分を守り、1ヶ月目覚めなかったことを思い出したのか、アンジュはアリエーテの顔を見つめる。
「ママは魔法が使えないから、誰かに攻撃されたら危険なんだ。アンジュの攻撃がママに当たったら、ママ、死んじゃうかもしれないぞ。いいのか?」
レオンは根気よく娘に言い聞かす。
「ママが死んじゃうのは嫌だ。アンジュ、ちゃんと言うことを聞く」
魔術を自在に操ることを覚えたばかりのアンジュは、レオンとアリエーテをじっと見つめて、頷いた。
アンジュの暴走は、やっと止まった。
騎士団の広場で、フルスとプエンテに学ぶようになった。
「ああ、良かったわ」
アリエーテはホッとしていた。
魔術のない自分が情けなく感じて、アリエーテは落ち込んでいた。
元々、人間なのだから、魔術など使えるはずもない。
「アリエーテ、魔術を教えることのでき者は、この屋敷の中に大勢いる。アリエーテはアンジュのママでいればいい」
アンジュがフルスとプエンテと一緒に出かけていくと、レオンがアリエーテを膝の上に抱き上げた。
「アンジュお嬢様は、とてもわんぱくに育ちましたね」
モリーが嬉しそうに言った。
「魔界では、これが普通なの?」
「そうだな。今は、魔術が面白くてたまらないのだろう。もう少し成長したら、落ちつくだろう」
「そうなのね。人間界とあまりに違って、戸惑うことばかりよ」
「子育ては、魔術で教える物ではないから、アリエーテはアリエーテなりの方法で、アンジュに接していればいい」
「わかったわ」
レオンはアンジュが魔術に目覚めてから、アリエーテにまた結界をしっかり張るようになった。アンジュの魔術がアリエーテを傷つけないように気をつけている。
☆
オルビスとヘルメースが屋敷を訪ねてきた。
使われたことのないサロンに招いて、お茶会を開いた。
アリエーテも紅茶を魔界流に淹れられるようになった。
シェフの作ったサブレを添えて、お茶を並べた。
魔力の尽きていたオルビスは、ずいぶん魔力が回復してきたようで、髪も生えて、若々しくなってきていた。
レオンが歳を取ったら、その顔になるのかな?と思えるような顔立ちになっている。
髪もまだ短いので、レオンによく似ている。さすが双子の兄弟だ。
もっと魔力が戻ったら、もっとレオンにそっくりになるのかもしれない。
ヘルメースは、子供を産まなくてはならないというストレスから解放されたのが良かったのか、優しい顔立ちになっていた。オルビスと二人で過ごすことが楽しいようだ。最近では二人で魔界を旅しているという。
「次の子は、まだ生まれないの?」と姉は微笑みながら、アリエーテにささやかなプレッシャー与えて、帰って行った。
その姿を見て、レオンは声を上げて笑った。
「どうやら、吹っ切れたようで良かったな」
「そうね」
アリエーテも微笑んだ。
子供を産むことに執着していた姿は、もうそこには見当たらなかった。
☆
レオンとアリエーテは、宮殿にある魔王の絵画の間に飾るための絵を描いてもらうことになった。
レオンは黒いタキシードを身につけ、凜々しい姿で描かれた。
アリエーテは聖女のような白いドレスを着て描いてもらった。
聖女時代に学んだ事は、この魔界でも通用する魔術だ。決して嫌なことばかりではなかったと思えるようになっている。
アリエーテの治癒魔法を学びたいと言い出した魔族の者も多く、アリエーテは治癒魔法を多くの魔族の人に知ってもらおうと、治癒魔法教室を開くようになった。
怪我は治せるが、炎症まで治せない魔界の医師団は、競ってアリエーテの教室に通うようになった。
病気で苦しむ者が少なくなるといいとアリエーテは、願っている。
アンジュに手が掛からなくなって、アリエーテも多忙な生活を送るようになった。
そんなある日、レオンがアリエーテを抱き寄せて、「教室はおしまい」と言い出した。
「どうして?」
「アリエーテのお腹に拍動が見える。治癒魔法は体に負担がかかるからな」
「え?」
「おめでとう。妊娠だ」
アリエーテは下腹部に触れる。
「本当に?」
「アリエーテの体の事は、全てお見通しだ」
レオンは嬉しそうにアリエーテを抱き上げた。
「男の子でも女の子でも、どっちでもいいぞ」
「レオン、本当なの?」
「嘘を言っても仕方が無いだろう」
レオンはアリエーテを横抱きにすると私室に連れて行った。
「モリーとメリー、二人目が生まれるぞ。アリエーテを頼む」
「おめでとうございます」
二人は嬉しそうに微笑んだ。
「次はどんな子が生まれるか楽しみだな」
「レオン、赤ちゃんは、どんな具合なの?」
「まだ、心臓が動き始めたばかりだ」
初期の初期だ。
「今日の教室だけ、出てもいいかしら?」
「いや、駄目だ。妊娠初期は無理しちゃいけないからな」
レオンは、アリエーテを抱き上げてカウチに座った。
「モリー、アリエーテが落ちつくまで、教室は休みだと伝えてきてくれ」
「畏まりました」
モリーは部屋を出て行った。
メリーが二人にお茶を出した。
「どうぞ、ゆっくりお寛ぎください。わたくしはシーツ交換に行って参ります」
「頼むよ」
「畏まりました」
メリーは寝室に入って行った。
「アンジュもお姉さんになるんだな。ああ、幸せだな」
「そうね、幸せな事ね」
アリエーテはレオンの手に手を重ねた。
レオンはアリエーテの婚姻の証にキスをした。
・・・・・・・・・
読んでくださりありがとうございます。
引き続き、続編が続きます。楽しんでいただけますように。
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