第7話   目覚め

 思った通り、アリエーテは目を覚ました。


 ぼんやり目を開けて、そこにレオンの姿を見つけると、愛らしく頬を染めた。



「よく眠れたか?」


「はい」



 手を伸ばしてきたアリエーテの手を握る。



「とても長い間眠っていたような気がします」


「15日間眠っていた」


「そんなに?」


「人間から悪魔に変わるのに、それほどの時間が必要だったのだろう」


「わたしは、もう悪魔ですか?」


「ああ、もう人間ではない」



 アリエーテは微笑んだ。



「長生きできるのかしら?永遠のような時間をレオンと一緒に生きられるのかしら?」


「ああ、これから一緒に時間を刻んでいこう」



 レオンは横たわったままのアリエーテを膝に抱き上げた。



「目が回るようなら、凭れいなさい」


「はい」



 アリエーテはレオンの胸に凭れかかる。


 その背中を優しく撫でると、アリエーテは嬉しそうにしている。



「お腹は空かないか?」


「空いたような、空いていないような……」



 まだ寝ぼけているのだろう。



「起きているのは辛くないか?」


「目が回るような感じがしますが、気分は悪くはありません」


「食事を持って来てもらおうか?」


「自分で行けますわ」



 アリエーテはレオンの膝から滑り降りるように足を床に下ろすと、その体が傾いていく。レオンは、またアリエーテを抱き上げた。



「ガウンを着なさい」



 そう言うと、レオンの手の中に眠る前に着ていたガウンが現れた。


 背中に羽織らせるとアリエーテは。袖を通した。


 ボタンはレオンがはめてくれる。



「アリエーテの部屋に行って、目覚めたことを知らせよう」


「はい」



 レオンはアリエーテを抱き上げると、魔術で扉を開けて、アリエーテを部屋に運んだ。



「お目覚めですね、奥様」


「奥様?」



 レオンは微笑む。

 アリエーテを膝に抱いたままカウチに座ると、モリーが手鏡を持って来てくれる。



「婚礼の証が出た」


「婚礼の証?」


「俺の証はここだ」



 レオンはネクタイを緩めて、シャツのボタンを二つ外すと、アリエーテに痣を見せた。


 シャツを緩めなくても見える位置にあるが、綺麗な形を見せたかった。



「薔薇の絵のようですわ」



 アリエーテはその痣に触れる。


 薄紅色の美しい薔薇の花が咲いているように見えた。



「手鏡を受け取ってごらん」


「はい」



 アリエーテはモリーから手鏡を受け取った。すると、レオンはアリエーテの首に触れた。



「ここを見てごらん」



 アリエーテは言われたとおりに、首を鏡で見た。


 レオンと同じ痣が首に咲いている。



「すごいわ、悪魔になると痣がでるのね?」


「そうではなくて、結婚の証の痣だ。俺とアリエーテは立派に認められた伴侶だ」


「レオンと結婚したの?」


「婚礼の儀式と話しただろう?この痣は互いに愛し愛されていなければ出てこない痣だ。アリエーテも俺のことを想ってくれていたのだな」



 アリエーテの頬が真っ赤に染まっていく。



「夫婦になった証だ。堂々と見せびらかしてくれ。魔界ではそういう風習だ」


「なんだか恥ずかしいわ」


「これほど美しい証も珍しいのだぞ」


「そうなの?」



 モリーとメリーは笑顔で頷いた。


 メリーはテーブルに紅茶を並べて、「お食事をお願いして参ります」と言って、部屋から出て行った。



「アリエーテも目覚めた。体力が戻ったら魔王と王妃に会わせよう。王妃はさぞかし喜ぶであろう」


「魔王様と王妃様ですか?」


「アリエーテは王妃の妹だった。王妃も転生を待っていた」


「お姉さん?」


「記憶にないかもしぬが、王妃はアリエーテを愛している」



 アリエーテは頷いた。


 1000年も昔の妹の事を覚えているのだろうか?とアリエーテは思ったが、レオンが言うのなら、そうかもしれない。



「半月も眠っていたから、体力が落ちているだろう。少しずつ体力を付けていこう」


「はい」



 鏡はモリーが受け取ってくれた。


 レオンはアリエーテを抱きしめる。アリエーテはレオンの痣に頬を寄せて甘えた。


 アリエーテは幸せだった。


 聖女になり、本当に王子様が現れた。


 心残りは、やはり叔父の事だったが、死神と手を組んだ叔父は、既に人間ですらない。


 簡単に抹殺できるはずはない。それでも、許すことはできないが、今は幸せに酔っているのもいいかもしれない。


 レオンと一緒にいたいと思う気持ちが、復讐をすることを一時忘れさせてくれる。


 

 

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