第7話 目覚め
☆
思った通り、アリエーテは目を覚ました。
ぼんやり目を開けて、そこにレオンの姿を見つけると、愛らしく頬を染めた。
「よく眠れたか?」
「はい」
手を伸ばしてきたアリエーテの手を握る。
「とても長い間眠っていたような気がします」
「15日間眠っていた」
「そんなに?」
「人間から悪魔に変わるのに、それほどの時間が必要だったのだろう」
「わたしは、もう悪魔ですか?」
「ああ、もう人間ではない」
アリエーテは微笑んだ。
「長生きできるのかしら?永遠のような時間をレオンと一緒に生きられるのかしら?」
「ああ、これから一緒に時間を刻んでいこう」
レオンは横たわったままのアリエーテを膝に抱き上げた。
「目が回るようなら、凭れいなさい」
「はい」
アリエーテはレオンの胸に凭れかかる。
その背中を優しく撫でると、アリエーテは嬉しそうにしている。
「お腹は空かないか?」
「空いたような、空いていないような……」
まだ寝ぼけているのだろう。
「起きているのは辛くないか?」
「目が回るような感じがしますが、気分は悪くはありません」
「食事を持って来てもらおうか?」
「自分で行けますわ」
アリエーテはレオンの膝から滑り降りるように足を床に下ろすと、その体が傾いていく。レオンは、またアリエーテを抱き上げた。
「ガウンを着なさい」
そう言うと、レオンの手の中に眠る前に着ていたガウンが現れた。
背中に羽織らせるとアリエーテは。袖を通した。
ボタンはレオンがはめてくれる。
「アリエーテの部屋に行って、目覚めたことを知らせよう」
「はい」
レオンはアリエーテを抱き上げると、魔術で扉を開けて、アリエーテを部屋に運んだ。
「お目覚めですね、奥様」
「奥様?」
レオンは微笑む。
アリエーテを膝に抱いたままカウチに座ると、モリーが手鏡を持って来てくれる。
「婚礼の証が出た」
「婚礼の証?」
「俺の証はここだ」
レオンはネクタイを緩めて、シャツのボタンを二つ外すと、アリエーテに痣を見せた。
シャツを緩めなくても見える位置にあるが、綺麗な形を見せたかった。
「薔薇の絵のようですわ」
アリエーテはその痣に触れる。
薄紅色の美しい薔薇の花が咲いているように見えた。
「手鏡を受け取ってごらん」
「はい」
アリエーテはモリーから手鏡を受け取った。すると、レオンはアリエーテの首に触れた。
「ここを見てごらん」
アリエーテは言われたとおりに、首を鏡で見た。
レオンと同じ痣が首に咲いている。
「すごいわ、悪魔になると痣がでるのね?」
「そうではなくて、結婚の証の痣だ。俺とアリエーテは立派に認められた伴侶だ」
「レオンと結婚したの?」
「婚礼の儀式と話しただろう?この痣は互いに愛し愛されていなければ出てこない痣だ。アリエーテも俺のことを想ってくれていたのだな」
アリエーテの頬が真っ赤に染まっていく。
「夫婦になった証だ。堂々と見せびらかしてくれ。魔界ではそういう風習だ」
「なんだか恥ずかしいわ」
「これほど美しい証も珍しいのだぞ」
「そうなの?」
モリーとメリーは笑顔で頷いた。
メリーはテーブルに紅茶を並べて、「お食事をお願いして参ります」と言って、部屋から出て行った。
「アリエーテも目覚めた。体力が戻ったら魔王と王妃に会わせよう。王妃はさぞかし喜ぶであろう」
「魔王様と王妃様ですか?」
「アリエーテは王妃の妹だった。王妃も転生を待っていた」
「お姉さん?」
「記憶にないかもしぬが、王妃はアリエーテを愛している」
アリエーテは頷いた。
1000年も昔の妹の事を覚えているのだろうか?とアリエーテは思ったが、レオンが言うのなら、そうかもしれない。
「半月も眠っていたから、体力が落ちているだろう。少しずつ体力を付けていこう」
「はい」
鏡はモリーが受け取ってくれた。
レオンはアリエーテを抱きしめる。アリエーテはレオンの痣に頬を寄せて甘えた。
アリエーテは幸せだった。
聖女になり、本当に王子様が現れた。
心残りは、やはり叔父の事だったが、死神と手を組んだ叔父は、既に人間ですらない。
簡単に抹殺できるはずはない。それでも、許すことはできないが、今は幸せに酔っているのもいいかもしれない。
レオンと一緒にいたいと思う気持ちが、復讐をすることを一時忘れさせてくれる。
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