第6話   身代わりのモリー

 モリーはアリエーテとして生活を始めた。


 屋敷の誰にもモリーであると知られていない。


 食事もレオンとして、部屋で寛ぎ、馬車で出かけてみた。


 グルナが襲ってきたら、好都合だと思ったが、グルナの姿は見えなかった。


 パトークに死神手帳からアリエーテの名前が消えたか確認に行ってもらったが、まだ死神手帳には名前は載っているらしい。


 死因は失血死と書かれているという。


 叔父のヘーネシスは、まだアリエーテを人形にしたいらしい。


 アリエーテが死ぬ日まで待つことも考えたが、本当に死んでしまったらと思うと、その計画はなしだと思った。


 二度と人形にされたアリエーテなど見たくはない。


 この手から手放すつもりもない。


 屋敷の周りは、絶えず戦闘状態だ。いつ攻められてきても、守れるように騎士達が目を光らせている。 



「なかなか釣られませんね」



 モリーには、人真似の魔術が使える。


 アリエーテの侍女を任せたのも、その特殊な魔法が使えるからだ。


 勿論、侍女長としての腕は確かで、それだけでもアリエーテに仕える侍女として任命するつもりでいたが、モリーがアリエーテに真似て見せ「どうぞ身代わりにお使いください」と申し出た事で、アリエーテの侍女にうってつけだと思った。


 モリーを餌に、出かけてみたり、油断してみたりしてみたけれど、グルナもヘーネシスも何も攻撃はしてこない。


 ひょっとしたら、まだ人間界にいるのかもしれない。


 モリーを連れて、人間で歩いてみたが、やはりグルナもヘーネシスも出てこない。


 陽動作戦は、無駄に終わりそうだ。


 ヘーネシスが寄付した聖女のいる屋敷にも行ってみたが、屋敷は静かだった。


 相変わらず聖女の祈りは聞こえるが、男の気配は門を守っている騎士だけだった。


 そろそろアリエーテが目覚める頃合いだろう。


 婚姻の証を付けて2週間が経つ。目覚めるときは傍にいてやりたい。



「モリー、この作戦は失敗のようだな」


「残念です」



 レオンはモリーを抱き寄せて、瞬間移動で屋敷に戻って来た。


 結界を張った屋敷に戻ると、部下達が敬礼する。



「こちらは変化なしか?」


「何もありません」


「引き続き、警戒をしていてくれ」


「はっ」



 見事な敬礼を見てから、屋敷に戻っていく。


 屋敷に入ると、モリーはメイド服を身につけて、髪を器用に巻き上げて固定した。



「奥様に姿を見られる訳にはいきません。旦那様もシャワーかお風呂にお入りください。女性は敏感ですので、他の女性のにおいをつけて、触れてはいけません。わたくしも入浴して参りますので」


「そうだな。気を遣わせた」



 モリーは頭を下げると、屋敷の中にある自室に戻っていった。


 レオンも風呂に入りに行った。


 目覚めたアリエーテがいきなり不安にならないように、身につけた物を消し去ると風呂に入り、体を清めた。真新しいタキシードを身につけて、アリエーテの部屋に行った。


 フルスが敬礼する。



「眠りが浅くなって参りました」


「ああ」


「助かった。フルスも休むといい」


「ありがとうございます」



 フルスは部屋から立ち去った。


 眠っているけれど、アリエーテの眠りは浅くなっている。


 そろそろ目覚めるだろう。


 レオンはベッドに腰掛け、眠るアリエーテを見つめていた。



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