第4話 初めて
☆
アリエーテはお風呂を見て、まず驚いた。
お湯がピンク色に染まっている。真っピンクではなく、透明感のある綺麗なピンク色で、お風呂の中が薔薇の香りで包まれている。
初め入る高級そうなお湯に浸かると、適度な温度で気持ちがいい。
しばらくお湯に浸かっていると、モリーが温かなタオルを顔に乗せてくれた。そのタオルからも薔薇の香りがする。温かくて、気持ちが良い。
うっとりしていると、モリーは顔のタオルを退けて、顔のマッサージを始めた。
メリーはお湯に浸かった体を洗い出した。
柔らかな手が、体をマッサージするように洗ってくれる。
顔をマッサージしていたモリーはタオルで顔を拭うと髪を洗い始めた。
他人に洗われる髪は、気持ちが良い。しかも今までかいだことのないほど、いい香りがする。マッサージされるように洗われ、気持ちが良くて緊張感も解けていく。下半身を洗われる時は、恥ずかしかったが、メリーは恥ずかしさを感じさせないほど、スッキリと洗い上げてくれた。
筒からお湯が出る物で、髪を洗い流されて、ピンクだったお湯が流された。
湯船の中で体から泡が流されていく。筒のなからお湯が出るのは、人間界のレオンの屋敷にもあった。それの使い方は知らなかったが、シャワーと言うらしい。シャワーで体を綺麗に流され、モリーに手を貸されて、お風呂場の中にある細いベッドに横になるように言われた。
大きなタオルが敷かれていて、アリエーテは言われるまま横になった。初めはうつ伏せで、モリーがいい香りのするオイルでマッサージを始めた。首から足の先まで念入りにマッサージされると、温かなタオルで拭き取られる。今度は仰向けになり首からつま先までマッサージされた。あまり自慢できない胸もマッサージされて、頬が赤くなると、モリーはアリエーテを見つめて、優しく微笑んだ。
「お美しいお体ですね」と・・・・・・。
褒められるほどの体ではないと思うけれど、初めて体を委ねて褒められるのは悪い気持ちは持たない。綺麗にマッサージされると、温かなタオルで全身を拭われた。オイルの油っぽさも微かにかいた汗も拭い取られ、バスローブを着せられた。
「髪を乾かしましょうね」
「はい」
モリーに手を引かれ、お風呂場から出るとドレッサーの椅子に座るように勧められた。
メリーが少し冷めて飲みやすくなった紅茶を淹れてくれた。
「のぼせてはいませんか?」
「はい、大丈夫です。こんなに気持ち良く洗ってもらったのは初めてです」
「そうでございますか?」
「はい、我が家にも侍女はいましたけれど、お顔のマッサージをしていただいたのは、舞踏会のある日に、少ししていただきました。お風呂は自分で入っていましたので、洗ってもらったのは、幼かった頃以来です」
二人は笑顔で話を聞いてくれる。
部屋の中にいるフルスも微笑んでいる。鏡越しに見える。
なんて優しい空間だろう。
「まずはお茶を飲んでくださいね」
「はい」
飲みやすい温度で、一気に飲んでしまう。
思っていた以上に喉が渇いていたようだ。
メリーがまたカップに紅茶を注いでくれた。
「髪を梳かしますね」
「はい」
モリーが櫛で髪を梳かしてくれる。
鏡で見ると、やはり自分が写っているように見える。
自分が自分の髪を梳かしているようだ。
「やはりモリーと似ていますね。まるでわたしがいるみたいに見えます」
「そうでございますか?」
髪を梳かすと、顔に化粧水やクリーム塗ってくれる。肌がモチモチになると、魔道通風機で髪を乾かしてくれた。
髪がサラサラになって気持ちが良い。
我が家にいた侍女とは、ランクが違うとアリエーテは思った。
「どのお召し物になさいますか?」
メリーが数着持って来て、選ばせてくれる。
「レオンはどんなお洋服が好きかしら?」
「どんなお洋服をお召しになっても、旦那様はお嬢様を好きでしょう」
アリエーテ頬が赤くなる。
「それでしたら、青色の洋服にします。この洋服はレオンが作ってくれた物だから」
「畏まりました」
レースの靴下をはかせてもらい、大きな部屋になったクローゼットの中で、下着を着けて洋服に着替えると、扉がノックされた。
アリエーテは笑みを浮かべて、部屋に戻った。
「アリエーテ、綺麗にしてもらったか?」
「はい、レオン」
アリエーテはレオンに近づいていったら、レオンに抱き寄せられた。
「寂しかったのか?」
「一緒にいて欲しいの」
「これからは一緒にいよう」
レオンはアリエーテを抱き上げて、カウチに座った。
「いい香りがするな」
「モリーとメリーが綺麗にしてくれたの」
「そうか」
「俺も風呂に入ってくる。もうちょっと待っていてくれ」
「はい」
そっとカウチに下ろされて、額にキスをされる。
アリエーテはまた頬を染めた。
その顔を見て、レオンはすっと姿を消した。
☆
レオンはお風呂に入りながら考えていた。
アリエーテに婚姻の印を刻みたいが、アリエーテの心がレオンを好きでいてくれるのか分からない。出会った頃に比べると、アリエーテはレオンを求めていると思うが、その想いが恋愛感情なのかそれとも助けを求めているのか、まだ判断ができない。
お互いに好き合っていないと、婚姻の印はでない。
早まって処女を奪って、失敗してしまったら、婚姻の印が出ないまま過ごさなければならなくなる。
それなら、互いの血を飲みあって、アリエーテの体を本物の魔族に換えてしまった方が安全かもしれない。互いに好き合っていれば、婚姻の印も出るだろう。
まだ出会ってそれほど経っていない。アリエーテの心がどれほどレオンを占めているのかも分かるだろう。
レオンは慎重だ。
辛抱強くもある。
抱き合わなくても、心を通わせられるなら、先に心が欲しい。
少しずつ懐いてもらい、好いてもらえば、これ以上の幸せはない。
1000年も待ち、やっと手に入れたのだから、慌てる必要はない。
湯船から上がり、体を乾かすとタキシードに着替える。
レオンの洋服はすべて魔術だ。
お風呂に入らなくても清潔を保てるが、考え事をするときは、湯に浸かりたい。
レオンは方針を決めて、アリエーテを迎えに行く。
夕食を食べたら、血の交換をしようと決めた。
屋敷は部下が守ってくれている。
死神協会も動いている今がチャンスだと思った。
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