第2話   グルナの葛藤

 死神協会に所属しているグルナは、追い続けている魂があった。


 最愛の妹であり恋人だった。


 元々は魔族の伯爵家の次男で、恋い焦がれていたのは末の妹だった。


 禁断の恋は、誰も認めてはくれなかったけれど、妹もグルナの想いを受け止めてくれて、晴れて恋人になった。初めてキスを交わしたときは、このまま死んでもいいと思えたくらいだ。


 そんな妹に縁談の話が舞い込んだ。


 妹は縁談を断った。両親は当然、怒った。両親は妹を叱りつけていた。そんな姿を見ていられずに、二人で駆け落ちをして、グルナは妹と結ばれた。二人に深い眠りが訪れ、目を覚ましたとき、互いの首に婚姻の証が刻まれた。


 互いに愛し合っていないと刻まれない婚姻の証があれば、家族は許してくれると思った。


 二人は小さな部屋を借りて、互いに働いて生活をしていた。


 グルナは木こりをして、妹は食堂で働いた。二人の生活は長くは続かなかった。


 実家から捜索隊が出されて、呆気なくグルナも妹も見つかって、連れ戻された。

傷物になった妹を見て、両親はグルナに罰を与えた。


 200年前に起きた魔界と人間界の戦いで、伯爵家として召集令状が来ていた。グルナはその戦いに兵士として参加させられた。妹とは引き離されて、グルナは落胆したまま戦争で戦った。やっと戦争が終わって屋敷に戻ると妹の姿はなかった。


 お嫁に行ったのかと思ったが、それとも違うようだ。


 婚姻の証のある者は、他の異性と交われば、罰が与えられる仕組みになっている。そんな危険を冒してまで、妹に結婚させるはずはなかった。


 部屋の片隅に妹の写真が置かれ、花が飾られていた。


 妹は戦争の最中に人間に殺されたらしい。魔族は長寿だが、心臓を貫かれ失血死を起こせば、呆気なく死んでしまう。妹は心臓を貫かれたらしい。


 最愛の人を亡くしたグルナは、妹の魂を追いかけるために死神になった。


 最愛の妹が転生した気配を感じた。


 魂を探してやっと見つけると、妹は人間の男に生まれ変わり、愛らしい面影もなく、ギャンブルに溺れていた。既に結婚していた。妻を殺し保険金を手にして、子供にも多額な保険金をかけて殺してしまった。そんな人として曲がった人生を送っていても、魂は妹のものだった。


 グルナは妹の魂と繋がりが欲しかった。


 どこからどう見ても美しくない。愛らしい面影もない人間と契約をした。


 契約したが、グルナは契約をしたことを悔やんでもいた。


 次の転生を待つべきだったのだろう。


 魂は妹であっても、心を通わせることもできない。


 命じられるのは、私欲のための殺人ばかりだ。


 どこで穢れてしまったのだろうと、妹の魂に問いかけるが、グルナに命令する声は、低い男の声で、体つきも私欲で太った男のものだ。


 抱きしめることもできない。


 ただ、魂だけが妹と同じものだという共通点だった。


 どうして来世を待つことができなかったのだろう。


 魂の契約をしたことで、妹の魂のヘーネシスは益々、悪に染まっていく。


 愛おしい妹の面影を探すが、どんどん悪党になっていく姿を見ると、同じように転生を1000年も待ち続けたレオン様の心の強さに頭が下がる。


 今度は、レオン様が追い求めていた娘の体が欲しいと言っている。


 貪欲な魂は、グルナ心を悩ませる。


 死神と魂の契約をした者は転生しない。その魂を生かし続けるか食べてしまうか。


 死神としても契約違反を起こし、犯罪に手を貸している。見つかれば、グルナも処罰を受けて、魂は消滅するだろう。


 グルナは悩んでいる。妹の魂を喰らい、処罰を受けて共に消滅した方が幸せなのかもしれない。


 妹から贈られた赤いネクタイをはめ続け、悪党になった妹の魂の言いなりになり、今日も人を殺す。血に汚れた手を見つめ、青い空を見上げる。


 愛らしい妹は、どこに行ってしまったのだろう。


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