第5話   200年前

 200年前、魔界と人間界は決別した。人間達は反乱を起こし、魔族に襲いかかってきた。怒った魔王は人間界と魔界の間に大きな山を造った。


 しばらくの間、魔界は平和になった。しかし、狂気じみた人間達は大きな山に穴を掘り、魔界を攻めてきた。


 また戦いが始まった。魔王一族のレオンも戦わなくてはならなかった。


 その戦いの最中に、アリエーテの魂の気配を感じた。


 どちらの世界に生まれ変わったのかも分からず、戦いの最中にレオンはアリエーテを探した。


 戦闘しながらの捜索は難航した。


 魔界と人間界の戦いは、20年と長くに渡って続いていた。


 やっと魔界から人間を追い出し、魔王は掘られた穴に結界を張った。スライムとゴブリン一族を住まわせ、人間が入ってこないように監視をさせた。


 アリエーテをやっと探し出す旅に出られると思ったとき、レオンに縁談の話が来た。


 相手は魔族の公爵家のお嬢様だった。


 美しいお嬢様は、16歳と若かった。


 昔のアリエーテを思い出すが、美しいお嬢様はアリエーテではなかった。


 レオンは迷うことなく縁談を断った。


 兄の魔王は、アリエーテの魂を追いかけているレオンに、魂を追いかけることを諦めさせようとしていた。


 一つの魂を捕まえることは難しく、不可能だと言われていた。


 転生の時期もどこに生まれるのかも分からない。


 もしかしたら、生まれてきた魂はアリエーテの姿をしてないこともある。



「男に生まれていたらどうする?」



 兄の言葉は、レオンにとって現実を突きつけられているようだった。


 確かに魂が同じでも、女に生まれるとは限らない。


 兄は、別れた頃のアリエーテに似た娘を探し出してきていた。


 それでも、レオンは兄の言葉を突っぱねた。



「必ず、アリエーテを探し出してやる」



 レオンの執念に、兄が折れた。


 婚約は破談になり、レオンはまたアリエーテの魂を探しに出かけた。


 レオンはアリエーテを探し続けた。魔界にその姿がないことがわかり、人間界に飛んだ。


 人間界は、まだ発展途上だった。神になった者がいて、国王になった者がいる。民はまだ浮浪していた。


 アリエーテは公爵令嬢の長女でありながら、女性騎士になっていた。馬に乗り部下を連れて、国作りをしていた。


 年齢はおそらく、30歳を超えているのではないかと思われた。


 女性に生まれ青い瞳を持っていたが、いつも長い髪だったアリエーテは髪を短く切り、凜々しく男性騎士より男らしく見えた。


 生まれる時代が悪かったのだと思った。レオンは人間界に留まり、アリエーテの人生を見届けた。


 アリエーテは一生を男として過ごし、45歳で命を落とした。


 力は男性には及ばない。崩落してきた木材の下敷きになり呆気なく死んだ。


 一生を、人間界を造るために献げた。部下はアリエーテの死を悼み、立派な葬儀が行われ、教会の墓地に埋葬された。最後まで女でありながら男として生きた人生だった。


 レオンは見守ることしかできなかったが、潔いアリエーテの人生を見届けた。


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