第70話 密林のダンジョン②~sideクラリス~

「胴体の鱗は燃えなくて良かった」

 ウィストは躊躇なくナイフを蛇の腹に突き立てた。

「この蛇皮、とってもお洒落ですよ」

 綺麗に蛇の皮を剥いたソニアが皆に見せるように天に掲げた。

 


 ウィストとソニアが慣れた手つきで蛇皮や蛇肉を採取する。この二人にとってダンジョンで魔物を狩って、解体する作業は日常茶飯事らしい。

 解体された蛇皮は革袋の中に入れられ、密封される。


「蛇肉、いただいても良いですか?」


 目を輝かせてエディアルド様たちに尋ねるソニア。

 え……蛇の肉、食べるの? 

 

「毒蛇なのに大丈夫なの?」

 

 私が尋ねるとソニアは頷く。

「毒は頭と尻尾にしかありませんから。胴体は食べられますよ。頭部はもう黒焦げですしね、尻尾は先だけ切れば問題ありません」


 言うが否やソニアは蛇の胴体をサクッと輪切りにして、肉の一部をレッドに向かって放った。

 レッドは目を輝かせ、大蛇の肉にかじりつく。

 わ、レッドが蛇の尻尾を美味しそうに咥えている。可愛い顔しているけれど、やっぱりドラゴンなのね。



「ほら、レッドもムシャムシャ食べているでしょう?」

「う、うん……」


 子犬に餌をあげるような感覚で大蛇の尻尾をドラゴンに与えているソニア……な、何かワイルドすぎない? 騎士ってサバイバルの研修もするのかしら? まぁ、日本の自衛隊でもサバイバル訓練はするみたいだし、やっていても不思議じゃないけど。 

 ウィストやソニアは無人島でも生きていけそうね。


「ソニアちゃん、久々に君が作った蛇の唐揚げ食べたい」

「いいわよ、後で厨房を借りてつくるね」


 まるで新婚夫婦のような、ほっこりとした会話だ。

 ……ウィストとソニアの顔に蛇の返り血がついてなきゃ、とても微笑ましい光景なんだけどね。

 蛇の立場からしたら、恐ろしい鬼のカップルにしか見えないわね。


 私も牙を採取することにした。牙に残っている毒を使って、この蛇の解毒剤を作っておきたいからだ。

 牙の採取が終わると、エディアルド様が、蛇の住処である洞窟へと入っていったので、私もそれに付いていくことにした。


「エディアルド様、お一人で行くのは危険です」

「大蛇はもういないから大丈夫だ。それにこいつもいるし」


 エディアルド様は先だって飛んでいるレッドを指差して言った。

 無邪気に飛び回るドラゴンは、蛇肉をお腹いっぱい食べてご満悦の様子だ。

 レッドは小首を傾げ、「きゅーっ」と私に向かって甘えたような声を出す。

 可愛らしい声に思わずクスッと笑いながら、私もエディアルド様の後を追う。

 しばらく歩いて居ると広い場所に出た。恐らく大蛇がとぐろを巻いて寝る場所なのだろう。


 寝床の周りには先ほどの紫色魔石の巨大な結晶がいくつも生えていた。

 エディアルド様はその中でも特に大きな結晶の元に歩み寄る。あれを採収するのかと思いきや、大きな結晶のすぐ傍にある小さなひとかけらをハンマーで取り出す。

 豆粒ほどの小さな魔石だ。小さいけれど、紫の深みと輝きが違う。


「こいつは紫色魔石の力を凝縮したような石だ。こいつ一つで、他の魔石の数十倍の魔力含有量と魔術増強、魔力消費削減の効果がある」

「そうなのですか?」

「国宝級のレアアイテムだ」


 す……凄い。

 き、きっと二度とお目に掛かることがないであろうお宝だから、目に焼き付けておこう。

 そこにコーネット先輩やアドニス先輩、デイジーも洞窟に入ってきた。


「何かありましたか?」


 尋ねるアドニス先輩に、エディアルド様はちょっとドヤ顔で先ほどの魔石を見せる。

 三人は目を丸くして、まじまじとその魔石を見詰める。


「凄い、魔石の王だ」


 思わず呟くアドニス先輩に、エディアルド様は尋ねてみる。


「こいつは発見した俺が貰っても良いのかな。それとも土地の持ち主であるクロノム公爵の了承がいるかな?」

「基本、ダンジョンのお宝に関しては発見者のものなので許可はいりませんが、とても珍しいものなので父にも見せてやってください」


 アドニス先輩のお願いに、エディアルド様は快く頷いた。

 すごいな、いきなり国宝級のお宝を見つけてしまうとは。

 何だか柱になりそうな大きな紫色魔石がいくつもあるし。

 初めての密林のダンジョンは、巨大蛇の退治と、紫色魔石の採掘、そして薬草採取で一日が過ぎていった。

 ちなみに、国宝級のお宝はクロノム公爵に見せた後、エディアルド様のものになったらしい。

 どちらにしても国に献上するレベルのお宝だから、エディアルド様が持っておけば良いとのこと。



 秋休みの間、私たちは事あるごとに、密林のダンジョンの冒険に出掛けることになる。お宝は魔石だけじゃない。品質の良い薬をつくるのに適した薬草実も山ほど採取できた。


「殿下、グリーンタイガーは水が弱点です」

「了解」


 グリーンタイガーとはその名の通り、緑色の毛を持つ虎だ。密林に紛れて襲ってくるやっかいな魔獣だ。

 それでもネコ科だからか、水の魔術に弱いらしい。

 アドニスの助言にエディアルド様は頷いて、グリーンタイガーに向かって、水撃砲魔術を放った。

 水の砲撃をくらい、身体は吹っ飛んだ虎は目を回して仰向けに倒れる。

 こんな調子で、南国特有の強い魔物との戦いを重ねることによって、私たちは着実に経験値を上げ、さらなる実力をつけることになった。

 バカンスを楽しむつもりが、何だか自分の鍛錬になってしまっているような気がするんだけど、楽しいからいいか。


 密林で薬草を探す作業も、めちゃくちゃ楽しい。

 エディアルド様たちが魔石を採掘している間、私とデイジーは木の蔦に実っているピンク色の実をとっていた。

 ビーズみたいで可愛らしい実をじーっと見ていた私に、デイジーが説明する。


「このピンクビルベリーは普通に食べても美味しいのですが、回復薬に使うこともできるのですよ。この実を使うことで通常の回復薬より数倍の効果が得られるのですよ」

「デイジー様は、植物に詳しいのですね」

「はい。私が何故植物に詳しいかは、後で説明しますわ」

「……?」


 にこやかに笑うデイジーに、私は頭に? マークを浮かべ首を傾げた。

 


 

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