第62話 ヒロインは設定を重視する(?)③~sideミミリア~
舞踏会当日
養子先の男爵家の使用人たちは、私をこれでもかと着飾ってくれたわ。
フリルとリボンをふんだんに使ったドレス。
クリーム色の可愛らしい色合いながら、胸元は大胆に見せる、あざと可愛いドレスよね。
これ、私がブティックに頼んで作らせたものなの。ブティックの人は微妙な顔をしていたけどね。もう少し胸元は見せないようにした方がいいんじゃないか、って何度も確認されたけど、それじゃあ私の魅力が半減するじゃない。
デコルテの美しさが自慢なのに。
お化粧もばっちり決めて準備が整った所に、アーノルドが迎えにきてくれたわ。
きゃーっっ! 正装したアーノルド、超格好いい!!
誕生日の主役である彼が迎えに来てくれるなんて。
本当に私のこと、大切に思ってくれているのね。
「ミミリア、今日の君は一段と綺麗だよ」
「アーノルドも素敵よ」
あ、ここだけの話。
私たちは敬称を付けずにお互いのことを呼ぶようになった。
将来家族になるのだから、堅苦しい会話はやめようって話になったの。
舞踏会会場は想像以上に華やか場所だったわ。
広間の中央にある巨大クリスタルは七色に輝き、貴婦人達のドレスも色とりどり、壁や柱の装飾も金色に輝き、まるで夢を見ているみたい。
アーノルドに連れられて会場に入った私は、エディアルドが羨ましそうにこっちを見ているのに気づいたわ。
平気な振りをしているけれど、あれは内心悔しがっているわ。私には分かるの。
だって小説にもそう書かれていたから。
うふふふ、残念ね。私は馬鹿王子には興味ないの。貴方にわざとぶつかったのは、あくまで小説の筋書き通りに物語を進めるため。あなたが好きだからじゃないのよ。
アーノルドは早速エディアルドに挨拶をしたわ。どうせ、無視されるだろうけど。
「兄上が舞踏会に来てくださるとは思いませんでした」
「今まで来てやれなくてすまなかったな」
「え……!? い、いや、そんな」
嘘……エディアルドが素直に謝っている!?
ある意味レア映像な感じだけど、違う、違う、違う!
イメージしていたエディアルドと違う。あ、でも、まだ平気な振りを続けているのかもしれないわね。
「アーノルド、そちらのご令嬢は」
「今は詳しくは話せませんが、僕の唯一の人だと思って頂けたら」
「そうか。それは目出度いことだな。彼女のことを一途に愛してやれよ」
「もちろんです!!」
きゃ、アーノルドってば、張り切って返事して。
それはそれで嬉しいけど、やっぱりエディアルドの態度は納得出来ないわ。
思わずエディアルドに問いかけたわよ。
「何……あんた本物のエディアルドなの?」
「ミミリア=ボルドール。前にも言ったが王族の前では殿下と呼ぶように」
「ええーっ!? アーノルドは許してくれたのに。本当にあなたって性格悪いんじゃない?」
私は将来王妃になるのよ。しかもあんたにとっては身内になる人間なんだから。
いいじゃない、今からフランクに話をすれば。
やっぱり悪役王子ね。こいつとは気が合わないわ。
「ミミリアはまだ貴族社会になれていないんだ、兄さん」
その点、アーノルドは優しいわよね。主人公と悪役の差ね。
エディアルドは少しイラッとした表情を浮かべたわ。あ、やっぱり私たちに嫉妬していたのね。
「ところで兄上の婚約者であるクラリス=シャーレット嬢は一緒ではないのですか?」
「彼女は今、クロノム公爵家に滞在していてね。友人たちと共にここに来ることになっている。到着したらエスコートする予定だ」
ふーん、アーノルドは私のこと迎えに来たのに、あんたはそこで、でーんと待っている訳ね。ホント、気が利かない男だわ。
いくら顔が良くてもこれじゃあね。
「そ、そうですか……喧嘩したわけではないのですね」
あら、喧嘩?
それなら納得だけど、でもエディアルドは否定しているわね。
でも悪役王子と悪役令嬢だものね。きっと喧嘩なんか日常茶飯事なんだわ。
「では、兄上。僕たちはこれで。ゆっくり楽しんでください」
「ああ」
エディアルドと別れてから、私たちは王様とお妃様のところへ行ったわよ。お妃様はアーノルドの母親だけに顔が似てるわね。
気のせいか睨まれたような気がするけど……あー、ヤダヤダ。この世界でも嫁姑問題ってあるのかしら? 姑になる女は面倒くさそうね。
国王様の方は優しそうだけどね。王妃様を含めて四人のお妃様がいたみたいだから、かなりの女好きよね。さすがに私のことは娘を見るお父さんのような目でみているけど。
挨拶をパパッと終わらせたら、いよいよメインのダンスよ!
私はアーノルドにリードされながらダンスを踊ったわ。ダンスはこのイベントの為に一生懸命練習したのよ。
皆、私たちを注目している……うん、もう最っ高!!
ひとしきりアーノルドとのダンスを楽しんでいると、不意に会場がざわめいたの。
何かと思ってそっちを見たら……嘘、あれはクラリス=シャーレット?
な、何か学校で見た時より数倍綺麗になっている?
し、しかも何? 私たちを見て平気な振りをしていた筈のエディアルドが、彼女をエスコートしている。
エディアルドは私たちの姿を見て、居たたまれなくなって帰ったんじゃなかったの?
それにクラリスと一緒にいる人達もレベルが高いわ。
眼鏡女をエスコートしているのは、まさか……超絶美形キャラのアドニス=クロノム!? 何であんな眼鏡女を……って、あ、髪の毛と目の色が一緒だ。それに顔もどことなく似てるし、あの二人は兄妹なのね。びっくりしたぁ!
だけど皆の注目がクラリスたちに向けられる。
エディアルドも顔だけはいいし、アドニスも加わったらそりゃ皆注目するわよ!!
しかも護衛の騎士たちまで美形じゃない!! あんなの反則よ!!
悪役令嬢と悪役王子は王様とお妃様の挨拶をすませると、ダンスをしはじめた。
二人の踊りはまぁまぁね。可も無く不可も無い。
だけど、何であんなに目立つのかしら。
私とアーノルドの幸せそうな姿を見て平気な振りをしていた筈のエディアルドが、とても嬉しそうな表情でクラリスに笑いかけたの。
ナニソレ……?
どこからどう見ても幸せそう。ということは、さっきは平気な振りをしていたんじゃなくて、本当に平気だったってこと!?
何で、何で、何で!?
クラリスもエディアルドも、私たちを見て嫉妬に狂う筈なのに。
私たちの事なんてまったくお構いなし。何勝手に幸せになってんのよ! あんたたちは、私たちに敵になって、最終的には死んで貰わなきゃいけないのに。
そこで勝手にハッピーエンドになってんじゃないわよ!
それもこれも、クラリス=シャーレット!! 悪役令嬢のくせにあんたが悪役らしく振る舞わないからよ!!
だからエディアルドもおかしくなるんじゃない!
私は思わずクラリスの方を睨み付けると、凍り付くようなエディアルドの視線がこっちに返ってきた。
な、何であんたの方が、そんな目で私のことを見るのよ!
私をそんな目で見る男、あんたぐらいしかいないわよ!!
え、エディアルドの奴、悔しいけど顔だけは良いのよね。準主役だけに……何よ、あなたは私に一目ぼれする筈だったのに。
いいわよ、どうせ後から敵になる筈だから、エディアルドにどう思われてもかまわないわ。
不機嫌だったあたしの気持ちが、一転して機嫌が良くなったのはナタリーが母親と共に会場にやってきた時だった。
「何故……何故、お姉様がここにいるの!? それにミミリア=ボルドール、あんた如きが王室の舞踏会に呼ばれるなんて有り得ないでしょ!?」
そうだったわ。
本物の悪役令嬢は、ナタリー、あなただったわね。
私ったら大きな勘違いしていたわ。筋書き通りに動かないクラリスは悪役令嬢を降板したってことね。
それにしても見て、あの悔しそうなあの顔、ウケる、小説の通りだわ。
アーノルドがナタリーを睨み付けて怒鳴ったわ。
「ナタリー=シャーレット、いい加減僕につきまとうのはやめてくれ!!」
「何故……何故ですの!? 私は我が儘なお姉様と違い従順ですし、ミミリアのような賤しい生まれじゃありません。あなたを裏切り、エディアルド殿下に走った姉とは違い、私は精一杯あなたに尽くします」
クラリスと比較しているのは余計だけど、良い感じの悪役ぶりだわ。
やっぱり彼女が本物だったのね。
「僕は真実の愛を見つけたんだ。ミミリア=ボルドール。彼女こそが女神ジュリに選ばれた聖女であり、僕が伴侶と定めた女性でもある」
アーノルドが私の肩を抱き寄せて宣言をする。
小説の中でも一番の見せ場のシーンよ。彼は私を生涯の伴侶にすることをこの場で宣言するの。
ああ、幸せ。
あたし、今、最高のヒロインになっている!!
なんか、ナタリーの母親がクラリスに向かって怒鳴っているみたいだけど、私にはどうでもいいわ。シャーレット家のお家騒動なんか知ったことじゃないもの。
アーノルドはしばらくして、どこかの貴族に呼ばれたので「少しここで待っていて」と言ってその場から離れていったわ。
ここからは私のフリータイムね!
さ、私の推しを探さなきゃ!!
周囲を見回すと……あ、いた。
プラチナブロンドの髪、オレンジ色の瞳、完璧なまでに整った顔!!
アドニス=クロノムッッッ!!
ああああああ、改めて見ると無茶苦茶美形!! 無茶苦茶格好いいっっっ!!
な、何でそんなにまつげ長いの……小説では彼の挿絵がなかったから想像することしかできなかったけれど、想像を絶する美しさだわ。
決めたわ。
アーノルドと一緒に、あの人のことも愛するわ。
小説の裏設定であるのよね。アドニスはミミリアに秘めたる恋心を抱いている。だからずーっと独身なのよ。
でも、報われない恋なんて可哀想じゃない?
私はそんな寂しい思いをあなたにさせたりしないわ。
「初めまして、アドニス様ぁ。あたしはミミリア=ボルドールといいます。今日はあなたにお会い出来て、とっても嬉しいです」
「あ……はぁ……どうも」
「あたし、あなたと二人きりでお話がしたいのですが」
「聖女様、あなたは殿下の恋人なのでしょう? 二人きりでお話をしていたら、周囲からあらぬ誤解をうけます」
「誤解だって殿下には言っておきまーす」
アドニス様はものすごく深いため息をついている。あらやだ、疲れているのね! 仕方ないわね、あなたの妹は悪役だったクラリスに取り込まれているから、心労が絶えないのね。可哀想に。
私が心底アドニスに同情した時、アーノルドの怒鳴り声が聞こえてきた。
「そんな愚か者のどこが良いんだ!?」
私がびっくりしてそちらを見ると……何、アーノルドがクラリスの方をじっと見詰めている? ? ?
何でそんなに縋るような目であの女を見ているわけ。
アーノルドはエディアルドのような馬鹿の何処が良いんだって喚いている。傍目から見ると、アーノルドの方が馬鹿っぽい。
というより、私というものがありながら、別の女にも執着してるって、どういう事!?
あなたさっき私のこと、真実の愛って言っていたじゃない!? 何、普通に浮気しようとしているわけ!?
しかも相手があのクラリスって、有り得ない。小説ではとことん嫌っていたくせに。
何で、そんな熱い目であの女のことを見詰めているの?
私の時にはそんな風に見詰めてなかったじゃない。
まさか、浮気じゃなくて本気ってこと……? 冗談じゃ無いわよっっっ!!
本当に邪魔な女ね、クラリス=シャーレット。
悪役令嬢を降板したあなたに、もう用はないわ。
私のハッピーエンドの為にもあなたには何としても消えてもらわなきゃ!!
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