第61話 ヒロインは設定を重視する(?)②~sideミミリア~
私の名前はミミリア=ボルドール。
前世では色々あって死んじゃったけど、ラッキーなことに憧れの小説のヒロインに転生したの。
ハッピーエンドの為にも学園に入学してから、私は筋書き通りの道を歩んでいた。エディアルドとの出会いのシーン……うん、ちょっと微妙だったけど一応予定通り。
エディアルドはツンデレ発言が目立つけど、ちゃんと私を好きになってくれた。
そして大本命である、アーノルド王子との出会いのシーンは大成功。
平民出身の男爵令嬢である私のことを馬鹿にし、事あるごとに苛めてくる悪役令嬢、ナタリー=シャーレット。
クラリスがあのエディアルドと婚約していると聞いた時には、どうなることかと思ったけれど、やっぱりこの世界は小説の筋書き通りに行くように出来ているのね。
女神ジュリが代わりの悪女を用意してくれたみたい。
「何であんたみたいな平民がこの学園にいるわけ!? 考えられないんだけど!!」
「あなた魔術もろくに使えていないじゃない。それに授業にも付いていけていないわよね? 何でCクラスじゃなくてBクラスなのかが不思議なんだけど」
「平民の貴方がどうやって、あの善良なボルドール男爵夫妻を誑かしたのかしら?」
ある日私は、階段の踊り場でナタリーとその取り巻きたちに囲まれていた。
ナタリーにギリギリと手首を掴まれて、私は痛みに唇を噛んだ。
普段は誰かしら助けてくれるのだけど、その時はたまたま周りに誰もいなかったの。
人目がつかない所で私が通りかかるのを待っていた、ってことよね。ご苦労様って感じだけど……いたたた、手首掴みすぎよ!! ナタリー、どんだけ握力強いのよ!?
その時、誰かが階段から駆け下りてきた。
ナタリーはぎくっとして、反射的に私から手を離す。
その人物はこちらに駆け寄ってくると、私を庇うようにして、立ちはだかったの。
「何をしているんだ!? お前たちは!!!」
「「「あ、アーノルド殿下」」」
それが私とアーノルドの出会いだったの。
小説では学校の裏庭だったような気がするけど、この際だから場所はどうだっていいわ。
アーノルドの台詞が小説の通りで感激しちゃった!
悪役令嬢がクラリス=シャーレットじゃなくて、ナタリー=シャーレットだけど、まぁ筋書き通りだったら、私にとってはどっちでもいいわ。
とにかく私が苛められているところを、アーノルドが助けてくれるって所が重要なんだから。
焦っているナタリーたちの顔、超ウケる。
今までホントにウザかったから、ざまぁって感じよ。
「わ、私たちはこの女が身分に相応しくない場所にいるから、咎めていただけです!!」
ナタリーの訴えに、アーノルドは嫌そうに表情を歪めた。
彼は身分で差別することを何よりも嫌うのよね。これも小説の通りだわ。
「学園に入学した者は、身分に関係なくこの場で教育を受けることが許されている。彼女は正式に入学したのだろう? だったら君たちが咎める理由はないはずだ」
「し、しかし……」
「僕は、よってたかって一人の人間を苛むような人間は嫌いだ」
「「「……!?」」」
あの時の絶望に満ちたナタリーの顔ったらなかったわ。
腹を抱えて笑いたかったけど、我慢、我慢。口がニヤつきそうだけどね。
聖女である私を馬鹿にするから、アーノルドに嫌われるのよ。
「それよりも怪我はないか? 君」
「わ……私は平気です」
といいつつ、さりげなくナタリーに掴まれた手首が見えるよう、私は右手を胸にあてた。
アーノルドはすぐに手首の痣に気づいて、私を保健室へと連れて行ってくれた。
「お、お待ちください!! アーノルド様!! そんな下賤な女にあなたが構う必要はありません!」
「下賤なのは君の心の方だ」
ナタリーの咎める声に、アーノルドは冷たく言い放ったわ。
さらにショックを受けるナタリーに、私は可笑しくて、可笑しくて、誰も居なかったら笑い転げたいくらいだった。
ナタリーが私を下げれば下げるほど、アーノルドのナタリーに対する好感度も下がる一方。
悪役令嬢って悪循環な生き物なのね。
ナタリーに強く腕を掴まれた所が痣になっていたので、アーノルドが医務室に連れてきてくれたのは良かったけれど、保健医の先生がいなかった。
「僕の治癒能力だと完璧には治らないかもしれないけど」
「王子様にそこまでさせるわけにいきません」
そう言いつつも、私はさりげなく制服の袖をまくり腕首をアーノルドに見せた。
ナタリーに掴まれて痣になった手首。その手首に内側には、生まれつきについている紅い薔薇形の痣があった。
「……っ!?」
案の定、手首にある薔薇形の痣の存在に気づいたアーノルドは、感激した表情を浮かべ、私の両手をぎゅっと握って言ったの。
「君こそ、僕の運命の相手だ……!!」
アーノルドの台詞も小説の通り。
私は憧れていた王子様に抱きしめられ、幸せいっぱいだった。
本命の彼とは理想的な出会いを果たすことができて大満足。
それからの学園生活は薔薇色に変わったわよ。
私は授業の時以外は、いつもアーノルドと一緒にいることが多くなったの。
だけど――
「殿下はあの平民の娘に目を掛けすぎている」
「一体何なの、あの娘は」
「平民上がりの男爵の娘などより、伯爵家の娘である私の方が相応しいじゃない」
アーノルドのクラスメイトであり、彼の取り巻きたちの中には私の存在を快く思っていない人たちがいた。
ま、主に女子だけどね。アーノルドを狙っているのはナタリーだけじゃないもの。
あとアーノルドをガードする四守護士。
彼らは小説でも大活躍していたアーノルドの大切な仲間なのは分かっているけれど、デートしている間は気を利かせてほしいわ。
だからアーノルドに頼んだの。四守護士や取り巻きを遠くにやるように。二人きりの時間を過ごしたいって甘えたら、彼はすぐに了承してくれたわ。
うふふふ、私がアーノルドと仲よく話している所を見たナタリーのあの顔。
嫉妬で狂いそうな気持ちになっているのが手に取るように分かったわ。
私を苛めているのも今のうち。あなたが待ち受けているのは、悲惨なバッドエンドなんだから。
本当に最高な気分!
それから半月後、私は生徒会に入ることになったの。Bクラスで生徒会に入ることは異例なことだけど、なんとクラリス=シャーレットが私のことを生徒会に推薦したのだとか。
何かの聞き間違いかと思ったけれど、よく考えたら、クラリスとナタリーって異母姉妹で、仲が悪いって噂があるのよね。妹の嫌がらせの為に、私を推薦したのかも。
いやん、ここのクラリスってば何て(都合が)いい人なの!!
これもまた小説の筋書き通り、私はアーノルドの側で生徒会の仕事をするようになり(生徒会室でアーノルドとお茶するだけなんだけど)、私たちは次第に仲を深めていったの。
もちろんナタリーからは度重なる嫌がらせはうけたけどね。悪口を言われたり、ノートや教科書を隠されたり、机に落書きされたり。
でも全然平気!
だって想定の範囲内だし、クラスの中にも私を庇ってくれる男の子がいるし。
彼女たちが苛めるほど、アーノルドは私のことをとっても大切にしてくれるから。
「今度僕の誕生日に舞踏会が開かれるんだ」
「え……でも、あの舞踏会は選ばれた貴族しか行けない筈では」
「君は僕に選ばれた人だ。だから堂々と参加すれば良い」
「で、でも婚約者の方は」
「婚約者? 僕にはまだ婚約者はいないけど? ?」
あ……しまった。
小説ではクラリスが婚約者だったけど、この世界ではクラリスとエディアルドが婚約しているんだった。
ついつい小説通りの台詞を言ってしまったわ。うーん、婚約者がいないのは、ちょっと張り合いがないわね。
でもいよいよ、待ちに待った舞踏会イベントがくるのね。ずっと前から楽しみにしていたの。
あの舞踏会で、アーノルドは私が聖女で、将来結婚する相手であることを宣言するのよ。
楽しみすぎるっっっ!!
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