ヨムカク編集部山田~パニックが始まった~

 メンテナンスが終わった翌日。異変は起こった。

 またしてもヨムカク編集部が停電に陥ったのだ。


 ブツッ!


 その瞬間。編集部の誰もが恐怖に戦いた。

 今回は誰も声を出さなかった。

 山田はゆっくりと椅子ごとPCから離れる。


 皆も同じくPCから離れた。


 ――が!


 電源が落ちたPC画面の奥に何かが写った。

 それは……その影は段々と大きくなり、ハッキリとした人の形になった。

 かと思うと――


「キャアアアー!!」

 

 女性編集者の一人が悲鳴を上げた。

 続いて他の者も叫び声を上げる。


「うぎゃーっ!」

「ぎゃー! 死体ぃっ!」

 

 そこにはPC画面一杯に、眼鏡をかけた腐乱死体の顔が写っていたのである。


 編集部はパニックに陥った。

 叫ぶ者。逃げる者。持っていた御守りをPCに投げつける者。腰を抜かして座り込む者。泣き出す者……。


「編集長っ!」


 山田が編集長を呼びながらそちらを見ると……。


「ちょっ――編集長!?」


 編集長は椅子に座ったまま気を失っていた。


『どうやら編集長は堪えられなかった様だな。俺様のこの姿に』 

 

 編集部中のPCから声が響く。それはあの釘バット男の声だった。


「く、釘バット男なのか!?」


 山田が椅子から立ち上がってじりじりとデスクから離れて行く。

 すぐに走って逃げないのは足がすくんでいるからだ。


 その直後。

  

 ずっ。ずるり。ずるっ。ずっ。ずずずっ……ずるり……。


 PC画面の中からPCの数だけの腐乱した釘バット男達が這いずり出て、それぞれのデスクの上に立った。彼らは服を着てはいたが腐乱死体そのものだった。


「さて、説明して貰おうか?」


 山田は逃げる様に更に後ずさる。


 山田が使っているPCから出て来た腐乱した釘バット男が、何処からともなく釘バットを取り出し先端を山田の鼻先へと向けた。

 

「ひっ!」


 あの時の恐怖を思い出し、山田は全身を硬直させる。

 

「何故、なんの予告もなくメンテナンスをした! ヨムカクで直に執筆してるのは俺様だけじゃねえんだぞ! ヨムカクコンに参加してる――いや! ヨムカクに登録してる書き手にどれだけ迷惑をかけたと思ってるんだ!」


 腐乱した体や口元から、ぽたぽたと肉片や体液をしたたらせながら、釘バット男は叫んだ。


 ――た、大抵の書き手は、直書きでも小マメに保存してると思う――


 と言いたかった山田だが、襲撃され殺されたトラウマで声が出ない。

 おまけに目の前にいるのは動く腐乱死体なのだ。恐怖と気持ち悪さで吐き気がしそうだ。


 他の釘バット男達も山田のデスクに立っている釘バット男と同じ動きをしているところを見ると、どうやら釘バット男の本体? は山田の目の前にいる釘バット男らしい。


(そう言えば――!) 


 山田は思い出した。

 ヨムカクコンテストが始まってから暫くして、木尾原康弘きおはらやすひろのTwitt○rのアイコンが腐乱死体のイラストになっていたことに。


(やはり釘バット男の正体は木尾原なのか?)


 今起こっていることは完全にオカルトホラーである。


「大体だな……なんで大して中身のない作品ばかりが読まれるんだ!? なんでその中身のない作品ばかり書籍化するんだ! どういうつもりなんだよ!? 中身のある面白い作品だってあるだろうがよ!!」


 ぐいっ、と山田の鼻先に釘バットがめり込むくらいにつきつけられる。


 山田とて釘バット男の言わんとしていることは解るが、良い作品でも読まれなけば会社としては選ぶことが出来ない。


 世の中は先の見えない不況なのだ。売れるかどうか分からない作品を書籍化なぞ出来ない。山田達がやっていることは遊びではなく仕事なのだ。


 それに読者選考なしのコンテストもしょっちゅう開催されているのだ。ヨムカクコンで落ちた作品がそう言う別のコンテストで選ばれる可能性もある。


 ――ヨムカクコンは読者が求める作品を見つけて選んで出版するコンテストだ――


 と言いたくとも声が出ない山田である。殺されたトラウマはそうそう簡単に消えはしないのだ。


(何も出来ない……) 


 思考と本能が相反し、恐怖で声も出せず体も動かない山田だった……。 

 


 


 




 


 


  



 

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