ヨムカク編集部山田~嘘だろオイ!?~

 見知らぬ男が釘バットでヨムカク編集部を襲撃してから数十分後。

 

 漸く駆けつけた警備員数名がそこで見たものは凄惨せいさん大量虐殺ジェノサイドが行われた現場――ではなくヨムカク編集部の誰もが……編集長だけはデスクに突っ伏していたが。他の誰もが床へ倒れて気を失っている現場だった。


 それから一週間後。


 ヨムカク編集部は平常を取り戻したかに見えた。

 が、編集長を含め誰もが心の中では怯えていた。何しろ全員があの釘バット男に殺された記憶を持っているのだ。

 

 なのに駆けつけた警備員の誰もが「皆さんは気を失って倒れていただけです」と口を揃えて言うのだ。


(そんなはずはない!) 


 ヨムカク編集部。敏腕編集者山田は自分のデスクでPCを見詰めながら強く思った。


(俺は確かにあの釘バット男に殺された。なのにあれが全てゆめまぼろしだった……のか?)


 山田だけでなくヨムカク編集部の誰もが思っていることだ。しかし、そうとしか思えない出来事であるのは間違いない。


 あのあと全員病院に運ばれ診察を受けたものの、医師が出した結論は集団幻覚だった。


 あの釘バット男が言っていた「日頃から物騒なツ○ートをしているからな」の言葉を頼りにそれらしき人物を見つけはしたが……。


 Twitt○rで物騒なツ○ートをしている男の名は『木尾原康弘きおはらやすひろ』。


 確かに編集部に殴り込みだのライバルを呪って蹴落とすなど物騒なツイートをしている。そして、木尾原のアイコンに描かれている美青年とも言えるイラストは釘バット男にそっくりだった。


 木尾原康弘なる人物がなんらかの形であの男に関わっていることは間違いないとも思える。


 だが決して事件にはなり得ない。


 何故なら怪我人も死者もいない。おまけに会社の防犯カメラの何処にもあの釘バット男の姿が全く写っておらず、あの男が存在した証拠が何一つないのだ。 


(あれから心療内科へ通院を始めた者が続出だ! ヨムカクコンテストも近いのに……どうなってるんだ畜生!) 


 思わず両のこぶしをデスクに叩きつけたくなる八つ当たりの衝動をこらえ、山田はぐっと両手を握り締めた。


 その時だった。


 ブツッ!

 

 唐突に編集部の電気が切れた。


 そしてPCの電源が一斉に落ちる。


「データがっ!」

「嫌ぁっ!」 

「ギャー!」

「……ッ!」 


 喚く者、叫ぶ者、声を失う者。

 そんな中――


『ドウシ テ レギュレーション ヲ トウトツ ニ カエタ?』

『ナゼ シソウテキ ニ キケン ナ サクヒン ガ ケイサイ サレテ イル?』

『ジャンル トシテ ソンザイ スル ブモン  

 ナノニ ヨムカクコンテスト カラ アノ ブモン ガ キエタ ノハ ナゼ?』


 他にも数多くの疑問の言葉が電源の落ちたPC画面に写し出された。


なんだこれは!?」

「電源落ちてるわよね!?」

「何やっても消えないぞ! どうなってるんだ!?」


 編集部のPC全てにそれらの言葉が写し出されている。


「サイバー攻撃……か?」


 山田はぽつりと呟いたが、これらがサイバー攻撃等ではないと本能が告げている。


 ――オカルトホラー―― 


 咄嗟とっさにその言葉が頭の中に浮かんだが、すぐさま否定する。


 余りにも非現実的だ。

 しかし非現実的な現象なら釘バット男の一件が既にそれである。


「落ち着け! 今、エンジニアに連絡した!」


 編集長の一喝が、ざわめき出した編集部を静めた。


 だが、編集長の顔色が蒼白だと気づいたのは山田だけだった。


(編集長。オカルトホラー苦手だもんな……)

  





 


 


 

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