プロローグ(2)~ワナビなWeb小説家木尾原康弘視点~絶望から憎悪へ、そして呪い?~

「あぁっ! ヨムカクコン開催までとうとう二十日を切ってしまったあ! 誰か! 誰か俺様の代わりに釘バット持参で窓川まどかわに『一生のお願いです! 生命が惜しかったら開催を延期しろ! いやして下さい!』って土下座脅迫に行ってくれる勇者はいないだろうか!」


 思わず机に、ダンッ! と両の拳を打ちつける。が――間違いなく「お前が行けよ」と言われるであろうことは想像にかたくない。

  

 追い詰められ、ポッ○ーみたいに心が折れた底辺Web小説家ワナビは、それを切っかけにじわじわと精神的に限界を向かえ始めていた。


 日頃から友人知人が、プロ作家としてデビューして行く姿を何度となく見送っているのだ。


 嬉しさと共に寂しさや嫉妬の炎を燃やしながらも、それを隠して仲間達を祝って来たのだ。


 だからこそ――


「ふ、ふふ……ふふふ、ふァーッハッハッハッハ! アハハハッ!!」 


 とうとう押し殺していた感情が爆発したのだろう……。 


 狂気じみた笑い声を聞いた彼の妻が、ドア越しに不安そうな声音で問いかける。


「な、何があったの?」


 彼は椅子から立ち上がり、穏やかな笑みを浮かべてドアを開け妻に語りかけた。


「いや、なんでもないよ。凉子りょうこさん」


 しかし彼の目は笑っていない。


「そ、それならいのだけれど……」   


 彼の穏やかな声音に少しだけ安心する様子を見せた涼子。

 

 もしかしたら何か気づいているのかも知れないが……。


「無理、しないで。ね?」

 

 涼子は彼を気遣う言葉をかけながらドアを閉めた。


「さて」


 彼は真顔になって、PCへは向かわず押入れから何やら取り出した。


 それは小説の資料として手に入れた呪術の本と道具だ。


「こうなったらもう呪うしかないな。ヨムカク編集部を……。しっかし……昼間に転寝うたたねしてた時に何やらすっきりする夢を見た気がしたんだが……?」

 

 彼が転寝しているあいだに窓川出版社のヨムカク編集部が、阿鼻叫喚の地獄絵図と化したことは知らない。


 彼の名は木尾原康弘きおはらやすひろ。 

 あの釘バット男本人でもあるが容姿が全く違う。

 釘バット男は三十代後半の美青年とも取れる容姿だったが、彼は至って普通の容姿をしている。

 

 ……彼はまだ知らない。

 

 もう一人の彼(釘バット男)が窓川ヨムカク編集部に訪れて大量虐殺ジェノサイドを行ったことを、そして窓川ヨムカク編集部に恐怖が訪れていることも……。


 何も知らぬまま彼は呪いの準備を始めた――「いや、そんなことするより書けよ!」と、ツッコミが入るだろうことは分かり切っていても、やらずにはいられなかったのだ。

 

 

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