第21話 桜色の約束は果たされず──、

「あ、姉さん」


 と、白河咲良わたしが声をかけても通りすぎていってしまった。

 せっかくの休日だからデートに行ってきたらって言おうとしたのだが、そういうわけにもいかないみたいだった。


 姉さんの頬に、てらてらと光る一筋が見えた。

 それを見て、おそらく真堂さんと何かあったのだろうと察した。


 そういえば。


 彼は永井さんを好きなのだと昨日知った。


 私はそれを忘れて、デートに行ってきたら、という明らかに爆弾発言をしようとしていたのだが──もうすでに爆破してしまったようだった。


 私は姉さんが通りすぎていった道とは逆の方向を辿って、その先に真堂さんの背中を見つけた。


「真堂さん」

「うわっ⁉ って、きみはなんでそう驚かしてくるんだよ、咲良ちゃん」

「そんなことはどうでもいいんです」

「え?」

「姉さんを、ふったんですか」

「……うん、ふったよ」


 冷静に答えている、と見せかけてじつはいろいろ気にしているようだった。

 その証拠に瞳がぐらぐらと揺らいでいる。

 下唇も噛んで、明らかに傷つけてしまったと思って落ち込んでいる。


「それはつまり、永井さんが好きだから、姉さんをふったということですよね?」

「そういうことだよ」

「……それなら、構いません」

「でも、付け加えたいことがある」

「なんです? 苦し紛れの言い訳ですか?」

「そう、かもしれないな」


 視線をそらして、はは、と苦笑する真堂さん。

 そして、すぐに私の顔を見据えて言った。


「──守りたいんだ」


 なんてことだろう。

 笑ってやろうと思ったのに。

 そんな真剣な顔で言われると、どうしようもない。


 守りたい、だなんて。


 いったい誰を守りたいかなんてわかっているけど。

 けど、もし。

 その言葉の先を向けているのが永井さんだけでなく、私たちもだとしたら。


 彼は、相当な無理をしているはずだ。


 でも、それを指摘するのは私の役目じゃない、かな。

 悔しいし、ちょっとあたまにくるけど、それでも認めるしかないだろう。


 もう、私の恋は終わったのだと。


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