第3話 流行

今日は朝から美容室にカラーとカットに出かけた。電車で20分のところにある行きつけの美容室だ。長丁場になるだけでなく、お金もかかるため、そんなに通っていないが気合いがいる。


椅子に座り、担当の男性?の美容師さんがくる。しゃべり方も声も優しそうな人だ。


私の希望するメニューでは、終えるまで3時間かかる。髪のカラーやシャンプー、カット。よくこの拘束に、自分は長時間耐えられるなと思う。


待つことは嫌いだが耐えるしかない。理想のヘアースタイルが待っているなら。


ヘアースタイルなんて自己満足だが、満足すれば己の戦闘力が飛躍的に上げる。

よく「髪切った?」って言ってほしい人がいるが、私の場合は気づいてもらわなくてもいい。挨拶みたいなもんだとわかっていても、見ればわかるだろうと思ってしまう。そうじゃなくて「似合うね」の一言が欲しい。


美容室にいると、あまりコミュニケーションとらない私でも会話をしなくてはならない気になってくる。最近はセットしている間に暇つぶしになるようタブレットを置いているところが多いが、私はタブレットを長時間手に持っていると疲れてしまうのであまりみない。やはりおしゃべりするしかない。


自分のイメージを美容師さんに聞かれる。もちろんやるからには、私の中で要望でお願いする。あまり暗い色にはしたくない。私の場合、髪を暗くすると服装も暗くなる。そうすると性格も暗そうに見えるから。実際に性格が明るいわけではないが、暗い人とは思われたくない、ちっさいプライドだ。それに、日本人はただでさえ暗い色の服を好む。



「今年はダークカラーがはやりですよ」


私を担当してくれている美容師の人が言う。もちろん暗くしたくないので、


「・・・嫌、赤系で」


流行に乗れてない私、いや、あえて乗らない。




私は美容師さんと話すとき、話題がないので、何かしら髪や美容に関わる質問している。そしたら向こうが一方的にはなしてくれるし、意外と学びになる。



今日の質問はこれ。


「”流行”って誰が決めてるんですか?」





「・・・・・・上の人」




「・・・・・」




美容師さんが言うには、えらーい人たちが今年はこれを流行らせようってきめて、それを僕らみたいな人たちやメディアが発信させていく。


そうなんだ・・・。完全に情報操作され意図的にもたらされている事実に、納得と虚しさを感じる。流行に乗っている人は、乗せられているのかもしれない。


セットが終わると、「ふっ、今日の私は一味違うぜ」と心のなかで白雪姫に出てくる魔法使いの女王のように高くわらう。私はメディアに乗せられているわけじゃない、自分の個性を主張してるという妙な安心感からか、心の戦闘力がUP。


「赤系、似合いますね」


と言われてさらに上機嫌だ。なんだってできる気がする。


最後に美容師さんが注意点告げた。


「赤の染料は一週間程度で落ちてしまうので、なるべく落ちないようにしておきますね」


心の防御力は弱かった。




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