第5話 鋭角に潜む猟犬 Hounds lurking at an acute angle

今日とToday isいう日the firstは残dayofの人生the restof最初のyour life一日、と言うけど……」


 血塗れの両親や兄姉達に “何故、助けを呼んでくれなかったんだ” と夢で責められ、真摯しんしな心持ちで日々を過ごそうとは思えない。


 溜息を零して、重度の疲労感を誤魔化しつつ職場へ出勤するも… 散々たる有様をていして、所有者オーナーに呼び出されてしまった。


「リズベル… お前、明日からいいぞ」

「え?」


 店仕舞いが終わった深夜二時、唐突な解雇通告が突き付けられる。


 それは “飼い主” の変更を意味するため、室内にもう一人いた強面こわもての男へ視線を向けた。


「彼は娼婦達の面倒を見ている人の舎弟だ」

「初めまして、お嬢さん。噂通りに器量が良いな……」


「ま、待ってください! 私、もっと懸命に働きますから!!」

「そういう問題じゃない、諦めてくれ」


 ばつが悪そうな所有者オーナー退くと、厳つい男が腕を掴んでくる。


「嫌… やめて――」


 二等市民になった時点で不本意な交わりをいられる覚悟もしていたけど、唇が震えて背筋が寒くなる。


 連日の疲労もあいまり、意識が遠のいて崩れる瞬間、誰かの声を聴いたような――




「暮らしぶりを様子見するだけの腹積もりだったが、致し方ない」


 室内に点在する鋭角の影より、忽然と湧き出た青年が赤毛の少女を抱き留め、硬直している二人と向き合う。


 いち早く正気を取り戻したのは裏稼業の男で、親しげな笑顔を浮かべてみせた。


Drドクター.ディー、あんたは神出鬼没な黒猫の同類バケモノだとボスから聞いてる。喧嘩を売るなとも… どうして此処ここに?」


「余計な詮索はするな、この娘は通りすがりの “医師” が買い取ったとだけ、ダグラスの小僧に伝えておけ」


 片手で意識のない少女を支えたまま青年は懐をあさり、手にした革袋を放り投げる。


 受け取った酒場の主が口紐を解けば、約2000£の貨幣が入っていた。


「ふむ、手切れ金としてはありだが……」


 先約の男をうかがい、頷いたのを見てから、店主はリズベルと交した契約書に宛名なしの裏書を添えて差し出す。


 それを手にした青年は少女ごと、自身の影に包まれて姿を消した。

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