第3話 日々の仕事と失敗と With daily work and failure

 私にあてがわれた部屋と店舗は大きく離れておらず、三十分ほど歓楽街を歩けば、昼営業もする勤勉な大衆酒場に辿り着く。

 

 もう少し近ければ睡眠時間が増えるのにと、愚痴を漏らして女給の更衣室に入ると先客がいた。


「おはよう、リズ… って、顔色が悪いみたい、大丈夫?」

「あ、うん、気にしないで、ただの寝不足だから」


 同時期に二等市民の扱いで都市へ連れて来られたシンディが眉をしかめ、心配そうにのぞき込んでくるけど… 私達に労働拒否の自由はない。


 所有者オーナーが耐久財を長持ちさせる感覚で、休ませた方が良いと判断したならまだしも、自らの意思で仕事を休むのは不可能だ。


 ろくな公的支援も受けられない身で “飼い主” の機嫌を損ね、寄宿舎から放り出されたら、生きていくのは困難を極める。


(… 正規のを購入するため、頑張らないと!)


 改めて気合を入れた後、店のエプロンを私服の上に着用して、仕込みに取り掛かったものの……


 連日の疲労が祟ったのか、カットレットとんかつに使う豚肉を白身魚ムニエルの粉で塗したり、まとめ持ちしたグラスを落として割ったり、空回りして料理人に怒鳴られてしまう。


 いざ正午になって店内が混み合うと、椅子の足に引っ掛かり、揚げ芋のチップスを客にぶちまける惨事も。


「うぅ、厄日だ」

「はぁッ!? 巫山戯ふざけるな! 俺の方が災難だよ!!」


 怒り心頭な客が責任者を呼べと騒ぎ、謝罪してきた料理長の所有者オーナーいきどおり、私の頬をはたく。


 深夜残業を減らしてくれたら、睡眠時間が増えてミスは減るのにと思えど、自身にも非があると考え、本日分の減給に口をつぐんだ。


「… 自分の事は棚上げするのにね」

「聞かれたら巻き添えだよ」


 小声で慰めてくれたシンディを笑顔でいさめ、書入かきいれ時の接客に勤しむ。


 その忙しさも片付いて先輩女給と一緒にまかないを頂き、やがて仕事帰りの飲み客が増えてきた頃、英国紳士風の青年と露出が多い…


 もとい、動き易さを重視した服で、鞘付きの革製リングを太腿にめ、ナイフを納めている荒事稼業の娘が入店してきた。

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