姉と暮らしていたはずが、姉の転勤のために突如として住む場所を失った高校生『鳥羽快斗』。学校側が用意した『特別寮』へ入居することになったが、そこでは既に三人の女子高校生が暮らしており、更に彼女達にはそれぞれ秘密があって――。
他人には言いにくいオタク趣味を抱える美少女達と、知識としてはオタク趣味を理解しているけど「そこに『愛』はない」と言い張る主人公。そんな彼ら彼女らの共同生活ということで、非常にワクワクする導入の作品でした。河原万智、桃山南、北浜希望とそれぞれの少女達にも個性や魅力があって、快斗とのやり取りを見ているだけでも和むような、華やかかつ色鮮やかな物語であるといった印象を抱きました。
秘められた夢や想いを持つ三人の美少女達との交流には『青春っぽさ』が溢れ、その雰囲気や空気感を醸し出す文章力もお見事でした。『京アニ作品の空気感』と言うとちょっと大げさですが、あんな感じのテイストも含まれていると個人的には思います。
そして快斗視点で語られる一人称の文章は過不足なく、読みやすさとテンポの良さに溢れていました。
しかし単なる軽快なハーレムラブコメというわけでもなく、オタク趣味への理解や受容、他人の『好き』へ向き合う態度といったテーマが、深く心へ染み入る内容にもなっていると思います。
むしろそちらが主題であり、「ラノベを図書室に置くなんて許可できない」と否定する人々へ、どうやって立ち向かっていくかという熱い展開も用意されており、そこに意外性や面白さがありました。レビュー時点ではまだ本番を迎えていませんが、どんな名勝負が繰り広げられ、そしてシェアハウスの面々は勝利を掴み取ることができるのかと、手に汗握って注目できる作品です。
ただ、主人公の快斗が広い知識を持っているため、結局オタクなのかオタクじゃないのか読者目線で曖昧だったり、『ギャルだけどオタク』や『Hな同人誌を描きたい変人』や『引っ込み思案なラノベ好きの方言女子』という各ヒロインの要素・属性も、明確には押し出されていない点が気になりました。
テンプレラノベやラブコメチックな作品と聞いてイメージするような、安易なキャラ付けや極端なフィクション性を追求する必要はありませんが、「彼はこういう性格」「この子はこういうキャラです」と簡潔に説明できて、それを読者側もハッキリ認識できるような表現やキャラ作りの工夫が、今以上に必要だと感じました。
モテモテハーレム要素やラッキースケベに溢れた、萌え萌えな作品ではありませんが、『好き』ということに向き合った青春物語としては、題材も設定もストーリー展開も魅力的だと思います。
『選書会』がどんな結末を迎えるか、今後それぞれのヒロインにスポットが当たってどんな魅力が発揮されるか、注目な一作です。