55話 公式大会は浮かれすぎる(3)
果たして、河原たちeスポーツ部は予選を通過することができるのだろうか?
――なんていう期待や不安があったのだが。
『決勝進出はこの2チーム、洛中高校eスポーツ部と大学サークルKUECです!』
予選トーナメントの結果。
洛中高校eスポーツ部は圧勝とも言える勢いで難なく予選を突破した。
そして予選トーナメント終了後、決勝戦が始まるまでの昼休み。
客席にいた俺たち3人は、この日初めて河原と対面した。
自由時間になってチームから抜けてきた河原を3人で出迎える。
「予選試合、お疲れさん」
俺が労いの言葉を掛けると、相変わらずフードを被ったままの河原はサングラスとマスクを外してあけすけにため息を吐く。
「それ皮肉? わたしほとんど戦ってないんだけど」
「うん、見てたから知ってる。社交辞令だから許してくれ」
河原の言う通り、予選トーナメントの団体戦で彼女の出番が回ってきたのはたったの1回だった。
というのも、eスポーツ部の平均レベルが高く、どの試合も先鋒から中堅の3本先取で試合が決着してしまったからだ。
大将戦を任された河原からすれば、試合を見ているだけで退屈していたのは当然だろう。
「まさか予選で私の出番が1回しかないなんてねえ」
「助っ人に頼らずに本来の実力だけで予選突破できたってことだろ。協力する身としては気楽にいられていいんじゃないか?」
「でも不満。退屈。私もゲームしたい」
河原が子供みたくぶーぶーと不満を口にする。
ゲームのことになると本当に清々しいほど正直になるのな。
「決勝ではきっと万智ちゃんの出番もあるよ! たぶん!」
そんな河原を励まそうとして北浜さんが口を開くが、最後に心の声が漏れてしまっている。
北浜さんは本心を隠すのが良くも悪くも下手だが、今はそれが思いっきり悪い方向に発揮されちゃっている。
要するにぜんぜんフォローになってない。
けれど北浜さんの心の声には同感だ。
これなら誰が5人目として出場しても関係なかったんじゃないの? とうっかり言ってしまいそうくらいの順調な勝ちっぷりだったしな。
ステージモニターに表示された決勝戦出場チームの名前を見ていた南が何気ない調子で呟いた。
「予選で見てたけど、決勝の相手チームもかなり強かったよねえ」
「その相手って大学のeスポーツサークルだよな?」
「そうそう。やっぱり大学生だから勉強しないでずっとゲームの練習してるのかな?」
「おまえ全国の大学生に謝れ……」
南の頭の中の大学生像に不安を覚えるが、仮にそうだったとしても、大学生は過酷な受験戦争を勝ち抜いた先輩たちだ。
しかも今回の相手は、全国トップレベルの国立大学に通う学生。
きっと凡人では思いつかない戦略や奇策を用意してるに違いない。……と思いたい。
あと、予選で見たときはなぜか選手全員が派手なコスプレをしていたように見えたが、あれも見間違いだったと思いたい。
河原が、手に持っていたコンビニ袋から中の食べ物を取り出しながら口を開く。
「たしかに決勝の相手は一筋縄ではいかなさそう。強い選手もいるから」
「それってもしかしてザックさんのことか?」
「そう。やっぱり鳥羽も知ってたんだ」
河原が感心した様子で相槌をうつ。
俺はスマファミの勉強として強プレイヤーの対戦動画を視聴したときに初めて知った人物なのだが、その「
実際に戦ったことはないが、人間とは思えない反応速度と緻密な操作で相手に付け入る隙を与えない戦い方が有名で、きっと素人が見ても強そうだと感じるだろう。
「勝てそうか?」
他にかける言葉が思いつかず、聞いても意味がない質問だと分かりながらそう口にした。
河原は袋から取り出したゼリー飲料のキャップをぷちんと開ける。
「ハンデなしのタイマンだったら50%ね。オンライン対戦だけど一応勝ったこともあるし」
「あのZaqに勝ったことあるのか!? それってもうプロのレベルだろ!」
「大会に出てたらそうかもね。出たことないからわかんないけど」
河原はゼリー飲料の口をくわえ、中身をちゅるちゅるコクンと飲み込んで続ける。
「しかも今回は団体戦だし。その選手さえ倒せれば他は楽勝だろうから、まあ優勝できるんじゃない?」
「すげえ自信だな」
「まあね。わたし滅多に負けたことないし」
普段はあまり見せないような不敵な笑みを浮かべると、河原は残りのゼリーをクシャリと飲み切って袋にポイっと放り込む。
「じゃあそろそろ時間だし行ってくる」
「万智ちゃんがんばって!」
「河原ちゃんファイトー!」
大声のエールを受けて少し照れくさそうにしている河原。
けれど、不安や緊張をしている様子はまったく感じられない。
すでに頑張る気がまんまんの相手にこれ以上の応援は不要だろう。
「次こそは出番あるといいな」
「そうね。私もそう祈ってる」
ひらりと手を振って選手控え場所の方へと向かっていく河原の後ろ姿を見届ける。
均整のとれたスタイルをすっぽり覆い隠すオーバーサイズのパーカーを着た女の子が、ぴょんぴょん弾むような足取りで歩いていく。
人目を逃れた彼女の後ろ姿は、まるで昼休みの校庭に遊びに行く無邪気な小学生のようだった。
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