54話 公式大会は浮かれすぎる(2)

 ついに大会が開幕した。

 会場はうねるような熱気に包まれ、周りをみるといつの間にか観客席は埋めつくされている。  

 さらには後方の立ち見エリアにまで人が溢れている盛況ぶりだ。


 この大会はチーム対抗戦のトーナメント形式。

 まずは予選が行われ、それを勝ち抜いたチームが決勝戦に進むことができる。

 出場している年齢層は、上は社会人チーム、下は中学生チームまでさまざま。まさに老若男女入り乱れてのガチンコ勝負だ。



 予選は順調に消化されていった。

 そして開幕からは数試合の後。

 ついに我らが洛中高校eスポーツ部の出番がやって来た。

 ステージ袖から両チームが登場し、列をなした選手たちが壇上の真ん中に置かれたゲーム席へと歩いてくる。


「あれ、あのフード被ってるのが河原ちゃんだよね!」


 南が指さしたのは洛中高校チームの最後尾を歩いている人物。

 ダボっとした紺色のパーカーを着ているので体格は分からないが、男にしてはやや低めの身長。

 頭まですっぽりフードで覆い、そのうえマスクとサングラスをしているので顔どころか性別も良く分からない。


「あ、そうそう。今朝の万智ちゃんあの恰好だった」

「マジで着込みすぎだろ、どんだけ身バレしたくないんだ……」


 首にかけてある出場選手の証明書がなかったら、不審者としてすぐつまみ出されてしまうような風貌だ。

 ちなみに、他の選手はいたって普通の私服を着た高校生男子。

 消去法で考えてもあれが河原で間違いない。


 河原たちは席につく前に何やら作戦会議を始めた。

 男子高校生4人にフードの不審者が1人という異様な光景だが。


「一応、eスポーツ部の人たちとは上手くやれてるのか?」

「むしろ河原ちゃんが指示出してるみたいに見えるね」

「万智ちゃんもう部活牛耳ってるんだ、すごい……」


 河原がeスポーツ部に仮入部していることを秘密にしたがっていたので心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。


 徹底的な変装をしているが、それはつまり、身バレのリスクを負ってでも大会に出てくれたということ。

 俺からのお願いがあったとはいえ、やはりゲームへの強い思い入れがあるからこそなのだろう。



 ほどなくして両チームが席に着いた。

 ステージ上には人数分の机があり、一人一台ずつモニターとコントローラーが用意されている。

 機器の調整も完了し、まもなく試合が始まる。


 今回の大会は5対5の団体戦形式らしい。

 ひとり1キャラクターずつ選択して、3本先取したチームが勝ち。

 バトル自体は1対1で行なわれるが、前のプレイヤーが敗北した瞬間、試合を仕切り直さず次のプレイヤーが試合を引き継ぐルールになっている。


 各チームのオーダーを見ると、1番手は桜井先輩、2番手は岩田くん、あとの3番4番は面識のないeスポーツ部の部員。

 そして河原は、5番手――大将――を任されていた。

 飛び入り参加でチームの大将に抜擢されるなんて、やっぱり河原の実力はとんでもないものだったらしい。

 

『それではっ、先鋒戦の開始でーすっ!』


 司会の派手なコールを皮切りに、会場が一体となってカウントダウンを始める。


 まずはこの初戦。

 なんとしても勝ち取ってもらわないと、部活で実績を残すどころの話じゃなくなる。


 どうやら俺も初めて会場で味わうeスポーツの熱気に浮かされているらしい。

 気づけば、胸の内に籠もる緊張と興奮を吐き出すように会場の声に乗せてカウントダウンを叫んでいた。

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