第二章 e-Sports編

プロローグ

34話 公平で自由な戦場

 ――たった一夜にして、私はその世界の虜になった。


 キックもパンチも刃物もなんでも御座れ。

 そんなアウトローが跋扈ばっこする世界。

 警察も法律の目も届かない、この世のどこでもない仮想の空間で、画面の中だけの箱庭。


 綺麗な鳥籠の中で育てられてきた私にとって、そこはどこまでも羽ばたいていけそうなくらい広大な世界だった。

 

 だけど、ここは決して優しい世界じゃない。

 讃えられるのは勝者だけ。

 強者に至る過程なんて誰の目にも留まらない。

 名誉も名声も勝者だけが得られる大原則は、現実あっちの世界も電脳こっちの世界も変わらない。


 現実世界でさんざん競争を強いられているのに、なんでわざわざ逃避先でも競争するの?

 世界の外側にいる人たちは、そんな風に不思議に思っているんだろう。

 何を隠そう、私もそう思っていたのだから。



 けれど、実際に身を投じてみれば分かる。

 ここは平等を謳う現実世界より、もっとずっと公平で自由な戦場だ。


 私も他の誰も、等しく有象無象の素人ルーキーの一人。

 無名でひよっ子で誰の目にも留まらないただの挑戦者チャレンジャー

 だから、誰からの期待も失望もかけられない。

 

 何のために努力するのか。

 どうやって強くなるのか。

 どこに向かって鍛錬するのか。


 全部、ぜんぶ、自分で決められる。


 そんな自由に私はずっと焦がれていて。

 その自由を得た私は、初めて「夢中」の意味を知った。


 ここは私が夢中になれる世界。

 

 だけど、私がここへ来るには密入国を重ねるしかない。

 だから明日も、私は現実リアルでいい子を演じる。

 だってそれが、密入国の偽造パスポートを持ち続けるための唯一の方法だから。

 

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