28話 ライトノベルには偏見が多すぎる(1)

「浜さん、こんな感じでいいかな〜?」

「うん、いい感じ! 南ちゃんありがとね」


 選書会の開催まであと十数分。

 は、「ライトノベル特集!」と大きく銘打たれた看板で彩られた自分のPRブースを眺めて、心のなかでよしと頷いた。

 看板には推薦書籍のヒロインである涼宮ハレノヒちゃんも描かれていて、それがまた超かわいい。かわいすぎて尊死しそう。


 それもこれも、アートセンスに長けた南ちゃんのおかげ。

 私が想像してた以上にクオリティの高いデコレーションを作ってくれた。


 今日の選書会で私に割り当てられたのは、大人ふたりが寝られるくらいの大きなテーブルひとつ。

 私が集めてきたライトノベルをひととおり並べ終えると、南ちゃんが感心そうに言った。


「こんなにたくさんライトノベルあったんですね〜」

「そうそう。意外と有名タイトルがそろってるんだよ。ライトノベルの棚に置いてる本ほとんど持ってきちゃった」


 実際、図書室で集めたライトノベルを並べたら、あっという間にテーブルが埋まりそうになった。


 もちろん私が推薦しているのはその中の1冊、『涼宮ハレノヒの直感』だけだけど、それだけを置いてあったって迫力に欠ける。

 だから、本屋さんで鳥羽くんが写真を撮ってくれていた特集コーナーの様子を参考にして、できるだけいっぱい本を集めてみた。


 確かにこれくらいの物量があれば壮観だ。

 これならライトノベルに興味がない人でもつい気になって見に来てくれるかも。


「ほえ~、隣のブースも小説推しなのかぁ」


 いつのまにか、南ちゃんはふらふらと辺りを歩き回って何気なく他の子のブースを偵察している。

 なんていうか、少しもためらわずに敵地に飛び込めちゃう恐れ知らずなところがさすが南ちゃんって感じだ。


 南ちゃんの言うとおり、ちょうど私の隣に割り当てられた子のブースを見ると、最近ドラマ化した原作小説をアピールしているみたい。

 クラスの子たちもよく話題にしてる作品だから、正直手ごわいライバルだ。


 私が推薦するのも広義には小説だけど、その中でライトノベルのジャンルに特化させてるから、それをどうやってアピールできるかが勝負の分かれ目だと思う。


 存分に歩き回って満足したのか、ようやく南ちゃんが帰ってきた。


「やっぱり浜さんのブースけっこうイケてると思う! 特徴が際立ってる感じがしてイイ!」

「ありがと。でも飾りつくってくれたの南ちゃんだから、それ自画自賛だよ?」

「ばれたか~」


 南ちゃんがニヘラと笑うのにつられて私もクスっと笑ってしまう。

 ちょっとメルヘンチックでつかみどころが無い子だけど、南ちゃんと話してると気持ちが楽になる。

 余計な緊張とか悩みとか、そういう小難しい感情がいつの間にかフワフワどこかへ飛んでいっちゃう感じがするから。


「河原ちゃんは惜しいコトしたなあ。肝心の当日に手伝いに来れないなんてね」

「まぁ委員会があるって言ってたから仕方がないよね。でも万智ちゃんがいたら変に緊張しちゃうから、これはこれでよかったかも」

「それあとで河原ちゃんに言っとくね?」

「わー⁉ いまのなしっ! お願い言わないで‼」

「冗談じょうだん〜」


 南ちゃんはケラケラ笑ってるけど、それは本当に困る。

 ちょっとした冗談でも万智ちゃんめっちゃ怒るから……。あれほんとに怖いんだもん。


 南ちゃんはしばらく笑ってからようやく息を整えて、かと思ったら今度は何かを探すようにキョロキョロ周りを見渡している。


「そういうえば、鳥羽氏は?」

「南ちゃんが来るちょっと前までいたんだけど……」


 彼は最初にちょっと顔を出したあと、忘れ物かなにかを探しに行ったきり帰ってこない。

 自由に使えるスペースが欲しいって頼まれたから、せっかくブースの3分の1を使わずに空けておいたのに。

 もういっそのこと、残りのスペースも使って思う存分にラノベコーナーを作っちゃってもいいかもしれない。


「一応こっそりメッセ送っておくね。鳥羽氏のことだから、逃げたってことはないだろうけど」

「私も疑ってるわけじゃないけど……、じゃあお願いします」


 図書室の時計を見ると、もうすぐ放課後が始まってから30分が経つころだ。

 ホームルーム後に教室で雑談している子たちも、そろそろ図書室に向かい始めるはずだから、準備にかけられる時間はあまり残っていない。


 すると、一緒に時計を見ていた南ちゃんが焦ったような声を出した。


「あっ! ごめん……」

「どうしたの?」

「わたし先生に呼ばれてるんだった……もう行かないと」

「いいよ気にしないで。南ちゃんのおかげで準備はほとんど終わったからあとは大丈夫!」

「ほんとごめんね! 結果報告たのしみにしてる!」


 南ちゃんは申し訳なさそうな顔で手を振って、小走りで図書室の出入り口へ向かっていった。

 その後ろ姿を見ていると、本当に最後まであわただしい子だなってクスリと笑ってしまう。



 ……さてと、あとはどうしようか。


 ブースはほとんど完成しているし、あとはちょっとした配置や見栄えを整えるくらい。

 それも済んだら、あとは図書室に来る人たちの様子を遠くから見守っているだけだ。


 鳥羽くんのために空けたテーブルの片側は、手つかずですっからかんのまま。

 だけど、私はとりあえず自分のスペースの仕上げだけを済ませて、いよいよやって来た見学者の邪魔にならないように、少し離れた場所で鳥羽くんの帰りを待つことにした。

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