【第九話】ギルド加入

 一週間後、少女を交えての説明会が行われた。ギルドライセンスが配られ、そしてギルド加入が決まった時、少女は何も思えなかった。ただあれだけのことで合格するなら、ギルド加入は難しくない。そう思えた。

 実際には速射ができる魔道士はそう多くなく、彼女の試験監督を務めたギルドメンバーは、数少ない速射ができる一人だった。

 講習が終わってから、少女は中庭に出た。そこで彼女を見つけてくれた双子が、待っていたからだ。

「あ、合格しちゃった」

「いや、あれって結構僕達も衝撃的だったし。って言うか、あの試験監督、一応速射できる一人だったんだけど?」

「珍しいの?」

「かなりね。さて、今更自己紹介もないけど、僕はジグリット・エルバート。こっちは……」

「レイフォンだ。レイフォン・エルバート。こいつは弟」

 ジグリットと名乗った青年は、ようやく懐から封筒を出した。それは成人の証明書で、これで様々な制限が解かれる。彼らは今までこれを見なかった。

 年末、彼らはそろって誕生日を迎え、正式に成人したのだ。ただそれと同時に依頼された試験監督のせいで、今まで確認できなかったのだ。

「なんて?」

「成人を認める通知だね。ギルドから。これで改めて、僕達は成人したわけだ。誕生日が悪かったなぁ」

「ってかおやっさん、それくらい言えよ。で、どうやって帰る?」

「飛行船でしょ、やっぱり。この時間なら早くにつくよ、多分。おやっさんには部屋を取ってもらってるし……」

 それは少女の合格を知った時にできることだが、彼らはカルナの街を出る前に、すでに頼んでいた。だから疑うことはない。そう言う理由で、カルナの街に帰ろうとしていた。

「カルナって?」

「僕達が出会った街だよ。第一次試験会場だった。で、僕達はそれの試験監督。いやぁ、さんざんに脅されて、実際に報告されてたのは驚いたけど。あ、それは失くさないようにね。ギルドメンバーを認める、ライセンスだから。個人情報満載」

 それには泊っている冒険者の宿を含めた、様々な情報が入力され、暗号化されている。そのために紛失は、かなりの痛手になるのだ。

「そう言えば君の名前は?」

「シェリル。シェリル・アルバートン。養い親が教えてくれた」

 随分と特殊な生い立ちをしているらしい。養い親は普通、孤児院の院長ぐらいだろう。個人につくことはめったにない。

「さて、カルナの街まで二日。あとは、街の空港から、冒険者の宿まで、か。ハイウェイ使ったほうが早いのは確かだけど……」

「お前車持ってきたか?」

「いや? レイは?」

「俺もだ。仕方ねぇな。空港に行くか」

 それで決まった。


 カルナの街についたのは二日後の早朝で、道具屋と飯屋しか開いておらず、レイフォンの言葉のために、彼らは軽いものを買って食べ歩いていた。

 『海洋亭』は、街の郊外の一角に立つ冒険者の宿で、シェリルが初めて泊った宿でもある。この宿に荷物を預けているのはもちろん、彼女は自分の私財も預かってもらっていた。彼女自身がそうしたわけではなく、これは勧められたからだ。

「ただいま、おやっさん。どう?」

「おう。試験ご苦労さん。嬢ちゃんはおめでとうだな。冒険者ギルドには行ってみてどうだ?」

「よく解んない。眠い」

 店主のクロードが肩を落とす。この反応は、彼も初めてだった。

「これが部屋の鍵だ。双子、行って教えてやれ」

「解った」

 あっさり頷いたのは、ジグリットである。

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