【第八話】最終試験

 少女が目を覚ましたのは、『伽藍亭』という冒険者の宿の二階。今日は最終試験のはずだ。

 ここに自分が泊まる経緯は解っている。そこまではバカなつもりはない。とはいえ、なぜかここでも、彼女は一人で泊まっている。

 そしてあの青年達は二人で、別の階に泊まっていた。なぜこの違いがあるのかは、最終試験に合格したら、解ると聞いている。

 彼女は荷物をまとめて、それを持って出た。と言っても、多少の着替えと、魔法銃の手入れ品だけ。他に荷物らしい荷物はない。だからそれらはだいたい、すぐに持ち運べるようにしていた。だからほかの荷物はなかった。

 ガン、っと音がして、思い出した。この部屋も同じなのだ。『海洋亭』は初めて連れていかれた宿で、そこでこの設備の部屋に泊められた。いまだにほとんどの荷物はそこにある。

 そして同じ設備があるからと、ここが選ばれた。つまりここに泊まるということは、同じように開けなければならないということで、彼女には、鬼門のような扉だ。それを何とか思い出して開け、廊下に出ると双子の青年が立っていた。一人が頭を抱え、一人は苦笑を浮かべてる。

「朝ごはん、食べようか?」

「うん」

 長い髪の青年が言うと、少女は頷いた。彼が苦笑を浮かべていたほうだ。


 朝食を済ませ、彼らは総支部に向かった。相変わらず飾りのない総支部の玄関をくぐり、受付で受付を済ませる。試験会場は四回の大試練場。

 少女は階段で上がろうとしたが、それを弟のほうが止めて、兄のほうはさっさとエレベーターの起動処理をしていた。それに三人で乗り込み、四階に行くと、右手に折れて、まっすぐ試練場に向かう。

 大試練場は、それなりに広く、真ん中に椅子が人数分おかれ、そして端には試験監督たちの席が設けられている。少女が椅子につくと、それを見届けて、双子は試験監督席に座った。

 試験の開始は九セル。まだ三十セルトほどある。

「へぇ、あいつ、緊張しねぇのか?」

「珍しいぐらいに落ち着いてるね」

 壁の時計を見ると、そんな会話をしていたら、あっという間に時間になった。だがまだ総支部長は出てきていない。というか、誰も出入りしていない。少女で最後だったのだ。だがそれから二セルトした頃だろうか。老人が入って来て、その後を壮年の男性が入ってきた。

「始まるね?」

「今年の顔ぶれはどうか、お前見てみろよ」

 弟の言葉に、兄は呟いた。他でも推薦状が出たという話は、『海洋亭』の店主から聞いている。だからだ。だが彼らは特に見るものはない。そう思った。

「ではこれより、冒険者ギルド加入試験最終試験を行う。これに合格した者は、晴れて冒険者を名乗ることができる。心して臨むこと。以上だ」

 総支部副支部長がいった。全員が立たされ、壁際によると、中央の椅子がかたずけられる。総数は十五席。つまり最終試験で試されるのは十五人ということだ。

 あらかじめの説明はとっくに終わっている。障害を負わせるケガ、そして死に至らしめる行為は禁止、それが発覚した場合は、試験会場からの追放。それらがどうしても付きまとう。

「あいつは?」

「あそこ。ずいぶんと気を抜いてるよ。ほんと、緊張してないみたい」

「だがそこがいいのかもな。俺らと違って」

「そうだね。今年の受験者達は、ずいぶんと気負ってるらしいし」

 彼らがそんな話をしていると、最後の少女の晩になった。少女が真ん中の開始戦に立つ。試験監督は、魔法を使わせたら最速と言われる冒険者だ。もちろん弟のほうも他生の実力は認められた、魔道士ではあるが。

「君、武器は何だね?」

「魔法銃です」

「精霊魔法が使えるのか。的を」

 ガラガラと出された的は十五。それが止まるのを待って、試験監督は彼女に視線を向けた。

「あの的に当てたら合格だ」

「単発ですか? 連射ですか?」

 それは当然の質問で、だけど自信が失ければ聞けないことだ。

「出来るのかね?」

「出来ます」

「では連射を」

 開始時間まで、指定されて、少女はまだ自然体でいた。

 そして開始時間になると、風が吹いた。それは一瞬で終わって、五セルト後、少女は開始時間と同じように断っていた。周りは結果しか解らない。

 速射魔法。そう言われる技術だが、実際にできる魔道士はいない。だいたは詠唱の時間がいる。

「ご、合格だ」

「ありがとうございます」

 その一礼で、試験は終わった。

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