【第七話】王都ウェルナ
飛空船で行った街は、カルナの街以上ににぎわっていた。春先、行楽シーズンでもあるので、少女はこれに何も言えなくなっていた。その少女を引っ張って、青年達は、冒険者ギルド総支部に向かっていた。
「どこ行くの?」
「ギルドの総支部だよ。昨日から一週間、受付されるんだ」
「何の?」
「冒険者ギルド加入試験、その最終試験の受付。それで僕らはそこに向かってる」
半分引きずられながら、少女は周りを見た。
彼女には解らなかったが、おもな観光地であるこの街に来ている。ここが王都ウェルナの街だった。それからギルド加入試験の、最終受付もされている。
加入を目指す受験者達が、ここには集まっていた。それでも少女にとっては、初めての賑わいだった。だから戸惑っている。今も。
青年達兄弟にとっては、これは当たり前の光景だった。それをすべて、何も知らない少女に見せるのは、彼ら兄弟の本意ではない。だがここで帰ることも、もちろんできなかった。
「宿はどうするよ?」
「そうだね。今から予約が取れるかどうか、だね。僕らは慣れてるけど」
「毎年のことだからな。おやっさん、いろいろ心配してたけど、大丈夫か?」
「どうだろ? 確かこっちの宿に、話は通してくれてるみたいだ」
「ならいいか。行きすぎ」
「ごめん、話してたら見逃してた」
総支部を行き過ぎる前に、兄が言ってくれた。これは弟のほうがありがたく感じた。
だいたいは冒険者ギルドの宿、冒険者の宿は郊外に作られ、各街にある支部も、だいたいは郊外だ。だから行きすぎるとすぐに解る。
二人して少女を引っ張って、総支部に入った。
受付に行くと、受付嬢が目を瞠る。彼ら兄弟は、第一次試験の、試験監督だった。それが理由だ。
「受付に来たよ」
「はい。四二六番、確かに受付いたしました。お二人は総支部長からお話があるそうですが?」
「うわ、やっぱり? 仕方ないな。この子を宿に送ってからでいい?」
「かしこまりました。総支部長にはそうご報告いたします」
少女には解らない会話で、終わった。どうやら胸につけているプレートで、受付はされたようだ。それを知っている青年達は、あっさりと総支部から出た。
「んー、やっぱりお叱りかな?」
「多分な。で、宿はどうするよ?」
「あそこしかないでしょ?」
「マジか? 俺嫌いなんだよな」
「僕だって嫌だよ。でもあそこしかないんだよね、おやっさんとこと同じ設備」
個人のことを知られない場所、と言えば、冒険者の宿でも限られてくる。それに今は試験期間中で、受験者はだいたい、無料で泊まれるのだ。
向かったのは『伽藍亭』だ。彼らが知る限り、『海洋亭』と同じ設備はここしかない。それが理由だった。
シースルードアをくぐり、彼らは中に入った。造りはだいたい同じで、左手奥にカウンターがある。
そのカウンターに、青年達は少女を連れて行った。
間違えてはならない。これは決して無理強いしているわけではない。
大きな街に行くと、少女は必ず迷う。だから二人が引っ張る形になったのだ。
「受験者連れて来たけど?」
「ちょっとあんた達、正気? また規則破りよ?」
「解ってるけど、ちょっとね。で、受付するの?」
弟のほうが珍しく、強気に出た。それにこの宿の店主は、一瞬怯んでから、すぐに背後のキーボックスから、鍵を出して、双子に渡した。泊まる部屋は、『海洋亭』と同じ、二〇一号室。
双子が案内して、それから彼らは総支部に行かなければならない。
「最終試験まで一週間あるから、ゆっくりしててね。じゃ、ちょっと僕達用事が出来たから」
「うん、気を付けてね」
少女に送り出され、双子は顔を見合わせてから、苦笑した。
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