【第四話】待機時間
説明は長かったが、その分、少女にも解りやすかった。ただ渡された鍵は、カード型のもので、少女には解らない。それで二階の端の部屋に行くと、青年の一人、長い髪の青年が鍵を開けてくれた。
「この二〇一は、試験期間中にだけ、泊まれる部屋の一つなんだ。この鍵は、普段は個人情報を入れるんだけど、今は部屋の鍵の開閉だけだね」
「でもあたし、知らないよ?」
「確かにね。君の場合、街での暮らしに慣れてないみたいだ。ちょっと来て」
言われて少女は、扉の前に立った。だが扉は開こうとしない。
「こっち、この機械にカードを通して、そのボタンを押せば青に変わるから、それで扉の開け閉めができる。基本、加入試験中だけだから」
「そうなんだ。えっと、上から下に通して、それからボタンを押す。覚えられると思う」
「って言うか、覚えて。僕達はまだ仕事があるから」
「あたしはどうなるの?」
「最終試験までは待機。退屈だと思うけど、それは我慢して。あと、お金はもうほんと、宿に預けたほうがいいな。これから食事だけど、その時に預けたほうがいい。為替まで持ってるなんて、僕も考えなかったから」
青年の言葉に頷いて、少女は渡された財布ごと、それをポケットに突っ込んだ。それから鍵を手に、青年達の後をついて行く。お腹は減っていたから。
一階の広間――ホールについて、四人席に座る前に、少女はカウンターに行った。基本はここで会話することになる。
「店主さん、これ預かって」
「……それはいいけどな、嬢ちゃん? 有り金全部はやめろ。金貨一枚。それが最低の所持金だ。金貨は一万ケレスだからな。銀貨が千ケレス、どうかは一ケレスだ。これ以上は覚えられんな」
店主はそう判断した。所持金全額を考えると、彼女には微々たる金額だ。それは見て解っている。
青年達もそばにいて、彼女の様子を見守っていた。いくら規則破りを繰り返しているからと言っても、彼らも普通に判断することもできる。今はそうだ。
「金額は俺が入れてやるから、部屋番号と受験番号、それに名前をこれに書いて、待っていろ。あとは……飯か。飯のほうは後で注文を聞きに行く。解ったか?」
「なんとなく。ありがとう」
「別に構わん。俺の仕事だ。お前ら、しっかり見たな?」
少女が書いている間、双子はそれを見ていた。金額までは解らないだろうが、部屋番号は間違えられるとことだからだ。奥に入った店主の代わりに、双子が見て、それは解った。だから金庫に入れられるのも、しっかり見ていたのだ。
実はこれは加入試験のお約束で、第三者立ち合いの時だけされる。今回は双子がいた、という理由だ。
それを店主が確認して、頷いた。これでようやく夕食である。
四人席に座って、出されたメニューを見る。少女には解らなかったので、値段で選ぶことにした。
「えっとね、えり鴨の照り焼きと、それからシーザスサラダ。あと黒パンと水」
三人が驚いた。確かにメニューには、黒パンも載っている。普段食される白パンは、注文しなくてもついてくる。わざわざ黒パンを頼む必要は、実はなかった。
店主は仕方なくそれを手に持っていた注文票に書いて、中に入った。
「兄さん、後で話があるから」
「……奇遇だな。俺もそう思ってた」
それで決まった。これは兄弟だけになるためで、他意はなかった。少女は解らないながらも、初めての試験で、そして待機になったので、何となく自分が変だと、気づいた。ようやく。
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