【第三話】加入試験

「俺はこの宿を経営している。でだ、嬢ちゃんは国境で止められなかったか?」

「えっと、国境って何?」

 そこからかと、全員がため息をついた。この少女は、規格外の無知だと、そろった三人が思った。だがこの試験を受けるのであれば、これくらいは知っておかなければならない。

「嬢ちゃんはおそらく、国境で止められて、調べられたはずだ。その証拠が胸のプレートだな。で、俺も思うんだが、寒くないか?」

 彼女の格好は、今は改まっている。街の境にある、服飾店で一揃え、双子がそろえて着替えさせたのだ。それでもまだ、この国の冬には適切な服ではなかった。

「ここは今、冒険者ギルド加入試験を行ってる。この街は第一次試験会場だ。で、この二人はその試験監督。普通は出ないもんなんだがな、受験者の前には」

「それは勘弁してよ、おやっさん。彼女の場合、見てられなかったんだ。寒そうでさ」

 真夏の格好をしていたのだから、当然だった。

 双子もかつては経験があるが、彼らの場合はいつも、互いがカバーし合って来たし、少女のように無知でもなかった。孤児は孤児院で育てられるからだ。

 それでも双子は例外だろう。彼らも一度は通った道なので、その辺はよく解っていた。彼ら双子の場合は、潰される前に試験に合格していた。

「まぁ、僕達の場合は、仕方がないんだけどさ。それよりこれからどうするか、決めない?」

 弟のほうが提案した。これでは話が進まない。それは何よりも意味のないことだ。

「うーん、嬢ちゃんの場合は、ここで合格になるんだが、ここまで何も知らなというのは、ちょっとなぁ。まぁいい。嬢ちゃんはこれから少しの間、ここで過ごせるな。双子が手を貸したことは障害にはなんねぇだろ」

「おやっさん、それだけどな。これ」

「ん? ……本気か?」

「その条件は満たしてるとみた」

「だとするとだな、生活費で一万ケレス。他の雑費とかを買うのでも、だいたいは二千ケレスか。魔法銃を持ってるところを見ると、金がないわけじゃないな」

「それがこいつ、金も知んねぇんだ」

「……ほんとかよ?」

 少しの無言が続いた後、店主はそう呟いた。出された、変哲のない白封筒。その封緘だけが違っていた。この試験の期間中にしか、決して使われない封緘だ。それが押された封筒は、店の店主しか見れない。そう言う決まりだった。

「マジか?」

「おおマジ……」

 言い切った兄のほうに、弟が頷いた。彼らで副題は立て替えたのだ。仕方がなかった。冒険者の宿以外で、店の中で荷物を開けさせるわけにはいかなかったのだから。

「嬢ちゃん、ここは受験者に対して、無料で泊まれるように解放されている。意味解るか?」

「解んない」

 即答された回答に、店主は撃沈した。双子に説明をさせることにして、背後のキーボックスに視線を向けた。

「ここは冒険者の宿。冒険者ギルド加入試験の間、試験の受験者に無料で開放されるんだ。えっとね、自由に使っていいってこと。で、君は魔法銃を持ってるでしょ? だからお金があると思われる。ここまでは?」

「何とか解った」

「よかった。で、ここでの生活は、だいたい一万ケレスもあれば間に合う。食事とか、泊まる代金はギルドが払ってくれるから。だからそれだけあれば生活できる。お金っていうのはこういうの」

 弟が出したのは、金貨、銀貨、銅貨、為替だった。為替は金額が指定されていて、この金額分を常に持ち歩くことができる。だいたいは冒険者の宿で両替が可能で、ほとんどの宿は取り扱われていた。

 金貨が一万ケレス、銀貨が千ケレス、銅貨が一ケレスだ。

「あ、それなら持ってる。えっとね、よく解んなかったから、ここにいれた」

 そう言って少女は、ずた袋の中身を探って、金貨と為替を出した。銅貨、銀貨は持っていないらしい。ようやく通じた言葉に、弟はほっとした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る