【第二話】冒険者の宿

 青年達は遅れがちな少女を振り返って、髪の長いほうが連れに戻った。彼らは髪が短い青年と、髪が長い青年がいる。弟はこの髪の長いほうだ。

 そして遅れがちな少女は、実は街の暮らしに不慣れだった。人混みの中で、必ず迷ってしまう。だから彼らのどちらかが、連れに戻るか、待つしかなかった。

「大丈夫か? あいつ」

「多分ね。あ、また違うほうに行きかけた」

 ようやく歩きだしてすぐに、少女がまた遅れた。そこで立ち止まればいいのに、人混みに流されてしまう。その方向は、街の中心街だった。

「ああ、もう。行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 待てないとばかりに、また髪の長い青年がかけて行った。世話好きの弟だと思いながら、もう一人のほうは見ていた。手を引いて戻って来て、ふうっと息をつく。それから改めて向かい始めたのは、郊外のほうだった。

 ホテルがあるのが街の中心街、郊外にあるのが宿だ。この違いは、すぐに解ることになるのだが、少女は全く意識していなかった。

 そのまま二人に連れていかれたのは、郊外の宿だった。

 髪の短い青年がシースルードアを開けた。

 誰でも出入りできるように、半透明のシースルードアは、この辺の宿に共通している。少女を連れて中に入った青年も、抵抗なくそのドアをくぐる。

 そこは広い円形のホールだった。右手奥に鑑定所があり、左手手前に簡単な道具屋が併設されているが、目を引くのはその手前、ドアをくぐってすぐから、鑑定所を挟んだ奥まで、広いホールになっていて、四人掛けのテーブルが配置されていることだ。

 この辺の宿は、すべてこの造りである。

「あー、またおやっさんに怒られんな?」

「帰って来てから言う? 僕だってごめんだよ」

 言いながら左手奥にあるカウンターに行った。髪の短い青年が、身を乗り出したのは、そのカウンターだった。

「おやっさん、受験者連れてきた」

「おう、ちょっと待て」

 中から野太い声が聞こえる。どうやら夕食の準備をしているらしい。

 この宿では、注文を聞いてから、料理を作るので、少し待たなければならなかった。だがほかの宿と違うこのやり方は、実は好評だったりする。

「ここは?」

「冒険者の宿。よくここまでたどり着いたよ。僕らがいなきゃ、潰されてたとこだ」

「いて!」

 その声に振り返ると、店主が立っていた。右手にフライパンを持ち、左手にフライ返しを持っている。この店主は左利きだった。

「いてぇな、おやっさん。……てかそのフライ返しで殴った?」

「いや。拳だ。お前らまた規則を破りやがって……」

「ごめん、見逃して?」

「無理だ。どう考えても無理だ。というわけで、嬢ちゃんは解ってねぇな?」

 少女が頷くと、双子の青年が肩をすくめた。

「説明してねぇのか?」

「街での暮らしに慣れてなくてね、ここまで連れてくるのが精いっぱい」

「つまり冒険者ギルド加入試験まで、話してねぇってとこか?」

「あたり。説明頼める?」

「しゃあねぇな。嬢ちゃん、ここは冒険者の宿だ」

「何それ?」

 全く解っていない少女だった。

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