Komachi 12


 空き教室から笑い声が廊下へ響く。三階のドン突きにある空き教室はメンバーの楽屋だ。ライブ本番までそこで待機する。……着替えの為に教室出て戻って来たけど、男子たちは支度終わったかな。笑ってるって事はもう着替えは終わったよね? パンツ一丁で遭遇とかヤだよ?


 ドアをノックすると木枯らし君に入室を促された。


 顔合わせるのちょっとドキドキするなぁ……思い切ってワックスでヘアセットとメイクもしちゃったから……変だって思われないといいけど。


 そろり引き戸を開けると木枯らし君と視線が合う。木枯らし君は目を丸くすると私を見つめる。あ……やっぱり、変だったかな。衣装とは言え店のユニフォームTシャツだし、秋なのにホットパンツ穿いてるし、調子に乗って頬にパンダさんのステッカー貼ってるし……痛かったかな……。


 引き戸を閉め、視線を逸らす。視界の端では木枯らし君がタロ君とビトーさんに背中をバシバシど突かれていた。


 さっきまで廊下に響くほどの笑い声で溢れていた教室が水を打ったように静まり返っている。……な、何か言わなきゃ……え、と、話題は……。


「思い切ってお化粧しちゃった……変、かな?」


 俯き爪を鳴らしつつ問うと木枯らし君が直ぐに答えてくれた。


「ううん。変じゃないよ!」


 そっか。よかった。痛いレベルじゃなくて安心した。私が胸を撫で下ろしていると木枯らし君はタロ君に思い切りど突かれた。わ……漫才みたい。痛そうだな……。


 いつもよりも気合が入った戯れ合いに引いて俯いていると、突然木枯らし君の声が教室いっぱいに響き渡る。


「……すんげぇ可愛いよ!」


 大胆な発言に思わず顔を上げる。しゃ……社交辞令だって分かってるけど……褒められるのは嬉しいな。急に頬に熱が帯びる。わーっ。さっきよりもドキドキする。


「パ、パンダのステッカー貼ったんだ?」木枯らし君の話すスピードがいつもより速い。社交辞令でも変な事言わせちゃったから気恥ずかしいよね、ごめんね。


「うん。緊張した時のおまじない。ジャズ研では自作のジェフ・バラードのステッカーを腕に貼ってたけど、今日は店仕様でパンダちゃん。腕よりほっぺの方がロックかなって……」私も気恥ずかしくて視線合わせられないよ……。取り敢えず笑っておこう……。


「うんうん、ロックロック。めっちゃロック」木枯らし君はヘッドバンキング並みにめっちゃ頷く。


「ふわー、良かった。変かなって後悔してたから、木枯らし君にそう言われてちょっと元気出たし安心した」


 お互いに言葉が続かず微笑み合うが、間が持たない。視線が泳いだ木枯らし君、めっちゃ困ってる。私もこの気恥ずかしい青春の一コマな雰囲気を終わりにしたい。心臓にめっちゃ悪い。さっきからBPM二二五じゃないかってくらい早鐘打ってる。これじゃ倒れて病院行きだよ……どうすればスマートに終わらせられるかな。


 口をパクパク開く木枯らし君を見つめていると言葉が見つかる。


「えへへ。良かった。お世辞でも嬉しいや。……準備で忙しい所捕まえてごめんね?」


 よし。これならスマートだ。嫌な感じじゃない。


 踵を返し、教室の後ろに置いたスクールバッグに向かおうとすると、背後で木枯らし君の声が響いた。


「コマチ!」


 え。私? 苗字じゃないの? 名前なの?


 振り向くと眉を下げて拳を握りしめる木枯らし君が私を見つめていた。何か言いたそう。もしかして嫌な感じに話を畳んじゃったのかな。取り敢えず返事をしなきゃ。


「は、はい」


「お世辞じゃないから! コマチは可愛いから! 自信持ってくれ!」


 びっくりすると同時に目の周りがきゅうと熱くなる。……苗字じゃなくて名前を呼んでくれるのすごく嬉しい。タロ君やビトーさんには渾名で呼ばれてたのに、木枯らし君にずっと『立花』としか呼ばれなかったから寂しかった。仲間って認めて貰えたようで、それ以上に親友って認めて貰えたようでとても嬉しい。それに……『お世辞じゃない』って気を遣わせちゃったけど好きな人に『可愛い』って言って貰えた。……すごくすごく嬉しいな。振られちゃったけど、色んな事があってこんなに仲良くなれた。告白しなきゃ絶対に仲良くなれなかった。


「ありがと、ジロ君」




 黒板の真上に鎮座するスピーカーから流れるFM上野を聴きつつ、ソーラン節同好会を取材するウララちゃんにメールを打つ。


『一時一五分には中庭の特設ステージの裏に集合厳守なんだけど、ウララちゃんはいつ突撃掛けられそう?』『ぽいよーん。今から撤収。一時前のジングルあたりには三階に駆けつけられそ』『ありがとう! じゃあ正味五分程のインタビューだね』『東條ってば意外とお喋りだから尺、目一杯使いそう。円周率級に終わんないなら口塞いで』『ふふふ。了解』


 携帯電話のフリップを閉じると教室を見渡す。タロ君はトランプタワーを建設し、ジロ君はストレッチ、高校を既に卒業したビトーさんは窓から懐かしそうに中庭を見下ろしていた。


 ……ビトーさん、部外者なのによくバンドに入ってくれたよね。ジロ君の話では幾度も断ったそうだ。『俺、高校生じゃなくておっさん』『バレたら大目玉だよ』『いや、楽しそうではあるけどね』『シチセー困っちゃう』とタロ君の執拗な誘いに幾度も首を横に振ったらしい。だのにメン募の相談や練習場所等、相談に乗っている内に『この子達放って置けない。年甲斐ねぇなぁ。恥ずかピーッ!』とベースを引き受けた次第だ。……バイトの時間削ってお給金も削って高校生の私達に手を差し伸べてくれた優しいお兄さん。そんなお兄さんを私たちは守らなければならない。部外者をステージに立たせるんだから先生にバレたら大目玉だもの。……ステージ登場の演出が派手な物を予定してるので(ゲリラ)、否が応でも注目を浴びる。だからステージが跳ねた後は学外へ逃走してビトーさんを大目玉から守らなければならない。先生のお説教だけならまだマシだけど、それがバレてバイトがクビになったら……そんなの絶対に嫌だ。ビトーさんは『自分の店を持つ!』って、分野こそ違うけど私と同じ夢を追いかけてるもの。


『小林中国餐厅』と記されたユニフォームTシャツを纏ったビトーさんの背を見つめていると、くるり振り返る。


「お嬢! 餃子ドッグだよ。餃子ドッグ! ちょっと買って来ていい?」ビトーさんは中庭の両端に設けられた模擬店の一つ『ドッグドッグ犬飼 三の三 A班』のテントを指さす。


「ダメですよ。何度も言ってる通り、本番前に部外者ってバレたらステージに立てません」


「バレないって。だってほらユニフォームT着てるから出前のおっさんだって。『まいどー』って」


「もー。出前なら尚更道草食っちゃいけませんよ」


「じゃあさ『餃子大好きすぎて岡持ちの餃子平らげちまったんでっす。中身下すわいっ!』って」


「お手紙ヤギさんですか。困った出前のお兄さんですね。出番は頭ですよ? ユニフォームとお揃いのバックドロップ幕がステージに飾られてるんですから、見つかった瞬間アウトです」


「お嬢はガードが固いなぁ」ビトーさんは苦笑する。


「打ち上げで舞美さんの世界一美味しい餃子を沢山食べられるんですからお腹空かせておいて下さい」


 すると餃子ドッグを一瞬にして忘れたビトーさんは顔を綻ばせる。


「うしししー。今日は餃子食べ放題ー、ビール紹興酒飲み放題でっす!」


 テレビCMで流れる曲を餃子の歌に替えてビトーさんはご機嫌でステップを踏む。……可愛いお兄さんだよね。優しいし頼りがいあるし素敵な人だよね。だのに彼女いないとか凄く意外。そういえば以前ウララちゃんが『気絶するほどめっちゃ優しくて将来の見通し立てて女の子に対してかなーり余裕があるガツガツしてない人がいい』『歳が離れてるなら尚いいかも。手に職持ってる系』って言ってたような……。ビトーさんってウララちゃんの好みドンピシャかも。……でもウララちゃんはジロ君の想い人だし、私はジロ君を応援してるし……どうすればいいんだろう。


 俯き長考しているとスピーカーから流れるFM上野が時報前のジングルに切り替わる。サプライズの時間、そして教室を出る時間だ。


 組み上げていたトランプタワーをタロ君は手刀で薙ぎ払い、ブリッジをしていたジロ君は瞬時に体重移動しバネ人形のように起き上がり、それを眺めていたビトーさんは驚いて噛んでいたガムを飲み込む。


 みんな、互いを見遣ると小さく頷き、スクールバッグやボンサック、ギグバッグを背負う。タロ君は前掛けを締め直し、ジロ君とビトーさんはサングラスを掛け、私はホットパンツの尻ポケットにドラムスティックを差す。そしてみんなで賑々しい廊下へ出る。これからウララちゃんのサプライズインタビューを受けて、逃走準備で裏の雑木林に荷物を置いてからステージ裏へ向かう。……本番までまだ余裕があるのに胸が高鳴る。


 教室を出て程なくして、人波を掻き分けウララちゃんがやって来た。カメラや音響機材を担いだ後輩の男の子たちを引き連れ、マイク片手に颯爽とリポートしている。


『渦中の人物の東條太朗ことタロ、小林紋次郎ことジロが本日、一時半より中庭特設ステージでロックバンド小林中国餐厅としてデビューを飾ります』


 こちらを凛と見据えるウララちゃんの視線やトークにタロ君もジロ君も気付いたようだ。互いに顔を見合わせている。……ふふふ。サプライズ成功かな?


「こんにちは。テレビ上野の世良せらうららです。ギタリストのジロさん、意気込みはどうでしょうか? 一言、一言お願いします」いつもの腕章『放送部・ウララ組』を付け、いつもの気怠げな雰囲気を微塵も感じさせないウララちゃんはジロ君にマイクを差し出す。


 しかしジロ君はマイクを前に固まる。……え。どうして? 球技大会の時は楽しそうに話してたのに……。心構え出来てなかったのかな……ヒーローインタビューと違うもんね……。まずい事しちゃったな……。


 すると苦笑を浮かべたタロ君が助け舟を出す。


「ジロちゃんはクールで寡黙なのよー。インタビューならタロちゃん通すのねー」


「これは全国統一模試一位の看板を守り続ける一方でスキャンダラスなボーカルのタロさん、意気込みはどうでしょうか?」


「ぶちかましてやるのねー!」タロ君は白目を剥いて両手でメロイックサインを繰り出した。


 ウララちゃんのインタビューにメンバーは楽しそうに答える。ジロ君へは『はい』か『いいえ』で答えられる質問をして、学校部外者のビトーさんには飽くまでも生徒の一人として質問し、私には『我が取材班と同じく紅一点ですね。頑張って下さい!』とウララちゃんは温かい応援を贈ってくれた。


 短いインタビューを終えると、いつの間にかギャラリーに囲まれていた。みんな、私達に興味を持ったようで『バンド?』『何時から何処でやるの?』『見に行くよー』と温かい声を掛けてくれた。とっても嬉しい。……でもこんなに沢山の人に囲まれたらステージに向かえないよ……。


 ビトーさんと共に眉を下げて笑っていると突然タロ君の声が響く。


「出エジプト神拳っ! 十戒奥義その九、モーセの海割り!」


 タロ君は高く跳躍すると掲げていた手刀を振り下ろす。するとギャラリーの人達は『何それ』『世界史か!』と笑いながら廊下の端に二手に寄った。


「お前らは既に二手に割れている! どくのよ、どくのよー。約束の地に間に合わないのねー」


 預言者タロ君を先導に、ビトーさん、ジロ君、私の順で駆け出す。スキャンダラスなバンドっぽいお茶目な逃げ方に微笑んでいると、いつの間にかジロ君に手を繋がれている事に気付いた。わ。わ。わ。大丈夫だよ。手を繋がなくてもちゃんと走れるし迷子にならないから。


 胸を高鳴らせているとタロ君とビトーさんと逸れてしまった。……先に荷物置きに雑木林に行ってるよね? 私の手を引き階段を下るジロ君の背中を見つめていると胸がきゅ、と甘く苦しくなった。……ダメだよ、私の手なんて握ったら。ジロ君の手は好きな女の子の手を繋ぐ為にあるんだから。


「もう大丈夫だよ。気を遣ってくれてありがとう。私馬鹿にノッポだから迷子にならないよ?」だから手を離して。


 振り向かずに階段を下るジロ君は少しだけ語気を荒げる。


「俺にとってはコマチ小さいから。また囲まれるのは嫌だ」


 ……囲まれるの嫌だったんだ。……そうだよね、廊下でインタビューされたら皆んなの注目を嫌でも浴びるよね。初めてのステージで緊張してるのに……なるべく笑顔を作って答えてその場を収めてくれて……すごく悪い事をした。こんなのサプライズじゃなかった。ジロ君にとってはアクシデントだった。私、無遠慮過ぎた。何も考えなさすぎた。迷惑だった……。


 階段を降りきっても、ジロ君は手を離してくれなかった。それどころか力を少し強めて少し汗ばんでる。……怒っていっぱいいっぱいで手を離すどころじゃないよね。


 下駄箱が見えるとジロ君は漸く手を離してくれた。


 謝らなきゃ。デビューなのにステージまで嫌な気持ちを引きずらせたくない。


「ジロ君、ごめんね。ウララちゃんにインタビューを頼んだの私なの。囲まれるの嫌だったんだね。気遣い出来なくてごめんね。でもねウララちゃん達本番もカメラ回してくれるから店で舞美さんが映像見られるなぁって……それに出番前にウララちゃんと会ったらジロ君元気出るなって」


 ジロ君の目がカッと見開く。


「俺、好きな子変わったから!」


 誰もいない下駄箱に怒声が響く。ジロ君はあの時……入院していた時に見せた表情をした。ジロ君は眉を顰め酷寒の地に生きる狼のように冷たい瞳で私を見据えていた。


 ……そうだったんだ。良かれと思ってやった事が要らないお節介だった。それどころかジロ君を不快にさせて深く傷つけた……大切な友達を傷つけた……。


 愚かさに項垂れ、恥ずかしくてジロ君を見る事もできない。俯いたまま声を振り絞る。


「……そっか。ごめんね。余計な事して」


 許される事じゃない。こんなにも怒らせてしまった。好きでもない子を押し付けられたら嫌だよね。しかも本番前で緊張している時にだなんて……。ステージに想いを馳せてワクワクしている所に横槍入れられたら誰だって嫌だよ……。私が台無しにした。ジロ君が紡いでいる大切な想い出を台無しにした。……でも私が落ち込んでる場合じゃないよ。私が暗い気持ちでいたらジロ君の士気に関わるもの。悪いと思うなら、顔を上げていつも通りに戻らなきゃ。ジロ君に怒られなじられるのはステージの後だ。


 顔を上げると頬に熱いものが伝う。涙だ。……いつの間にか泣いていたようだ。


 ダメだよ。泣いたらダメ。泣きたいのはジロ君なんだから。私には泣く権利なんて一ミリもない。


「……ごめんね。なんで泣くんだろ。変なの。私の馬鹿。止まれー。涙止まれー」


 ああ本当に嫌な子だ。苦しいのはジロ君なのに自分ばかり泣いて……。私なんて嫌い。大っ嫌い。……泣き止まなきゃ。


 手の甲で涙を拭おうとすると手首を強く掴まれる。驚き、ジロ君を見上げると引き寄せられ頬にキスを落とされた。涙の雫がジロ君の唇に吸い寄せられるまで……三秒ぐらいの出来事だった。


 涙も忘れ自己嫌悪も忘れ贖罪の念も忘れ唖然とした。


 頬を染めたジロ君は私から視線を逸らすと手首を軽く引く。


「行こう。仲間が待ってる」


 運動部員の勝手口がある雑木林へ向かうと、既に荷物を置いたタロ君とビトーさんが手を繋いだ私たちを見て粘ついた笑みを浮かべた。


「遅かったのねー。ほれほれ。お二人でナニやったか知らんけど早く荷物置きなさいよー」


「うるせぇな。なんもしてねぇよ!」私の手を離したジロ君はタロ君に歯を剥く。


「まー、奥さん、若い二人ですものー青春の一コマしたんでしょうよー」ビトーさんは手の甲を思い切り逸らし口許に添わす。


「んまー、ハ・レ・ン・チ・学・園っ!」タロ君もビトーさんと同じポーズを取る。


「破廉恥してねぇって! ほっとけ!」頬を真っ赤に染めたジロ君はギグバッグを下ろす。


「あらー、本当ー? ねぇ立花のお宅のコマチちゃん、大丈夫だった? 狼されなかった?」おばさんを演じるビトーさんに絡まれる。


「は、はい。何もありませんでしたよ」


 タロ君とビトーさんは唇を尖らせる。


「うそーん」


「つまんねーっ」


「ふふふ……ごめんなさい」


 本当は心拍ぶっ飛んじゃう事があったけど、いじられるジロ君を守る為の一言を発する。しかしジロ君は少し悲しそうに眉を下げた。


 荷物を置き、集合場所のステージ裏へ向かうと既に参加者達が集まっていた。軽音の子達やジャズ研のメンバーもいる。テラっちやリーダーの顔を見ると少し胸がちくりとするけど、今は大切な仲間と最高に楽しい事をやっている。そう思うと笑顔で手を振れた。


 袖からステージを覗くと、ジロ君の愛器サブローを始め、ビトーさんのベースのホクシン、パパの会社のロゴが入ったドラムがセッティングされてる。……学校でスローンに座るのは久しぶりだ。みんなの背中を眺め、観客を見下ろす……玉座に座る王様になった気分を味わえるのはドラマーの特権だ。ホリゾントに引っ掛けられたバックドロップ幕は『小林中国餐厅』の国旗だ。いつも目立たないけど今日は私が王様。胸を高鳴らし、一人でクスクス笑んでいるとタロ君が『思い出し笑いなんてコマっちゃんスケベねぇ』と揶揄った。


 スタッフに点呼を取られた後、タロ君はひたすら跳躍し、少し離れた所で背を丸めて屈んだ万年留年生ビトーさんはパンフレットを眺め(みんなの注目の的になってる……)、ジロ君は軽くステップを踏んでいた。……みんな各々緊張を解している。


 メンバーを眺めているとジロ君と視線が合う。切長の綺麗な目が私を捉えると下駄箱での出来事を思い出してしまう。……キスって好きな子にしかしないよね? 外国の挨拶のハグからのキスじゃないよね? ジロ君は吉嗣さんと舞美さんから生まれた生粋の日本人だしハンサム侍だし中華料理屋さんの子供だし違うよね? え、でも中華料理の国の挨拶で普通にキスがあったらどうしよう。


 やっと掴んだ小さな希望が潰れるのが怖くて途端に視線を逸らそうとするが慌てて首を横に振る。ジロ君はそんな人じゃないよ。だって今までずっと一緒に仲間として過ごしてきたもの。……私のこと、好きだって……自惚れてもいいよね?


 微笑みかけると眉を下げたジロ君は視線を逸らしてしまった。

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